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BLEACH WE DO knot ALWAYS LOVE YOU 第4回

原作:久保帯人 小説:松原真琴
見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の侵攻から3年。多くの命が失われ、戦いの傷跡は未だ癒えずにいる。生き残った者たちはようやく復興の道を歩み始めようとしていた。 そんなある日、朽木ルキアと阿散井恋次は、籍を入れることを皆に告げた……。本編で描かれなかった、戦いの果てから生まれる新しい絆を巡る物語――。

「ひ、平子隊長!?」

「一体いつからそこに……!?」

 雛森と七緒が椅子から落ちそうなほど驚く中、リサは一人涼しい顔をしている。

「茶会の話あたりからおったな。当然あたしは気づいとったよ」

「気づいてたなら言ってくださいよ! というか来てすぐ声をかけてください、隊長!」

「そう怒りなや、桃。いやァ、女子の集まりにオレが入ってもええんやろか、て声かけよか迷ってたんや」

「盗み聞きしたかっただけやろ、スケベ」

 冷ややかなリサの物言いに、「オマエにだけは言われたないわッ!」と平子が反論した。

「せやけどまぁ、女三人集まってなんの話するんかと思たら、元柳斎、沖牙、雀部て……ジジイの話ばっかりやないかい! 恋バナの一つもせえや!」

「勝手な期待をして勝手に怒らないでください……」

 七緒がこめかみを押さえ、ため息じりにそう言った時、外から終業時刻をしらせるかねが聞こえてきた。

「いけない、こんな時間……! 私もう戻りますね」

 七緒は手早く本を書架へ戻し、出入り口の前で振り向いた。

「雛森さん矢胴丸さん、今日はありがとう。またお話しましょう!」

 二人ににこりと笑いかける。

「ええ、また!」

 雛森は笑顔で手を振り、リサは無言で小さく手を挙げた。

「それから……平子隊長、今後こっそり近づくのはやめてくださいね?」

 最後にそうくぎを刺し、七緒は図書館をあとにした。平子は苦笑し、まどの壁に寄りかかる。

「あのちっちゃかった七緒チャンが、よくもまぁ立派に育ったモンやで……」

 各隊の居住区画に建てられた図書館はその隊の管理下で運営されるため、四番図書館には医術に関する本が多く、六番図書館には貴族史や礼儀作法の本が多いといった具合に、隊風を反映した品ぞろえになりがちであった。平子の住まいからほど近い五番図書館は、護廷十三隊一の蔵書量を誇っていたが、その大半が藍染惣右介寄贈によるな学術書であり、平子の食指が動くものではなかった。それに対し、八番図書館はリサが興味のおもむくままに買い漁った多ジャンルの本が混在していたため、平子もあししげく通っており、その際そこで働いていた幼い七緒の姿を目にしていたのだった。

 終業時刻を過ぎ、仕事帰りの隊士たちがぱらぱらと入館し始める。開館している図書館はまだこの真央図書館だけなので、全隊から隊士が集まってきていた。比較的入り口に近い席に座っている三人に軽くえしやくをしてから、皆奥へと入っていく。

「建て替えられてから初めてここに来よったけど、わりかし盛況やねんなー」

「ええ。各隊の図書館から集められた本が並んでますから、あちこち回らなくてもいろんなジャンルの本が読めるって評判なんですよ。隊長もそれがお目当てなんじゃ……?」

「いや、オレはリサを探しとったんや」

 全席官名簿をたたんでいたリサが、「あたし?」と顔を上げる。平子はたいしゆおりたもとから『せいれいてい通信』の通販目録を取り出し、角を折ってあるページを開いた。それは、『YDM書籍販売』があつかっている高額商品のページだった。

 リサは藍染の反乱後、現世で販売されている本やCDを取り寄せ、こうにゆうしやのもとへみつに配送する事業『YDM書籍販売』をおこし、死神を相手に多大な利益を得ていた。大戦をこきやくの絶対数が減り、暇を持て余していた折りに隊長就任の打診を受けたリサは、復興後の事業拡大をにらみ、副業を認め商品のうんぱんに八番隊穿せんかいもんの使用を許可することを条件に、隊長職を受けたのだった。

