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BLEACH WE DO knot ALWAYS LOVE YOU

原作:久保帯人 小説:松原真琴
見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の侵攻から3年。多くの命が失われ、戦いの傷跡は未だ癒えずにいる。生き残った者たちはようやく復興の道を歩み始めようとしていた。
そんなある日、朽木ルキアと阿散井恋次は、籍を入れることを皆に告げた……。本編で描かれなかった、戦いの果てから生まれる新しい絆を巡る物語――。

 見えざる帝国ヴアンデンライヒによるせいれいていへの侵攻から、三年。

 混迷をきわめた尸魂界ソウル・ソサエテイにも、ようやく日常が戻りつつあった。

 

 一番隊隊舎・たいしゆ会議場。

「それではこれより、てい十三隊定例隊首会を始めます。総隊長」

 一番隊副隊長・ななにうながされ、同隊隊長であるきようらくしゆんすいが一つうなずき、前に出た。

「みんな忙しい中悪いね。今日は復興状況の報告だけだから早くむはずだよ」

 各隊の隊長副隊長が居並ぶ会議場をぐるりと見渡す。建て替えられたばかりの会議場はどこもまあたらしく、すがすがしい材木の香りに満ちていた。

「はぁ……木のにおいっていいよねぇ。じゃ、あとは七緒ちゃん、よろしく!」

「はい。ではまず……」

 あつい資料をめくりながら、七緒が復興状況の報告を始める。その声に耳を傾けながら、京楽は三年という月日を思った。

 

 瀞霊廷内で最も被害が大きかったのは、一番隊隊舎や数多くの行政せつを含む中央一番区────通称〝しんおう区〟であった。

 戦時特例として、中央四十六室がみずからの居住区域であるせいじようとうきよりんを開放したことで、避難した民衆の命は救われた。しかし、戦乱後地上へ戻った彼らが目にしたものは、破壊の限りをくされた一面のしようどだった。家屋を建て直そうにも物資も人手も不足しており、皆がただただ途方にくれる中、いち早く復興へとあゆしたのは、中央四十六室が一人、かどナユラだった。

 あいぜんすけに殺害された父の地位をぐ形でけんじやとなったナユラは、まだ幼さの残る少女である。尸魂界ソウル・ソサエテイにおけるすべての事象・情報が強制的に集積されるだいれいしよかいろうの筆頭司書でもある彼女は、柔軟な姿勢で現世や死神について学び、旧態ぜんとした四十六室のり方を変えるにはどうしたらよいのか、日々さくしていた。

 そんな折に起きたのが、星十字騎士団シユテルンリツターによる地下議事堂の襲撃である。半数は殺され、生き残った者たちも大なり小なり傷を負った。体はえてもぎやくさつたりにした恐怖はぬぐえず、辞席を申し出る者があいぎ、もはや中央四十六室に戦前のような最高司法機関としての働きは期待できそうになかった。

 しかしその状況を前に、ナユラは今こそ変革の時だとふるった。意気消沈する老賢者たちをしつし、護廷十三隊総隊長である京楽と連携して次々と臨時法を制定した。若いたましいは前進することを恐れず、その熱に感化された老人たちも、わずかずつではあるが変わり始めていた。

 戦後、彼女はさきに通廷証の手続きを簡略化する法をさだめた。通廷証とは、コンがいから瀞霊廷へ入る際、各瀞霊門の門番に提示しなければならない証書である。本来数週間を要するはんざつな手続きをなければ手に入らなかった通廷証を、各門前に設置された臨時のにんべつろく管理局で簡単な手続きさえすれば入手できるようにした。これにより、瀞霊廷外からの資材はんにゆうようとなり、流魂街のたみを広く労働力として迎え入れることが可能となった。また、臨時人別録管理局では指紋の登録と同時に霊力がチェックされ、ようがある者には死神の育成機関であるしんおうれいじゆついんへのかんゆうも行われた。この法により尸魂界ソウル・ソサエテイが受けた恩恵ははかれない。

 資材と人手がそろい、復興は急速に進んでいった。

 

「報告は以上となります」

 七緒が一礼して下がる。京楽は「さて!」と胸の前で両手を合わせた。

「今日はもう一つ、とっておきの報告があるんだ。……さぁ、出てきて自分たちの口から伝えるといい」

 京楽にうながされ、緊張したおもちで列から歩み出たのは────

 六番隊副隊長・ばられんと、十三番隊隊長代行・くちルキアだった。

 

