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BLEACH WE DO knot ALWAYS LOVE YOU 第2回

原作:久保帯人 小説:松原真琴
見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の侵攻から3年。多くの命が失われ、戦いの傷跡は未だ癒えずにいる。生き残った者たちはようやく復興の道を歩み始めようとしていた。 そんなある日、朽木ルキアと阿散井恋次は、籍を入れることを皆に告げた……。本編で描かれなかった、戦いの果てから生まれる新しい絆を巡る物語――。

「阿散井くんからだ。今夜集まれないか、って」

 あてさきらんには雛森桃の名前もある。

「雛森さんも呼んでいるのか……君もどうだい?」

 了解、とだけ返信し顔を上げると、厳兒がにっこり笑って積まれた書類に手を置いた。

「これが見えないかね? 吉良副隊長」

「……みんなにはよろしく伝えておくよ、学院長」

 そう言って、イヅルも笑顔を返した。

 

 二人が近況を語り合っていると、開け放たれた窓の外から、黒髪の女が飛びこんできた。頭の動きに合わせて、つややかなポニーテールが揺れる。

「楽しくやっとるかの?」

 両手を腰に当て、ニィと笑ってみせたのは、ほういんよるいちだった。

「お疲れ様です、四楓院先生!」

「ごしています、四楓院さん」

 立ち上がろうとした二人を手で制し、夜一はイヅルの横にどっかと腰を下ろす。

「吉良とは半年ぶりじゃの。どうじゃ、おおとりばしとは仲良うやっておるか?」

 三番隊隊長・鳳橋ろうじゆうろうは音楽へのぞうけいが深く、楽曲かんしようだけでなく、楽器を演奏することもたのしみとしている。夜一が四楓院家の当主をつとめていた時分、楼十郎が現世から持ちこんだ楽器の修理や調整を四楓院家のがく隊に依頼していたこともあり、二人は旧知のあいだがらであった。年に一度か二度、夜一は現世の土産みやげをたずさえ三番隊のしつ室を訪れる。その際何度か言葉をわしたため、イヅルとも面識があるのだった。

「ええまぁ、それなりに。職務中のそうがくにもれましたよ」

「……慣れていいのか?」

 厳兒の問いかけに、イヅルは肩をすくめた。

 三番隊には、たいしゆ室はもちろん執務室にも多くの楽器が並べ置かれ、楼十郎の気分だいで職務中でもおかまいなしに演奏が始まる。最初こそとがめていたイヅルだったが、演奏後は仕事の効率がぐんと上がることに気づいて以降、それを黙認しているのだった。

「大目に見てやれ! 彼奴きやつから楽器を取り上げたら、なーんにも残らんからの!」

「なんにも、ってことないでしょうよ」

 夜一は涼しい顔で、厳兒のたしなめるような視線を無視する。この二人もうまくやっているらしい、とイヅルは内心でほほんだ。

「ところで……講師の仕事はいかがですか? 四楓院先生」

「はっ! 若造がからかいよって……」

 イヅルをちらりとねめつけてから、夜一は厳兒に手のひら大の紙片を渡した。

に名のある者は、もう正式入隊させてもよいじゃろう」

 厳兒は書きつけられた名前を見て、うんうんなるほどとしきりにうなずいている。

「この丸が付けてある子はなんです?」

「ああ、やつは九番隊に入れてやれ。はくの才はとぼしいが、利発じゃし、書き物をするのが趣味なんじゃと」

「承知しました!」

 厳兒は懐から取り出した手帳に夜一の言葉をめ、紙片をはさんで閉じた。

「驚きました……ちゃんと〝先生〟をしてらっしゃるのですね」

 イヅルの物言いに、夜一がぴくりとかたまゆげる。

「……おぬしさっきからわしめとらんか?」

「そんなめつそうもない……! ただ、お引き受けになる際に四楓院さんが心底面倒そうな顔をしていた、と隊長から聞いていたので……」

「今でも心底面倒じゃと思うとるわ」

「四楓院先生……学院生の前では言わないでくださいよ? そういうこと」

 夜一は、わかっている、と言いたげな顔で厳兒を見、腕組みして天井をあおいだ。

「儂は天才じゃから凡人への指導法なぞわからんと言ったんじゃがのぅ……半月に一度の特別講師を引き受けるか、復隊して八番隊の隊長になるかと言われては、此方こちらを引き受けるほかなかろう」

 復隊を拒否するのであれば、隔週で五、六回生に白打・歩法の講義を行うこと。それがきようらく総隊長から夜一へのお達しだった。

「四楓院さんほどの人材を遊ばせておくわけにはいかなかったんでしょう……各隊最低一名は霊術院講師を選出するように、と全隊に指令が下ったくらいですから」

「霊王護神大戦で、元々の先生方は大勢くなってしまったからな……」

 大戦時、学院生は全員寮に避難していた。

 れいあつが多く集まっていたせいか、寮には見えざる帝国ヴアンデンライヒぞうひようゾルダートの攻撃が集中し、学院生たちの眼前で講師陣による決死の防衛戦がひろげられた。講師は皆せきかん経験者でだれぞろいだったが、それでも数的優位をくつがえすのは難しく、一人また一人とその命を散らせていった。

 絶望的な状況下、暗雲を切り裂いて現れた、仮面をまとった死神。

『スーパーヒーロー参上っ!』

 踏み倒した聖兵ゾルダートの上でビシッとポーズを決めたのは、九番隊〝スーパー〟副隊長・ましろだった。

 

