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愛は歴史を救う~強さ・美貌・巨乳フル装備武将っ娘!・呂布編~

愛は歴史を救う~強さ・美貌・巨乳フル装備武将っ娘!・呂布編~

小説:田中 創 イラスト:TCB

 しんって言葉を知ってるか?

 まあ、実はあたしもよくわかってねえんだけどな。

 聞いた話じゃ、「歴史上のヒトやモノを変異させ、並行歴史パラレルワールドを生み出す謎現象」……ってことらしい。現代の技術でも、原因不明なんだってよ。

 んで、その並行歴史だかが増えると、宇宙が崩壊しちまうらしいぜ。ぶっちゃけ想像もつかねーけど……それを防ぐために、誰かがなんとかしなきゃなんねえわけだ。

 そう。つまり、それを行うのがあたしたちTHR――こうきょくれきかんってことだな。

 時空を超えて、過去の世界に赴き、変異した歴史を修正する。一応、それがあたしらの仕事になってる。

 まあ個人的にゃ、強い奴と闘えりゃあそれでいいんだけどな。せっかくの時空移動タイムポートなんだから、歴史上の猛者どもと闘わなきゃソンだろ?

 ちなみに、THRにいる連中も、時空を超えて集まってきた偉人ばかりだぜ。

 ある意味で怪物級のカリスマの持ち主。皇帝ナポレオンこと、ナポ子。

 知識と毒舌じゃ右に出るものはいねえチビッ子。哲学者アリストテレスこと、アリス。

 とんでもねえ機械を作っちまう恋愛脳。発明王エジソンこと、アル。

 三人とも、時震の影響を受けた偉人少女らしいな。あたしみたいに。

 で、そんなあたしたちをまとめてるのが隊長さん――御戸ミツキだ。

 基本は情けねえし、腕っぷしも大したことねえ軟弱男なんだが……まあ、見どころがないわけじゃねえ。なんだかんだでみんなにも慕われてるみたいだもんな。

 任務のたびに現地の女の子と仲良くなっちまうのは隊長さんの悪い癖っつーかなんつーか。まあ英雄色を好むとも言うし、あたしは別にいいと思ってるけど。

 そんな隊長さんが、果たして時震の謎を解き明かすことが出来るのか。

 隊長さんの想いは、上司、フレドリカ姐さんへと伝わるのか。

 ……後者については、まず無理だと思うけどな。

 まあともかく、だ。

 これは、あたし――りょほうせんが、そんな隊長さんと初めて出会ったときの話だぜ。

 舞台は、千八百年前の中国。群雄割拠の時代だな。

 

 

 アリスとのめは、まきに語った通りだ。

 その後、僕はめでたくこうきよう歴史管理課――THRの正エージェントとなり、フレドリカさんから実務隊長の任を引き継ぐこととなった。

 ただの公務員に過ぎないTHRのリーダーが、なぜ「隊長」と呼ばれているのか。

 常々疑問だったのだが、エージェントになってすぐにその理由はわかった。それは、任務があまりに過酷だからである。

 時空修正のために命がけの状況に放りこまれることはザラだし、現地では相当に柔軟な対応が要求される。おまけに時空酔いは毎回ひどいし、取り立てて給料がいいわけでもないしで、数日で辞めてしまうひとも多いんだとか。

 なのでTHRは、航時局内で「下手な軍隊よりも過酷だ」とか「むしろ決死隊だろ」とかされてしまっているのである。だからこそ、そのリーダーも「隊長」というわけだ。

 それにしても……そんなストレスフルな修正任務のみならず、課長としてのデスクワークをも並行してこなしていたフレドリカさんって、やっぱりすごい。ただ美人で優しいだけのお姉さんではないのだ。

 僕もこの当時、彼女の期待にこたえるべく、隊長として必死に努力することを決意し始めていた。

 あっちこっちの時代に飛ばされる毎日を送り、任務にもようやく慣れてきた――。そう思えるようになったのが、「入隊」一か月目くらいだろうか。

 僕があの武将娘と初めて出会ったのも、ちょうどその頃だった。

 

 191/2/21 中国なんしよう ろうかん

 

 しい叫びと武器が打ち合う金属音が、荒野に響きわたる。

 時は西暦一九一年。河南省ていしゆう西北部において、ようさい〝虎牢関〟を巡っての激しい攻防戦が行われていた。

 要塞を攻めるのは、五千にも及ぶとうばつ軍。

 対して要塞を守るのは、たった五百の騎馬隊である。

「お、おびえるな!! 頭数はこっちが多いんだ!!

