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銀魂 帰ってきた3年Z組銀八先生もっとリターンズ 冷血硬派高杉くん

銀魂 帰ってきた3年Z組銀八先生もっとリターンズ 冷血硬派高杉くん

原作:空知英秋
著者:大崎知仁
大ヒットスピンオフノベライズ『銀八先生』シリーズが、高杉晋助を主役に据えて5年ぶりに帰ってキタァァァーーー!!
高杉たちが1か月の校内奉仕活動を命じられ、「万事部」として活動開始!
プールの水ぜんぶ抜いたり、山崎主催の文芸誌作りを手伝ったり、
総理と学食の新作試食に参加したり、天照院高校とハイ&ローのみたいな展開になったり…
高杉一派がすべて万事解決…!? 3Zメンバーや教師陣ももちろん登場!
「冷血硬派高杉くん語録 ピンナップ」や「銀魂高校生徒・教師・関係者名簿」など付録も充実!!

プロローグ

 

校長室——

大きなデスクにハタ校長が座り、そのななめ後ろには、タブレットたんまつを手にした教頭のじいが立っている。

デスクの前の応接ソファでは、3年ずいー組の担任教師、さかぎんぱちが、ゆるみきった顔でジャンプを読んでおり、ここで、「坂田君」と、ハタがにがにがしく口を開けば、おなじみの校長室のシーンとなるのだが——今日は違った。

ハタ校長から見て、応接ソファの向こう、ドアを背にして五人の生徒が立っている。呼び出しを受けて、ここに集められた五人だ。

たかすぎしんすけかわかみばんさいたけへんぺいじままたおかぞう——の五人である。

全員が3ずいーの生徒。そしてていに言ってしまうと、全員が「不良」「ヤンキー」のレッテルをられた生徒である。

「今日、君たちをここに呼んだ理由は他でもない」と、ハタがしかめっつらで言った。「君たちの生活態度について、今一度きっちりと話をしておかねばならんと思ったからじゃ。——教頭」

と、ハタはかたわらのじいに声をかけた。

「こないだ集計したデータを、こいつらに聞かせてやってくれ」

「ええ? 今ですか?」タブレットを持つ教頭はこついやそうな顔をした。「今、『ジャンププラス』読んでんですけど」

「あとにしろ」と、ハタはいかりの血管をひたいに浮かべる。

はいはい、とため息まじりに返し、教頭はタブレットを操作した。そして、開いたページを読み上げ始める。

「——遅刻、七十四件。無断早退、四十九件。無断欠席、六十五件。課題の未提出、百十二件。自転車の二人乗り、六十二件。登下校中における他校の生徒とのメンチの切り合い、三十八件。こうばい部でのコロッケパンのめ、十七件。渡り廊下での無許可ストリートライブ、七件。担当編集のまるぼう、三件」

教頭が言葉を切ると、ハタが続けた。

「この一か月間で、君たちのやった校則違反や問題行動の件数じゃ。はっきり言って目にあまる」

「いや、最後のは連載中に空知ゴリラがやったことっスよね!?」すぐに反論したのは来島また子だ。「あと、コロッケパンとストリートライブは似蔵と万斉先輩だし!」

だが、ハタは取り合わない。

「誰が何をやったか、しようさいはこの際どうでもよい。君たちは日頃グループで行動しとるんじゃ。個別に呼び出して指導するほど、我々も暇じゃない」

「暇じゃねえなら——」と口を開いたのは、高杉晋助だ。「さっさと処分くだしゃあいいじゃねえか。つまんねー数字読み上げてねえでよ」

れいけつこう、最強カリスマヤンキーの冷たいこわに、ハタは一瞬、う、とひるむ。

口元に薄いみを浮かべた高杉の隣で、

「さて、どんな処分になるやら……」と、ごとのように言ったのは武市。

せつしやの予想、ま、停学二週間……ってところか」と万斉が続け、

「できれば反省文提出なんかでませてもらいたいねェ」と似蔵がニヤリと笑う。

「そ……そのどれでもなーい!」

高杉たちにびびりつつも、ハタ校長は声を張り上げた。そして、高杉にビシリと指を突きつけると、

「高杉晋助!ほか四名! 君たちに下す処分は……い、一か月間の校内ほう活動じゃ!」

「校内奉仕活動……?」

高杉の、がんたいに隠されていないほうの目がキュッと細くなった。他のメンバーもいぶかしげな顔になる。

そこへ、ジャンプを閉じた銀八が言った。

「ま、要するに、てめーら全員、校則違反のばつとして、学校でボランティアしろっつーことだ」

アンニュイな視線を高杉に向け、銀八は続ける。

「だいたいてめーら、停学食らったとしても、どうせ休暇ぐらいにしか思わねーだろ。だったらちゃんと登校させて、学校のためになるような活動させたほうがいいんじゃねーかって職員会議で決まったんだよ」

