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ハイキュー!! ショーセツバン!! Ⅶ

ハイキュー!! ショーセツバン!! Ⅶ

原作:古舘春一
小説:星希代子
あらすじ
「ハイキュー!!」の大人気小説シリーズ最新第7弾が登場! 今作のテーマは「秋」。烏野高校に中学生が部活見学にやって来た。はりきりまくりの日向たちを尻目に、澤村たち三年生は二度目の進路指導に向かうが…。他、大王様・及川の決勝戦当日の姿や白鳥沢・天童のエピソードも収録!! 小説特典として「音駒高校」のリバーシブルカバー付き!!

 さわむらは不安だった。

 体育館へ向かう渡り廊下には乾いた風が吹き、見あげれば校舎や木々のあいまに雲ひとつない秋晴れの空もうかがえる。なんとも過ごしやすい秋の午後だ。

 月末1025日からははるこうの代表決定戦が行われる。

『落ちたきようごう、飛べないカラス』とされ、日の当たらない場所で足踏みを続けていたような二年間を経て、やっと手に入れた切符だ。チームのけつそくもこれまでになく高まっており、毎日の練習、そのひとつひとつに確かなごたえが感じられる充実した日々だった。

 しかし今日に限っては、不安しか感じられない。

 日差しはやさしく、ほおでる風も心地よいが、体育館へ向かう足はどんどん重くなる。毎日着ている制服がなぜかきゆうくつに感じられて、ぐっとそでを引っ張ったりしてみたが、きっと気のせいなのだろう。

 ふくらんでいく不安のたねは、今日、この後行われる進路相談だった。いや、進路相談そのものに不安はない。希望する進路はほぼ固まっているし、部活のために学業をおろそかにしたということもない。とくに問題はなくスムーズに終わるだろう。

 心配なのは、進路相談のために3年生全員が部活に遅れるということだった。ふだんの練習なら、ここまで気をむことはない。

 しかし、今日は特別な日だった。

「なんでこんな日に……」

 だが、なげいていてもしかたがない。せめて一声かけてから行くためにここまでやってきたのだ。澤村は覚悟を決めて第二体育館へ入ると、それぞれ練習をしたり遊んだりと、部活前のひとときをワチャワチャ楽しんでいる後輩たちに声をかけた。

「ちょっと、いいか!」

 その声に含まれた多少の緊張をぎとったのか、部員たちは即座に手と口を止めて主将のもとへ集まってきた。体育館の中で、澤村だけ制服を着ているというのも緊張を呼ぶのかもしれない。騒がしかった体育館はしんと静まり返り、日向ひなたなかなど、なにもやましいことをしていないのに「怒られるのかな?」という顔をしている。

 固くなる部員たちを前に、澤村はゆっくりときりだした。

「あー、朝にも言ったと思うけど、今日これから進路相談があるんだわ。3年はちょっと遅れるから、2年中心にしっかり頼むな」

「「ウス!」」

 なんだ、そんなことか。わかってますって。という空気が1、2年生の間に流れて、ようやく彼らの表情がゆるむ。

 後輩たちの返事にうなずくと、澤村はここからが本題とばかりに重々しく続けた。

「で、中学生の部活見学の件なんだが……」

 部活見学。

 澤村を不安にさせているのは、このイレギュラーなイベントだった。

 これは、近隣中学校の3年生が志望校の見学にやってくるというものらしいが、授業風景や学校せつの見学に加えて、なんと『部活見学』の時間もあるというのだ。

 顧問のたけに職員室へ呼ばれ、バレー部のようを見てもらってもかまわないかとかれたのは先週のことだった

からすのへ見学に来る中学生のうち数名が、バレー部の様子も見てみたいということなんですよ」

「はぁ」

「そんな大人数じゃないんです。どうやら、四、五人らしいんですが、中学でバレーをやってる子も来るらしくて」

 練習を見てもらうのはかまわない。こうして気にしてもらえるなんて、ありがたいくらいだった。

 自分もかつて春高の試合を見て烏野を志望し、しかし入学してから監督が変わっていたことを知って驚いたいきさつもある。自分の目で確かめたいという気持ちはよくわかった。どんな先輩がいるか、練習メニューはどうなっているのかも気になるのだろう。澤村はこころよしようだくしようとした。

「僕たちはかまいませ……」

 返事をしかけた瞬間、部員たちの顔おもに日向、田中、西にしのやたちの顔がのうにフラッシュバックした。

「………!」

 澤村が不安を覚えたのはこのときだった。

「どうしました? ちょっと顔色が悪いようですけど……」

「いえ、大丈夫です。……いや、ちょっと待ってください」

 はしゃぐ。あいつらははしゃぐ。中学生が自分たちを見にやってくるとか、あいつら絶対にうわついてはしゃいで練習にならないに決まってる。こういうときのあいつらのテンションは、俺の手にあまるぞ。