「数で囲めばなんとか……うわあああああっ!!

「ひと振りで百人がやられただと!? なんだあの化け物武将は!?

 数でまさるはずの討伐軍は、たったひとりの武将さえ討ち取ることが出来なかった。むしろ明らかな劣勢をいられてしまっている。

 そうなのだ。いま僕の目に映っているのは、地面に倒れてうめく討伐軍兵士たちの姿だ。

 まさにるいるい。このさんじようのほとんど全てが、ひとりの少女の手によって引き起こされたなんて、いったい誰が信じるだろう。

「どうしたテメェ。それでおしまいか」

 少女の冷酷なまなしが、馬上から僕を見下ろしていた。

 ふたつに結った長い黒髪。武具のすきからのぞく魅惑的な白い生足。スリムなたいに不釣り合いなふたつの膨らみは、こぼれそうなほど大きい。

 としは僕と同じくらいだろう。血風吹きすさぶ戦場なんかには到底似つかわしくない、とびきりセクシーで魅力的な美少女だった。

 特に目をくのは、彼女が身にまとう服装だ。妙に挑発的なデザインで、谷間も鎖骨も太ももも、全て惜しげもなくさらされている。有り体に申しまして超エロいです。

 ただまあ……手にした巨大なげきだけが、ちょっと怖すぎるんだけど。

「ひと思いに真っ二つにしてやる。呪うなら、テメェの弱さを呪うんだな」

 少女が僕の顔面に、その戟の先端を突きつける。

「ひっ……!?

 僕はしりもちをついたまま、微動だに出来なかった。下手をすれば、ひと息のうちに僕の身体からだは左右に分割されてしまうだろう。絶体絶命の大ピンチだ。

 せんせんきようきようとしながら少女を見上げ、僕はなんとか交渉を試みる。

「ちょ、ちょっとタイム!! あ、あのね、僕はキミと戦争しに来たわけじゃないんだよ? その、まずは落ち着いて話し合いを――」

「問答無用っ!!

 少女が戟を思いきり高く振りかぶった。

 風を切り裂く鋭い刃が、僕の脳天めがけて振り下ろされる――!!

 僕はとつに、準備してきた護身用具スタンロツドで刃を受け止めようとしたのだが、

「げ」

 握っていたそれは、少女の戟によってあっけなく一刀両断されてしまった。それはもう、小枝のごとくにあっさりスパンと。

 このスタンロッド、特注のタングステン合金製だとかで、チェーンソーでも簡単には切断できないという触れこみだったはずなのに……まさか二世紀の鉄の刃に断ち切られてしまうとは思わなかった。

 どういう馬鹿力してんの、この子。

「そんな棒っきれで、このほうてんげきを受け止められると思ってんのか。あたしとるつもりなら、もっとマシな得物を持ってこいよ」

 そんなこと言われても、武器っぽいものはこれしか支給されていないんだからしょうがない(THRは殺傷用の武器の携行は認められていないのだ)。

 まあたとえマシンガンやロケット砲があったところで、この化け物じみた偉人には通用しない気がするけれども。

「と、とにかく落ち着いて!! 僕はキミの敵じゃないから!!

 それだけ叫び、僕は地面をって走り出した。

 唯一の護身用装備すら失った僕に出来ることは、とにかくこの危険な少女から距離を取ることだけである。三十六計、逃げるにしかず。

「待て!! テメェも武人のはしくれなら、逃げないで戦え!!

「だから武人じゃないってば!!

 そんなこちらの弁解は、この黒髪少女の耳にはまったく届かないようだった。

「戦場で言い訳をするんじゃあねえっ!!