報告

1

 

 今はやまもと元柳斎げんりゆうさいしげくにが、てい十三隊・きどうしゆうおんみつ機動の隊士となる人材をはいしゆつするべくせいれいてい内に設立した、二千年の歴史を誇る死神育成機関、しんおうれいじゆついん

 その一画、全院生を収容可能な大講堂に、夏季休暇を終えたばかりの四回生が集められていた。

「先のれいおうしんたいせんにおいて、護廷十三隊が約半数の隊士を失ったことは、諸君の知るところだろう」

 一同を見渡し、がっしりとした体格の学院長が言葉を続ける。

いまさら言うまでもないことだが、が真央霊術院は六年制である。しかし一昨年さだめられた死神見習制度のどうにゆうにより、四年時の夏以降、諸君は護廷十三隊各隊に見習として所属し、現場で死神業務の経験を積んでもらうこととなった」

 死神見習制度とは、深刻な隊士不足におちいった護廷十三隊をするために作られた新制度である。見習隊士は、午前は霊術院で学び、午後は各隊に分かれ実際に業務を手伝う。この制度ができる以前、学院生は卒業後各隊に振り分けられ、最初の一年間は見習として先輩隊士について回り、死神の仕事を学んでいた。その見習期間を在学中にませてしまおうという仕組みが、この死神見習制度なのである。『人手がりずあちこちで作業がとどこおっている! かきゆうてきすみやかに人員を補充してほしい! この際学院生でもかまわない!』という現場の悲痛な声を受け、あくまでも一時的な処置として作られた制度だったが、あこがれの対象を間近に見られることでやる気が向上し、授業も楽しくなった、と当の学院生たちからは好評なようだ。

「そこで本日は、死神としてのこころがまえをお話しいただくため、当霊術院の卒業生であるイヅル三番隊副隊長にお越しいただいた!」

 それを聞き、学院生たちはわっと色めき立った。尸魂界ソウル・ソサエテイにおける隊長副隊長は、現世で言う一流芸能人のようなものなのだ。

「では吉良副隊長、よろしくお願いします」

 学院長にうながされとうだんした吉良イヅルは、生気の感じられない青白い顔で講堂を見渡した。四回生たちは現役副隊長の登場に目をきらめかせている。

(未来ある若人わこうどに、びとが死神のきようじくとはね……)

 イヅルは目をせ、小さくため息をついた。

 

 講演後、らいひん室に通されたイヅルは、ソファーに深く腰掛け、背中をあずけて大きく息を吐いた。若者たちの前向きでぐな視線は、イヅルの精神を大いに疲労させたらしい。

「吉良、ありがとう! 忙しいのにごめんな!」

 真央霊術院学院長・石和いさわげんは破顔し、低いテーブルをはさんだ向かいのソファーに腰を下ろす。

「いいよ。同期の二人が引き受けたのに、僕だけことわるわけにもいかないしね」

 一昨年は五番隊副隊長・ひなもりももが、昨年はばられんが招かれ、同様の講演を行っていたのだった。

「そう言ってもらえると助かる」

 厳兒はホッと息を吐き、「ちょっと書類仕事してもいいか?」と、テーブルの下からかみたばが詰めこまれた箱を引っ張り出した。

「普段もここで仕事を?」

「ここのが一番やわらかいからな! 机も広いし」

 机上きじようにドサドサと積み上げられていく書類を見て、イヅルは「全然ちょっとじゃないじゃないか」とあきれたようにつぶやいた。

 厳兒はイヅルや恋次と同じく霊術院の二〇六六期生である。六年を通して第一組────成績優秀者のみで構成される特進学級────だったイヅルに対して、厳兒は六年間ずっと第二組に在籍していた。本来ならば接点のなさそうな二人だが、院生りようでの生活班が同じであったため親しくなったのだった。

「……宿題はめてから一気に片づけるタイプだったよね、君」

 ひいひい言いながら深夜までふづくえに向かっていた背中を思い出す。

「言っておくが、これは全部今日の分だからな?」

 厳兒は書類に目を落としたまま、不服そうに言った。

「え? こんなに……?」

「人手が足りないのはどこもいっしょだろ? 俺は書類仕事が得意だから、他の先生の分もこっちに回してもらってるんだ。なんせ俺は、〝書類仕事のとら〟こと雛森副隊長ひきいる五番隊にいたからな!」