 ソワソワソワソワ、ドキドキドキドキと興奮している日向たちの顔をなんとか振り払うと、澤村はもうわけなさそうにことわったのだった。

「すみません、やっぱりもうすぐ代表決定戦も近いので……」

 見学したい気持ちはわかる。だが、あいつらをまとめる俺の気持ちもわかってくれ! と、中学生たちに頭を下げてまわりたいような気持ちだった。

 そんなだんちようの思いを知るよしもなく、武田はあっさりと承知する。

「そうですか。いえ、強豪校の練習風景を見てみたいと言われましてね。そう言われると、僕もうれしくて、ハハ。大切な試合前に、君たちの集中のさまたげになっちゃいけませんよね。今から断りの返事をいれますから……」

 恥ずかしそうに首をすくめる武田の言葉に、澤村の目が光った。

「……強豪校?」

 その小さなつぶやきに気づき、受話器へ手を伸ばしていた武田が顔をあげる。

「ええ、県の強豪に返り咲いた烏野の練習を見てみたいと。先方も上手ですよね、僕もつい……」

 そこまで聞くと、澤村はにこやかにこたえていた。

「わかりました。部活見学、よろこんで引き受けます」

 つい武田と握手までして引き受けた部活見学だったが、まさか、ちょうど3年が全員不在となるときに行われるとはチェックが甘かった。

 抜かった、俺まで浮かれてしまった。まだまだだ、主将としてまだまだだ。あいつらのことを笑えないな……。

 せきの念に押しつぶされそうになりながら、澤村は部員たちに向かってくぎを刺し続けた。

「いいか、中学生が来てもふだんどおりにな。格好かつこつけようとか、いいところを見せようとか思ってよけいなことするんじゃないぞ。試合も近いんだ、ふざけず、浮かれず、ちゃんと練習するんだぞ、いいな? あと、なんか言っておくことは……」

 まるで初めて子どもを使いにやる親のように、必死に言い聞かせる。

「あ、そうだ……田中」

「ハイ!」

 主将にしされて、田中が一歩前に出る。

「わかってると思うが……お前、中学生、かくするなよ」

 一番心配なのはこれだった。田中のせいでバレー部のみならず学校自体に悪いうわさが立ってはたまらない。

 澤村の真剣な顔に、なにを言い渡されるのかと緊張していた田中がホッとがんした。

「そんなことしないっすよ  今日はドーンと大船に乗ったつもりで俺にまかせといてくださいよ、だいさん

 白い歯を見せて笑う田中の隣で、えんのしたつぶやく。

どろぶねの間違いだろ」

「え? なんか言ったか? とにかく、俺が、こいつらもちゆうぼうもビシッとまとめときますから安心してください

 親の心、子知らず。

 本当にドンと胸をたたいた田中の笑顔に、澤村はキュッと胃の痛むのを感じた。

「なあかげやま なあってば!」

 肩を落とした主将が体育館を出ていくと、日向はもう待ちきれないといった様子で隣の影山へ声をかけた。

「なんだ」

「お前さ、今日、どこちゆうが来るか聞いてる?」

「知らん。さっさと練習するぞ」

 影山は部活見学にはまるで興味がないらしく、さっさとボールを手にして歩きだす。らんらんと目を輝かせて、今にもピョコピョコねそうな日向とは対照的だ。

「待てってば!」

 影山の背中を追い、日向はワクワク、ワクワクと音まで聞こえてきそうな顔で続ける。

「見学とか楽しみだよなー。おれたちが要チェックの強豪! ってことだろ? あ、そうだ、おれの後輩も来るといいのになー! 中学のときにくらべたら、おれもけっこううまくなってるからな!」

「……うまくなった、だと?」

 影山がやっと振り返る。その目は冷たいを通り越し、いかりのあまりに燃えていた。後ろでえっへんと胸を張っていた日向がたじろぐ。

「な……なんだね、その顔は、影山クン」

「うまくないだろうが、このボゲ! えらそうなことは、ちゃんとサーブを入れられるようになってから言え! サーブだけじゃなくて、レシーブだってお前がねらわれて……」

「う、うるさいなー、わかってるし!」

 耳の痛いごとさえぎると、日向はちぇーっとふくれて逃げるようにコートへ走っていった。そして「クッソー!」とねんのサーブ練習を始めるのだった。

 

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