 突き出された戟の先端が、僕のわき腹をかすめて地面に突き刺さる。

 ばきん、と響く、鈍い破砕音。驚くべきことに、その一撃だけで岩肌が粉砕し、直径一メートルほどのクレーターが誕生してしまっていた。

「うそーん……」

 まるで建設重機並みの破壊力。さすがアリスの言う通り、〝武力〟の偉人というだけのことはある。

 戟の一撃がこの崩壊した地面でなく、僕の身体に当たっていたらと思うと……全然笑えない。こんなのをまともに食らったら、命がいくつあっても足りないではないか。

 少女の鋭い眼光が、僕をすくめる。

「おい腰抜け。ぺちゃんこにつぶされるのと真っ二つに斬られるの、どっちがいい?」

「最悪の二択!?

 少女のこわいろから、それが冗談でないことは容易にわかった。

 なにせこの時代の中国は、情けようしやのない大乱世なのだ。そのうえこの目の前の少女は、その乱世の中で当代最強との名声をほしいままにしている、血も涙もない武将娘だったりするのだから。

「選べないなら、あたしが選んでやる。後悔しねえようにな」

 少女の声には、しゆをくぐってきた者特有のすごみがあった。実際に何人もの敵を、その凶悪な戟でほふってきたに違いない。

 このままでは間違いなく、ミツキくんのか弱いボディは「ぺちゃんこ」か「真っ二つ」のどちらかの運命を辿たどってしまうことだろう。数秒以内に。

 こうなればもう、最後の手段を使うしかない……!!

「うう……す、すいません、ホント勘弁してください……!!

 僕は咄嗟に地面に両手両ひざをつき、深々と頭を下げた。

「ああ?」

「ど、どうしてもここで死ぬわけにはいかないんです!! 僕の帰りを待っているひとがいるんです……!! どうか許してください!! 靴でも足の裏でもなんでもめますから!!

 誠心誠意の土下座――!!

 ミツキの生存本能は、ほこりもプライドも何もかも捨てることを選択したのだ。

「ぼ、僕なんて殺しても何の意味もありませんよ? 仲間からはゴミだくずだと言われるだけのしょうがない男ですしね。ヘタレですしね」

「ヘタレだと」

「ええもう、せいぜい謝罪くらいしか能のないチンケな存在ですから。あなたほどの人物を敵に回すなんて、そんな大それたことするはずないじゃないですか」

 このジャパニーズ最終手段リーサルウエポンが、果たして古代中国の武将相手に通じるのか。それはひとつのけだった。しかし、僕が愛するフレドリカさんと生きて再会するためには、もはやこの方法しか考えられなかったのである。

 情けなく頭を下げる僕を、少女が汚物を見るような目で見下ろした。

「……ふん、確かにテメェは敵じゃねえな」

 ん? これは好感触?

「そ、それじゃ、許してくれるってことですか?」

「違う。きようめだって言ってんだ。虫けらを殺したところで何の意味もねえ」

 退屈そうに僕から視線をらし、少女はづなを引く。

 彼女を乗せた赤毛の馬が「ひひん」と身を震わせ、僕の前からきびすを返した。

「あたしが戦いたいのはつええやつだけだ。テメェみたいなぞうひようの首に興味はねえよ」

「ぞ、雑兵ですか……」

 反論できないけど。

「テメェらの大将に伝えておけ。義妹いもうとたちを取り返したいなら、このりよほうせんと一騎打ちが出来るくらいのを連れてこいってな」

 そう言い捨て、少女――呂布は僕の前から遠ざかっていく。

 土下座が功を奏したのだろうか。彼女は、付近で戦っている騎馬兵たちに帰還命令を下し始めた。

退くぞテメェら!! あいさつはもうこのくらいで十分だ!!