 九番隊に広告費を支払い、毎月の通販目録内に商品ページを得たことで、『YDM書籍販売』の知名度は一気に上昇し、事業は再びどうに乗りつつあった。

「頼む! この『近代ヘアスタイル大全』五冊組、もうちょいまけてくれ! オレいっつもオマエんとこで雑誌うてるやん? な? お得意様価格でどうにか!」

「だめや! みんな定価で買っとるんやから!」

「お二人とも、もう少し声を落としてください……!」

 雛森が小声でたしなめるも、二人はおかまいなしに大声で話し続ける。

「んなせつしよう~~~! ウチの図書館まだ復旧してへんから、今は隊費で本買われへんのに~~~!」

「ほんなら図書館建つまで待ったらええやろ! その時はキッチリ五番隊で領収書出したるわ! もう売り切れとるかもしれんけどね!」

「………隊長」

 ひた、と平子の肩に雛森が手を置いた。

「なんや桃ッ!? ……も…桃………?」

 こうかくは上がっているが、目がまったく笑っていない。やみを押し固めたような恐ろしい瞳で、じぃっと平子を見つめている。

「個人的な趣味の本は、ちゃあんと自分のお給金で買ってくださいね……? それから……リサさん」

 ゆらぁと首が動き、その瞳がリサをとらえる。リサは目をらせず、ごくり、とつばを飲んだ。

「うちの隊に限らず……不正な領収書は出さないよう、お願いしますね……」

 コクコクと高速でうなずくリサを見て、雛森は、ふう、と息を吐き、「わかってもらえればいいんです!」と笑った。

 普段通りの、柔らかなほほ笑みだった。

「じゃあ、あたしももう行きますね! 今日はばらくんやくんと約束があるので」

 失礼します、と頭を下げ、雛森が出ていく。

 扉が閉まった途端、二人はせきを切ったようにしゃべりだした。

「なっ!? ちょっ……ええっ!? オレめっちゃ心臓バクバクしたんやけどォ!?」

「鬼や……鬼がおった……!」

「あない暗い目するかね……!? ほんで、あないシュッと日常に戻れるモンかね!?」

「あたし、雛森には逆らわんとこ……」

 この一件は、〝雛森事変〟として、二人の胸に深くきざまれたのだった。

 

 

3

 西にしコンがい一地区・じゆんりんあん

 十番隊隊長・つがとうろうは、休みを利用し祖母の住まいを訪ねていた。

 二人であまなつとうをつまみながら、ぽつりぽつりと話をする。静かに過ぎていく時間は、あわただしい毎日を送る日番谷にとって、何よりのやしだった。

 差しこむ日がかげり始め、せいれいていから終業のかねが聞こえてくる。日番谷はたたみに横たえていた身を起こし、大きく伸びをした。

「もう行くよ、ばあちゃん。また来る」

 ぞうひもを結び、立ち上がる。

「いつでも帰っておいで。ばあちゃん、また甘納豆を買っておくからねぇ」

「いいって。俺が買ってから来るから」

「そうかい? ありがとうよ、冬獅郎」

「うん。……じゃあ行って来る」

 見送りに出てくれた祖母に軽く手を振り、日番谷はゆうの中を歩き出した。

 

 瀞霊壁に沿ってまちはずれの道を行く。

 はくとうもんが見えたところで、日番谷はふと足を止めた。

「ガキンガキンッ! シュオオオ─、ドォ─ン!」

「ウギャーやられたー! こうなったらお前も道連れに……!」

「そいつはおことわりだ! シュババッ!」

「ぐああっ! そうぎよめ! 覚えてろ~~~~!」

 路地裏から聞こえてくる、少年と青年のごっこ遊びの声。

(この声……どこかで……)

 敵役を演じる青年の声に、聞き覚えがあった。

「あははは! ガンジユにいちゃんって、やられ役ほんとうまいよね! いっつもくうかく様に怒られてるからかなぁ?」

「うっせーほっとけ! ……ほら、これ終わったら帰る約束だろ?」

「はぁーい。じゃまたね、岩鷲にいちゃん!」

「おう! 気ぃつけてなー!」

 少年の足音が遠ざかっていく。敵役の青年は、民家の角を折れたところで日番谷に気づき、「うおッ!?」と身をのけぞらせた。

「あ、あんた、十番隊の……!」

「日番谷冬獅郎だ。お前は……岩鷲、だったか?」

「ほぼ初対面なのによく俺のフルネーム出たな!?」

 日番谷と面と向かって話した記憶はない。『瀞霊廷通信』にけいさいされる写真で、姿自体はれているが、実物を見たのは数回────それも、一瞬前を横切ったとか豆粒大の影を遠くから見たとか、その程度のものだった。

(俺って死神の中ではまぁまぁ有名なのか……!? ハッ!? まさかコイツが来たのも俺様に会うためなんじゃ……!?)