「……率いているのはひら隊長だろう? にしても……雛森さんにはそんないみようがあったのか……知らなかった」

「ちなみに〝書類仕事のりゆう〟はあいぜんすけで、〝書類仕事のたか〟が俺だ! いつまでも第二組の俺だと思うなよ?」

「はいはい。五番隊が事務処理にけているのは十分わかったよ」

 ふふん、と得意げに胸をそらせる厳兒を見て、イヅルは小さく笑った。

「さて……仕事のじやしちゃ悪いから、もう行くよ」

「待て待て待て!」

 立ち上がりかけたイヅルを厳兒があわてて制す。

「久々に会えたんだからもう少し話そうぜ!? 俺、月に一度技術開発局に行く以外はずっと霊術院ここにいるから外の話題にえてるんだよ~!」

 それを聞いて、イヅルはぴたりと動きを止めた。

「月に一度……開発局に? どうして……」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 厳兒は事もなげに、ひょいとはかまをたくし上げた。

「俺あの大戦の時に両足吹っ飛ばされちゃってさ。義足なんだ、今」

 つるりとした乳白色のパーツでつくられた義足が、のうこんすそからのぞいている。

「本物と見分けがつかないような足もあるけど、護廷隊の補償外なんだと。まぁこれでも日常生活にはなんのししようもないからいいんだけどな」

 厳兒は五番隊の第三席だった。

 星十字騎士団シユテルンリツター侵攻時に両足を失い義足となった厳兒は、上位の死神にとってひつとも言える、一瞬にして長距離を移動する歩法・しゆんぽが使えなくなった。今の自分に三席は相応ふさわしくない、席次を下げてほしい、と隊長である平子しんに申し出たところ、真央霊術院の学院長になってはどうかと提案されたのだった。

「俺、歩法には結構自信あったから足がこうなってショックだったけど……この仕事始めて、毎日むちゃくちゃ忙しいけど楽しくてさ! そもそも俺はデキるタイプじゃなかったから、学院生がどういうところでつまずいて、どんな時にくじけそうになるのか、すげぇわかるんだよ。……平子隊長の前では切れ者の三席を演じていたつもりだったのに、見抜かれてたんだろうなぁ、俺の本質」

 平子にかけられた言葉が、耳によみがえる。

『学院長、向いてる思うで? ……えるやろ、オマエなら』

 自分の資質を認めた上での提言なのだとさとり、厳兒は感謝とともにそれを受け入れた。

「だからさ! 今はもう気にしてないんだ、足のこと」

 ぽん、とひざたたいて厳兒が笑う。なるほど彼のこの明るさは迷い多き若者たちの助けとなりそうだ、とイヅルは思った。

「そうか……色々と大変だったんだな、石和」

「いやいや、お前にだけは言われたくないぞ吉良! お前以上に大変だったやつなんかいるかよ!?」

「それは……そうだね、確かに」

「戦死したって聞いてたお前が、死んだまま戦線に復帰したらしいって情報が入ってきて、大混乱だったんだぞ俺は!」

 イヅルは先の大戦で、肉体の三割を失う傷をい、絶命した。その彼が今もこうして活動できているのは、十二番隊隊長・くろつちマユリが戦場から回収したイヅルの死体に実験的な肉体改造手術をほどこしたためである。当人に無許可で行われた手術は見事成功し、イヅルは死んだまま生きる、、、、、、、、こととなった。

「『瀞霊廷通信』の復刊号にってた涅隊長の肉体改造実験の研究報告を読んで、ようやく納得いった。そういうことだったのか、って」

 九番隊が編集・発行を手がける情報誌『瀞霊廷通信』は、発行体制がととのわず、大戦後一年間は休刊していた。復刊第一号には、ぼうだいな数の戦死者一覧と復興のしんちよく状況がけいさいされており、巻末のみ付録として涅マユリの研究報告が付いてきた。

【吉良イヅル副隊長への術式成功! 絶命してももう安心! 死鬼術式の秘密を大公開!】

 センセーショナルな見出しが付けられた報告内容により、イヅルが技術開発局局長の悪魔的な実験の被験者となったことが、瀞霊廷中に知れ渡ったのだった。

「なんであれ、俺はお前が生きてて……生きてはないのか……まぁとにかく、また会えてうれしいよ」

「……ありがとう」

 つぶやいたイヅルのふところで、でんれいしんが震えた。厳兒に「確認しろよ。急用かもしれないだろ?」とうながされ、イヅルは【新着】の文字が点灯している電子書簡に目を通す。送り主は阿散井恋次だった。

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