 周囲から「うおおお!!」と野太いときの声が上がる。

 呂布配下の五百の兵隊たちは、少数ながらいずれも鍛え上げられた精鋭ばかりだった。端的に言えばみなさん、めちゃめちゃ体育会系なのである。超強そう。

 すっかり戦勝気分の兵たちを引き連れ、呂布はそのまま要塞の中へ戻っていく。

 門の前に残されたのは、壊滅状態の討伐軍と、土下座スタイルの僕だけだった。

「た、助かったみたいだ……。よかった……」

 心からのあんのため息がれる。少しチビってしまっていたのは内緒だ。

 放心状態のまま、ぼんやり巨大な門を見守っていると、

「全然よくないですよ」

 背後から冷たい声がかけられる。

「女の子に土下座してまでいのちい。よくもまあそんな情けないことが出来ますね。ああいう場面、男ならいさぎよく戦って散るべきでしょう」

 銀髪の小娘――アリスが僕を思いきり見下していた。

「いや、散るのはさすがに……ねえ?」

「ねえ、じゃないです。恥ずかしい真似するくらいなら死ねって言ってるんです」

 アリスの毒舌が、今日もまた僕のハートをえぐる。

 彼女は古代ギリシャからやってきた哲学者で、数週間前から同僚として一緒に働いているTHRエージェントである。

 本来は本部勤務のオペレーターなのだが、人手不足のためにこうして現場に駆り出されることがままあるのだ。フレドリカさんは課長業務が忙しそうだし、プラトンさんは学園に帰っちゃうしで、実働部隊が僕と彼女しかいないのである。

 ともあれ、こうやっていくつかのしんトラブル解決に共に赴くことで、僕たちの間には同僚という枠を超えた、ほのかな絆のようなものが芽生え始めていた――

 はずもなく。

 相変わらず僕に対するアリスのぞうごんは、ただただしんらつなものだった。

「御戸さんが『人質解放交渉は任せてくれ』なんて言うから任せてやったのに……なんですかあのていたらくは。ゴキブリよろしくただ逃げ回ってただけじゃないですか」

「でも、逃げないと殺されそうだったし……」

「人質の命がかかってるのに、自分の心配とはお偉い立場ですね。あなたみたいな恥さらしを、課長が好意的に評価すると思いますか」

「い、いいえ、返す言葉もございません……!!

 ひとりでクールに事態を解決すれば、きっとフレドリカさんが僕をめてくださる――。そう思っての単独説得工作だったのだが、そのもくはまったく甘かったようだ。

 なにせあの呂布という武将娘、こちらの話をまるで聞きやしないのである。

 アリスの小言はくどくどと続く。

「腕っ節は弱い。頭も悪い。おまけにルックスもパッとしない。あなたみたいなのを隊長としてうやまわなきゃならないなんて最悪です。なんかの罰ゲームですかこれ」

 うう、泣きそう……。

 フレドリカさんから引き継いだばかりの新米隊長だけど、僕だって頑張ってるのになあ。こんな戦場じゃ土下座くらいしか能がないけど、精一杯やってるのになあ……。

 僕が毒舌幼女に向けて本日二度目の土下座をキメようとしていると、

「まあまあアリスちゃん、そのへんで許してあげっぺよー」

 横合いからのんな声がかけられた。

 ゆったりした陣羽織を身につけた、サイド三つ編みの女の子だ。

 身長はアリスよりもちょい高めくらい。コスプレが趣味の田舎の中学生と言っても通るだろう。腰に差した物々しい剣が、その小柄な体型にはまったく似合っていない。

 なんだかしまりのない顔で、にへら、と笑っているこの少女こそ、なんとこの討伐軍を仕切っている大将――りゆうげんとくさんなのである。

「あの呂布って女、どう見だってバケモンだべ。地面だの岩だの平気で割っちまうしよ。普通の人間じゃまんずち出来ねえべよ?」

「それはそうですが」アリスが眉根を寄せる。

「ミツキくんもミツキくんなりに精一杯頑張ってくれたべ? こごはねぎらってやんのが女の優しさってやつだべよ」

「でも劉備さん。あの虎牢関の中に捕らわれているのは、あなたの義妹たちなんですよ?」

 アリスの言葉に、劉備さんは「あー」と後ろ頭をきながら、

かんちようなあ……。そりゃまあ、確かにマズイとは思っとるけど」

 本当にマズイと思っているのかどうか、劉備さんはうんうんうなずきながら笑みを浮かべているだけだった。器が大きいのか、ただぼんやりした性格をしているだけなのか、判断に困る大将様である。