「具体的に、何をさせるつもりですか? その、校内奉仕活動とやらは」武市が聞く。

「何っておめー、たとえば、俺の肩もんだり、俺の代わりにジャンプ買いに行ったり、俺の代わりにドラクエのレベル上げしたり……」

「それ全部アンタへの奉仕活動っスよね!」また子がつっこむ。

うるせーな、という顔で銀八は小指で耳をほじりながら、

「だからまあアレだよ、奉仕活動っつーのは、グラウンドの草むしりとか?」

「それが済んだら?」と、聞いたのは高杉だ。「奉仕期間は一か月あるんだろ?」

「済んだら? 済んだら、そのー……アレだ。次は、中庭の草むしりだな」

「それが済んだら?」

「す、済んだら? えーと、だからアレだよ、そう、次は体育館の裏の草むしりだな」

「それが済んだら?」

「ぐ……」と、言葉にまると、銀八は校長のデスクに近寄り、ヒソヒソと声をかけた。

「おい、あのがんたいろう、すげー『済んだら済んだら』って言ってくるぞ。他になんかやらせることねーのかよ」

「そ、そんなこと言われても……」ハタが困り顔になる。「こっちはグラウンドの草むしりぐらいしか考えてなかったし……」

「なんでもっと考えとかねーんだよ。一か月あるんだぞ。他に草えてそーな場所ねーのかよ」

「なんで草むしり限定なんじゃ! だいたい君も職員会議出てたんだから、そん時にいろいろ提案すりゃよかったじゃろーが!」

「俺が職員会議なんか出たって寝てるに決まってんだろーが!」

るんじゃない!」

その時、教頭がプッと吹き出した。「おもしれーな、『あくのメムメムちゃん』」

「ジジイてめー! 目ぇ離したすきに『ジャンププラス』読んでんじゃねーよ!」

「おもしろくて草生えるわ」

「草じゃなくて、てめーの触角むしるぞジジイ!」

「だったらこうしねーか?」

と、教師たちのいに割って入ったのは高杉の声だった。

銀八たちは、ん? と、そちらを向く。

「俺たちがどんな奉仕活動をするかは、依頼人だい……てのはどうだ」

「依頼人?」銀八がかたまゆを上げる。

ああ、とうなずくと、高杉はてきな笑みとともに続けた。

「これから一か月間、俺たちは『校内奉仕活動』ってのを立ち上げる。俺たちに何かやらせたいやつがいれば、俺たちはそいつの依頼にこたえるってわけだ」

「依頼に応える、か……」銀八はかえすと、腕を組んだ。「ま、要するにアレか、『スケット・ダンス』高杉版をやろうってことか」

「そういう形ならアンタらも楽でいいんじゃねーか? 俺たちにやらせることをいちいち考えなくて済むんだからよ」

「ま、楽っちゃ楽だけどよ……」銀八はハタに顔を向けた。「どーすか? 校長。校内奉仕活動部」

「うーむ」とハタは思案顔になる。「悪くはないと思うが……」

「いいんじゃないですか」と言ったのは教頭だ。「生徒の自主性を重んじるという意味でも、いっそ部活にして、コイツらに活動内容をゆだねるというのは」

迷っていたハタだが、やがて「そう……じゃな」と頷いた。そして高杉たちに向き直る。

「いいじゃろう。今日から一か月、君たち五人を校内奉仕活動部として認めよう」

要求が通ったことに満足したのか、高杉の口元の笑みが濃くなった。

「サボるなよ」銀八がくぎをさすように言う。「そういうクラブを作った以上、おめーら、本家のスケット団ばりに働くんだぞ」

「言われるまでもねーよ」

と返す高杉の頭には、いつのまにか赤いぼうとゴーグルがっている。

「いや、晋助様、コスプレ早っ! ボッスンならぬタッスンっスか!? てきっス!」




校長室を出ると、高杉たちは体育館の裏手に向かった。

そこに、高杉たちがまりとして使っているプレハブ小屋があるのだ。元は何かのクラブの部室だったプレハブ小屋である。

「どういうつもりでござるか、晋助」歩きながら万斉が聞いた。「校内奉仕活動部とは」

「別に。大したことは考えてねーよ」先頭を行く高杉が言った。「あいつらの言いなりになって草なんぞむしってるより、こうするほうがおもしれーと思ったまでだ」

「しかし、私たちのもとに依頼人など来ますかね」と言ったのは武市だ。

「確かにねェ」と似蔵も続ける。「校内のフダ付きのワルに、頼み事をしようなんてすいきような奴が果たしてどれだけいることやら……」

「ふっ、意外といるかもしれねーぞ?」高杉が鼻を鳴らす。「酔狂な奴が集まってんのが、このぎんたま高校ってところだからな」

そして、五人は溜まり場のプレハブ小屋の前に着いた。

古びた小屋で、トタンの屋根や壁にはさびが浮き始めている。小屋の入り口はアルミサッシの引き戸で、元々上半分はガラスがはまっていたのだが、それも割れてなくなり、今は代わりにベニヤ板が張りつけられている。

その引き戸の前で高杉は立ち止まり、しかし中に入ろうとはしなかった。

「晋助殿どの?」

武市が声をかけると、高杉はようやく口を開いた。

「……やるからには、クラブの看板出しといたほうがいいだろうな」

そう言うと高杉は腰をかがめ、引き戸の近くにころがっていた黒のスプレー缶をひろげた。

カラカラと缶を振ると、引き戸のベニヤ板の部分に何やら文字を書き始める。

校内奉仕活動部——とは書かなかった。

「これは……」と、武市がつぶやいた。

高杉が書いたのは、三文字。荒々しい書きぶりで、

万事よろず

「こっちのほうがシンプルでいいだろ」

高杉は言って、薄く笑った。

確かに、意味するところが同じなら、三文字のほうが話は早い。高杉の洒落しやれに、また子たちもニヤついた。

ちょうどそこへ通りかかったのが、同じクラスの神楽かぐらだった。

「ん? お前たち、何アルか。クラブ作ったアルか。えーと……」

と、神楽は引き戸の文字を読んだ。

「まんことぶ」

「いや、『よろずぶ』っスよ!」

 

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