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ぼくたちは勉強ができない 非日常の例題集

ぼくたちは勉強ができない 非日常の例題集

原作:筒井大志
著者:はむばね
大人気ラブコメ、初の小説版!! 描きおろし異世界ピンナップはじめ、ヒロインたちの挿絵も大収録!! 真冬先生の体が......ちっちゃくなった!? 一方、文乃の胸が大きくなる!? 成幸が魔王になったり忍者になったり!? 『ぼくたちは勉強ができない』の人気キャラクターたちの本編とはひと味違うエピソードが読める!

 

「ふぅ……」

 タンッとパソコンのエンターキーを叩き、きりふゆは小さく息を吐いた。

「完成……ずいぶんと遅い時間になってしまったわね」

 ふと目を向けた先、時計の針はすでに深夜と言ってつかえない時刻を指し示している。

 机の上にちんしたパソコンの画面に表示されているのは、自身が担当する教科である世界史の小テストだ。他にも、細々とした事務処理などを片付けているうちにこんな時間になってしまっていた形である。

「あとは報告書の作成だけれど、あれは置き忘れてきてしまった資料も参照する必要があるし……明日、学校に資料を取りに行って……えぇと……」

 残った作業の算段について検討するも、イマイチ頭が働かない。

「……駄目ね。最近寝不足が続いていたし、流石さすがに辛いわ」

 視界がボヤけてきたところで、考えるのをやめることにする。

「明日は休日だし、資料を取りに行くだけなら午後からでも十分……ゆっくりと眠って日頃の疲れをいやしましょう……」

 つぶやきながら、ややフラつく足取りでベッドに向かう。

 しかし、その途中でふとのどの渇きを覚えた。

「寝る前の水分補給は重要ね……何か、あったかしら……」

 冷蔵庫まで足を運ぶのさえおつくうで、真冬はのろのろとした動作で周囲を見回す。

 目につく物体は多い。主に、ゴミや床に散らばった本などだが。自身の教え子であるゆいなりゆきが、前回片付けてくれたのはいつだったろうか。割と最近だったはずだが、いつの間にかまたこのさんじようとなっていた。いや、これでも以前に比べればれいな状態と言えるはずだ。恐らく。たぶん。相対的に考えれば。

「ん……?」

 部屋の惨状についてはひとず棚上げしながら目を走らせていた真冬の視界に、何かキラリと光るものが映った。透明な液体で満たされたびんだ。どうやら、部屋の照明を反射したらしい。ゴミ袋のかげに隠れるように転がっている。

「何だったかしら、これ……?」

 拾って思案しようとするも、眠気で考えがまとまらない。

「まぁ、ちょうどいいわ……」

 幸いにして、未開封。ならば、おなかを壊すこともないだろう。

 そう考えて、真冬は瓶を開封して中身を飲み干した。

「限……界……」

 そして、ベッドの上に倒れこむ。

 夢の世界に旅立つまでに、数秒も時間は要さなかった。

 

 ・・・・・・・・・

 

 翌朝。

「んっ……」

 目覚めは、快適な心地だった。

 ここ最近ずっとまとわりついていたけんたい感が、すっかり消え去っている。活力に満ちた身体からだが、やたらと軽く感じられた。眼精疲労、肩や腰のりも無し。まるで、何歳も若返ったかのようだ。心なしか、ベッドもいつもより広く感じるような気がした。

「ふっ……しょうし笑止。何を鹿なことを考えているのかしら」

 小さく苦笑して、真冬は身体を起こす。

 同時に、肩から寝間着がずり落ちた。

「……?」

 オーバーサイズというわけでもないのにこれはどういうことかと、眉根を寄せる。

 そこで、ようやく気付いた。

ぎねん疑念……何か……小さい……よう、な……?」

 視線を下ろし、ますますけんしわを深くする。

 目の前にある手の平はやけに面積が狭く、指だって短く可愛かわいらしいものだ。

 それこそ、子供のそれのように。

「私の手……よね……?」

 開閉を繰り返してみて、目の前のそれが確かにおのれの手であることを確認。

 そういえば……先程から呟いているひとごとも、いつもより随分とかんだかいし舌っ足らずな感じになっているような。

「ま、まさか……ね」

 ぎこちない笑みを浮かべながらベッドを降り、鏡の前へと向かう。

 困惑にいろどられた顔立ちは、記憶にある自分のものと確かに一致していた。

 ただし。

 一致したのは、恐らく二十年近く前の……幼い頃の自分の顔と、であるが。

「………………」

 鏡に映るそれを、思わずまじまじと見つめる。

「………………」

 一旦視線を外し、目頭をんだ後でもう一度まじまじと見つめる。

「………………」

 しばらく目を閉じてみた後、目を開けて再度まじまじと見つめる。

 何度仕切り直そうと、鏡に映る姿は少しも変化しなかった。

 口元に笑みを浮かべてみる。

 鏡の中の幼い顔も、引きった笑みを浮かべた。

 口元を元に戻す。

 鏡の中の幼い顔も、真顔となった。

 そんな風に、しばらく確認作業を続け……真冬は、一つうなずく。

けつろん結論……どうやら、まだ夢の中にいるようね」

 うつろな表情でそう呟いてから、鏡から顔を背けた。

「思った以上に疲れていたのかしら……もう少し眠ることにしましょう……いえ、今が眠っている最中なのよね……夢の中で眠ると、逆に夢から覚められるかしら……?」

 ブツブツと独りごちながら、ベッドの方に向かう。

 しかしその途中で、ズルッと寝間着のボトムスがずり落ちて。

「あぷっ!?」

 足を取られ、真冬はすっ転んで顔面からゴミ袋に突っこむこととなった。

「い、痛い……」

 少し赤くなった鼻先を押さえて立ち上がりながら、みずからの言葉にハッとする。

「とうつう……? まさか……夢、じゃない……?」

 

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