 岩鷲は、日番谷に指示を出す、居もしない死神のリーダーをもうそうした。

『志波カイエン殿の弟ぎみだと!? そんな優秀な人材を死神にかんゆうせんのだ!? 日番谷隊長、今すぐ行ってきたまえ!』

 にやにやとあごをさすりつつ、半開きの口から、「ムリムリ~! ムリだってぇの! 俺、死神にはならねぇから~!」と声をらす。

 その声を聞き取れず、「どうかしたか?」と問う日番谷に、岩鷲はあわてて、なんでもないと首を振った。

「お前が志波家の者だってことは覚えていたが、名前は……さっき子供にそう呼ばれてたからな」

「ああ、それでか……」

 妄想が急速にしぼんで消えた。岩鷲はわずかに肩を落とし、「なんだ見てたのかよ……双魚ごっこ」と、日番谷ののぞをたしなめた。

「双魚ごっこ……?」

「アンタ、死神のくせに知らねぇのか? 『双魚のお断り!』はうきたけさんの名著だろうが!」

 岩鷲は心底意外そうに言う。

『双魚のお断り!』は、十三番隊隊長・浮竹じゆうしろうが『瀞霊廷通信』で連載していたアクションアドベンチャー小説である。

「ああ……あの小説か」

「反応薄いな! すげぇ人気あるんだぜ?」

『双魚のお断り!』は、主人公・双魚が村人を守り悪に立ち向かう、一話完結型のかんぜん懲悪ちようあく劇であり、特に子供に人気の作品だった。大戦後、通廷証の手続が簡略化されたことで瀞霊廷と流魂街の往来が活発になり、瀞霊廷で流行していたこの作品は、流魂街の子供たちの間にも急速に広まっていった。

 今では、流魂街のどの地区に行っても、回し読みされボロボロになった『双魚のお断り!』の単行本が、日々子供たちを楽しませている。

「……新作、もう読めねぇんだな……」

 見えざる帝国ヴアンデンライヒによる侵攻が始まる前に出版された、最後の『瀞霊廷通信』。三か月ぶりに掲載された『双魚のお断り!』は、敵の手に落ちた村のを、双魚が深手をいつつも救い出す、という内容だった。

【自分をまもって負った傷は痛い。でも誰かを護って負った傷は痛くないんだ

 浮竹のぐな心をうつしたような、双魚の言葉────。

 日番谷は白髪の死神を思い、小さくくちびるんだ。

「一話で完結する話だったから、いつ終わっても違和感ないっちゃないんだけどよ……浮竹さんが、自分がいつそうなってもいいように、ってこの形式を選んだんだとしたら……ちょっとな」

 そう言って、岩鷲は何度か鼻をすすった。日番谷は岩鷲から視線をはずし、夕空にたたずむ瀞霊廷を見つめていた。

「俺の兄貴……志波海燕が十三番隊の副隊長やってたころ、家に帰ってくるといつも浮竹さんのこと話してた。そん時俺はまだ小さかったから、内容はほとんど思い出せねぇけどよ……誇らしげな兄貴の横顔だけは、よく覚えてんだ」

「……そうか」

 三年という月日が流れても、浮竹の心は、のこした物語に、人々の記憶に、消えることなく生き続けている。

 それだけで、日番谷は少し救われた気持ちになった。

「引き止めて悪かったな。帰るところだったんだろ?」

「いいんだ。……話せてよかった」

 わずかにんだ日番谷を見て、岩鷲も笑った。

「へへっ、そうかよ! じゃあな、隊長さん!」

 去っていくその背中に、日番谷はかすかななつかしさを覚える。

『留守を頼んだぞ、冬獅郎!』

 先の十番隊隊長は、豪快に笑う男だった。

 くろさきいつしん────旧姓志波一心は、黒崎いちの父であり、岩鷲のである。

(志波岩鷲……か)

 背を向け、歩き出す。

 いつの日か、死神になった彼と瀞霊廷で再会するかもしれない────日番谷は、ばくぜんとそう思うのだった。

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