 九番隊隊長・むぐるまけん西せいは、星十字騎士団シユテルンリツターを迎え撃つべく出陣する際、白のずいこうを許さなかった。

「やーだー! あたしも行く! しゅーへーだけ連れてくなんてズルっこじゃん! ズルズルズルズル~~~!」

 当然、白は地面を転げ回って反発した。普段であればうるせえといつかつする場面だったが、拳西は膝を折り、白と視線を合わせて言った。

「霊術院に行け、白。行って未来の死神をまもれ」

 左腕をつかんで立たせる。そこには白お手製の副官章がはめられていた。

「……お前はただの副隊長じゃねぇんだろ?」

 背中を押された白は、振り向かず、夕空へちようやくする。

【SUPER 9】の刻印が日没ぎわの光を受け、赤くきらめいた。

 

 ホロウした白の働きで学院生は護られたが、講師の数は三分の一以下にまで減ってしまい、死神の育成が急務の今、その補充は最重要課題と言ってもごんではなかった。

「霊王護神大戦、か……むなくその悪い名じゃの」

 夜一は吐き捨てるように言う。イヅルも同感だった。

「……仕方ありませんよ。真実をしらせれば、混乱は避けられない」

 くろさきいちがユーハバッハに勝利したのち、そのなきがらゼロばんたいの手でれいおうきゆうへと運ばれた。死してなおばくだいな霊力の宿るがいに何百ものけつかいめぐらせ、それをあらたなくさびとして霊王だいだいへ納めることで、世界はほうかいまぬがれた。

 霊王のほうぎよも、今この世界をつなめているのが大戦のしゆぼうしやであることもせられ、見えざる帝国ヴアンデンライヒによる一連の侵攻戦争には〝霊王護神大戦〟という名が付けられた。

「霊王宮は守護され、霊王はしいされなかった……学院生にそう教えているとさ、俺たちが学んだ歴史の中にもこんなふうかいざんされたものがあったんだろうなぁ、と思うよ」

 厳兒はやりきれないといった表情で、小さく首を振った。

つむの都合でげられる……歴史とはそういうものじゃ」

 そうつぶやいた夜一のひとみが、わずかにうれいをびた。彼女がかつて反逆者と見なされ尸魂ソウル・ソサエテイを追われた身であることに思い至り、二人は黙りこむ。

そろってしんくさい顔をするな! 別に儂はなんとも……」

 不満げな夜一の言葉は、扉をノックする音にさえぎられた。

「学院長先生ー! 終わった書類をもらってこいって言われて来ましたー!」

 男子学生とおぼしき声が、扉越しに聞こえてくる。

「自分で持っていくから大丈夫だ! ……ちょっと行ってくるよ。正式入隊の件も話さなきゃならないし」

 厳兒は二人にそう断ると、処理済みの書類をかかえて部屋を出ていった。

 足音が遠ざかるのを待って、夜一がイヅルのほうへ顔を向ける。

「……二人きりじゃな」

 その目にいたずらみを見て取り、イヅルはさむった。

へびにらまれたカエル……いや、この場合は猫に睨まれたねずみか……?)

 などと考えていると、夜一がずいっと身を寄せてきた。

「ひっ……!」

 寄られた分後ずさると、背中がソファーのひじきに当たり、行き止まる。

「聞くところによると、おぬし、体に大穴がいておるそうじゃの?」

「……な、なんですかいきなり……」

 イヅルは思わず右胸に手をやった。中が空洞のため、その手がしはくしように沈みこむ。

 死鬼術式直後は、穴をおおわず体内の熱を逃がすよう言いつけられていたため、片肌脱ぎの状態で生活しなければならなかった。しかし大戦後のバージョンアップをて放熱問題が解消され、穴をさらす必要がなくなり、イヅルは元通り死覇装をまとえるようになったのだった。

「涅が言っておったぞ? ネムリこん技術の、吉良は肉体改造技術の傑作じゃとな。……どれ、その穴ちょっと見せてみい」

「な……っ!? いやですよ!」

かたいことを言うな、断面がどうなっておるのか見たいだけじゃ。減るもんでもなかろう? ほれほれ」

 夜一はイヅルの抵抗などおかまいなしに、みぎそでをつかんでぐいぐいと引っ張る。

「やめてください!」

 えりにかけられた手をはずそうと身をよじったところに、開く扉が目に入った。

「吉良! こいつらがいくつか質問したいと……」

 女子学生二人を従え戻ってきた厳兒は、二人を見て硬直した。

 死覇装がくずれているイヅル。なかば馬乗りになっている夜一。

 厳兒は即座に扉を閉めた。

「す、すまん吉良!」

あやまらないでくれ違うんだこれは!」

 イヅルは夜一を押しのけ部屋を飛び出した。廊下から、「ごめん!」「違うんだ!」という二人の声が聞こえてくる。

「変にもつたいつけるからこうなるんじゃ……」

 夜一は悪びれるようもなく、来た時同様、窓から去っていった。

 

 ────翌日、〝四楓院先生と吉良副隊長のイケナイ関係〟のうわさが霊術院をめぐった。それからしばらくの間、イヅルは夜一を敬愛する二番隊隊長・ソイフオンと顔を合わせるたびに、じゆさつされそうなほど睨みつけられたという。

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