「先ほどもご説明した通り、私たちは、そのふたりを救出するために派遣されてきたんです」

「ティーエイチアール……だっけ? よっくわかんねえけど、ご苦労様だべな」

「それが我々の仕事ですからね」アリスが淡々と続ける。「任務達成こそが最大の目標なんです。屑がちょっと頑張ったところで、成果が出ないんじゃ意味ありませんよ」

「……はいはい、すいませんでしたね。人質も助けられないような屑で」

 ため息をつきながら、ゆっくりと立ち上がる。

 そう。今回の任務は、『呂布に捕らわれた人質二名を救出すること』だった。

 しかしこれがまた、難易度ベリーハードなミッションなのである。だって呂布奉先といえば、「三国志」でも最強クラスの武将なんだから。

 あらゆる武器を使いこなしたごうけつで、群雄かつきよの世にその名をとどろかせた偉人。現代日本でも、しょっちゅうゲームやマンガの題材になっているくらいに超有名な英雄だ。歴史にうとい僕だって、その名前くらいは知っている。

 特にこの〝虎牢関の戦い〟では、呂布の活躍はめざましいものだったらしい。なんでも劉備さんたち三兄弟を相手に、一歩も退かぬ「空前絶後」の激闘を演じたとか。

 そんなのとガチバトルしなきゃならないって……ちょっと気が遠くなる。

「本来の時間軸であれば、呂布奉先はこの戦いで虎牢関を放棄して撤退するはずでした。劉備さんたちの勝利に終わるはずだったのです」

 そう言いながら、アリスが戦場をへいげいする。

 荒野に倒れ伏しているのは、いずれも劉備さん配下の討伐軍の兵隊たちだった。

 武将ひとりに五千人の軍を壊滅させられちゃったというこの惨状――勝利どころか、大敗北もいいところである。

「時震の影響でしょうね。あの武将、常識では考えられないほどの超人的な戦闘能力――〝武力〟を得てしまったようです。そのおかげで、歴史変異率は現在四十パーセント付近です。どんどん並行歴史パラレルワールドが生まれつつあるのですよ」

並行歴史パラレルワールドなあ……。あたしにゃ、そのへんの小難しい話はよくわがんねえけども」

 劉備さんが困ったような笑みを浮かべた。

「関羽と張飛――うちの義妹たちも、かなり強いはずだったっぺよ? それがあっさり捕まったっちゅうのは、相当ヤバイことだっぺ」

 関羽さんと張飛さんというのもまた、三国志では有名な豪傑だ。

 にもかかわらず、この時間軸においては呂布に一太刀も浴びせることすら出来ずにとらわれの身となってしまっているらしい。

 ただでさえ最強とうたわれている呂布奉先が、時震によって更なる戦闘力を獲得してしまった。そのせいで、この時代のライバルたちでも手がつけられない存在になっている……と。

 今回の事象変異は、つまりそういうことなのだ。

 劉備さんが「なんだかなあ」とため息をつく。

「あんだけ強いのに、なんで人質なんて取ったんだべね。あたしの首を狙うだけなら、普通に攻めるだけで勝てっぺよ」

「さあ、それは私にもわかりません」アリスが肩を竦める。「ですがこのままでは、劉備さんや義妹さんたちの命は、間違いなく危機に晒されてしまいます。それは確かですね」

「んだなあ……。なんとか解決策を見つけねえとなあ」

 頭を抱える劉備さん。

「んでも義妹たちがいねえと、あたしてんでダメだかんなぁ……。作戦もなんも、まったく思いつかねえ。ああ、ホントどうすっぺ……」

 妙に弱気で頼りない大将さんだった。のんびりしているというか、ぼんやりしているというか……。会話をしていてちょっと不安になるレベルである。

 やはり劉備さん本人がおっしゃる通り、よっぽど義妹さんたちのサポートが優秀だったということなのかもしれない。

 劉備さんが、深いため息をつく。

「こうなったら呂布の要求通り、あたしが一騎打ちするしかないんだべか」

「それはダメです」僕はすかさず首を振る。「そんなことしたら劉備さん死んじゃいます。要救助者を見殺しになんて出来ません」

 僕がTHRエージェントである以上、そんな選択は絶対にとれない。

 劉備さんたちを助けられなかったら、歴史はさらに歪んでしまうだろう。そしたら宇宙がヤバイし、フレドリカさんにあい尽かされてしまう。いろいろな意味で僕は破滅だ。

「義妹さんたちは僕がなんとかしますから。劉備さんは安心して待っててください」

「そう言ってくれる気持ちはうれしいだよ」劉備さんがにこりと笑う。「んでも、このまま要塞攻めしても、勝てる見こみはまったくねえべ?」

 確かに彼女の言う通りかもしれない。

 虎牢関の門は堅く閉ざされ、劉備さんの配下の兵隊はみな満身そうの状態だ。このまま真っ向から戦いを仕掛けても、人質を解放するのはまず無理だろう。

「やっぱりここは、あたしが犠牲になるしかねえべ。これでもいちおう義妹たちとは、『死ぬときは一緒だ』って約束してっからな」

「ああ、そうなんでしたっけ」

 僕のうろ覚えな三国志知識によれば、劉備さんたち三兄弟の絆は強固なものらしい。互いの信頼によって数多あまたの死線をくぐり抜け、いずれひとつの国をおこすまでになるはずなのだ。

 命がけでお互いを助けたいという覚悟は当然のことだろう。気持ちはわかる。

「ふむ……義妹さんたちを思いやる心、実にお美しい」アリスが興味深げに頷いた。「想いを寄せ合う女の子同士が、身をていして互いを助け合う……。いいですよねえ。同性同士の一線を越えた友情って」

 現代で知識収集を始めたこの哲学娘のこうは、最近変な方向に歪みつつあった。

 哲学者としてのさがなのか、もって生まれた変人気質のせいなのか、妙にマニアックな方面の知識に惹かれているようなのである。

「劉備さんたちのえんの誓い……守らねばなりません」

「あれ? 百合じゃなくて桃――」

「細かいことはいいんです。花咲き乱れる庭園で姉妹スールの誓いを立てれば、それは立派な百合なんです。マリア様だってきっとそう言うに決まってます」

 マリア様ってなんだ。

「ともかくですね」アリスが鼻を鳴らした。「御戸さんごとき土下座野郎に事態の解決を任せておくわけにはいきません。美少女同士のキャッキャウフフを愛する者として、ここは私がなんとかしましょう」

「なんとかって?」

「とっておきの手があるんです。私なら、確実に義妹さんたちを奪還できます」

 そういうアリスの顔は、心なしか得意げである。

「んん? アリスちゃん、なんかいいアイディア思いついたんだべか?」

「ええ。なんたって私、〝博識〟ですから。古今東西の軍略にも精通しちゃってますから」

「それは頼もしいべ!!」劉備さんも顔を輝かせる。

「こう見えて〝ギリシャのしよかつりよう〟と呼ばれた女ですからね、私」

「絶対ウソだ……」

 あきれる僕をよそに、アリスは自らの計画を劉備さんに語り始めた。

 三国志最強の武力VS.西洋最大の博識。いったいどんな結果になるのか、まるで想像もつかない対戦カードである。

 でもまあとりあえず、ここはこの哲学娘の手にゆだねるしかないのだろう。

 他に手段もないことだし。

 

 191/2/21 虎牢関 門前

 

「……で、これがその軍略の結果だと?」

 疑問をていする僕に、アリスは表情を変えず「はい」と頷いた。

「これこそ私の英知が導き出した、最良の策ですね」

「いや、ちょっと待って。まず説明してくれない? なんで僕、しばられてるの?」

 そう。なぜか僕は今、虎牢関の真ん前ではりつけにされてしまっていた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

 

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