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怪談彼女 短編② 友達の要らない彼女と脱出仲間の彼  2 / 9

小説:永遠月心悟 キャラクター原案:ミウラタダヒロ 漫画:りぽでぃ

 話は二十分ほどさかのぼる。 
 私たち一年一組は体育の授業でプールに来ていた。 
 水泳の授業が終わって女子更衣室を出た私は、クラスメイトの女子三人に囲まれた。体が大きく声も大きく、それでいてわりと可愛い顔つきの大村咲貴。反対にクラス一小さくて視線があちこち飛ぶ加々美在。がりがりに細身で眼鏡をかけた不健康な顔色が常の園田倫香。この三人はクラスでも威張っているトリオだ。たまにこうして私に突っかかってくる……というか、私ぐらいにしか突っかかってこない。 
 クラス内に大問題児がいるので、実はそんなに悪人や意地悪がいないのがうちのクラスの特徴である。余計なことをして大問題児の目につきたくないというのが大半の意見だ。 
 さて、大村咲貴は胸を張ってふふんとせせら笑った。 
「野波さんさ、今日もサボっていたけど成績大丈夫? っていうか、泳げないんだったら来週私たちが教えてあげても……ってちょっと話を聞きなさいよ!」 
 私が教室へ帰ろうとすると、大村は慌てふためいた。お前、シカトに弱いなら突っかかってくるなよな。両端の加々美在と園田倫香も同じように戸惑った表情を浮かべていた。どうにもこの三人、つるんでいて気が大きくなっているようなのだが小物くさい。 
「あなたさ、クラスへの貢献度とか考えたことある? ないわよね。いつもクラス行事に無関心だものね。あやとりも何十本も持ってきて、変な子」 
 いくら無視されてもからんでくるお前もなかなかのものだよ。 
「まあそれはいいわ。実は私たち、先生にあのトンボを片づけておくように言われちゃったのよ。でも早く教室に戻って髪とか乾かさないといけないじゃない?」 
 大村咲貴は背中まである髪をかきあげる。加々美在はボブカットで、園田倫香はショートヘアー。大村、お前しかたぶんドライヤー要らないぞ。 
「だから野波さんさ、私たちの代わりにあれ、片づけておいてよ」 
 頭を縦に振って返す。 
「なに、逆らおうっていうの。いいわよ、だったら……え、片づけてくれるの?」 
 もう一度首を縦に振る。別にそのぐらいのお遣い、構わない。貢献度がどうとかは知らないが、私だって自分の生活態度が悪いことぐらいは理解している。この三人は悪ぶりたいのかもしれないが、実際そういうのにまったく向いていない。ここらでポイントを稼いでおくと、後々でかばってくれることもある。面倒くさいときは聞いてやらないが、いまはそう反発するほど機嫌は悪くなかった。 
 断られると予想していたようで、少し困った顔を浮かべた三人だったが、やがて大村咲貴が気を取りなおして胸を張る。
「じゃ、じゃあ頼むわよパシリ!」 
 パシリ、ぐらいが悪口の限界な辺り、なかなか可愛げのある奴らだ。こくこくとうなずいてプール道具を大村咲貴に渡すと、そそくさと三人は教室へ戻った。荷物を運んでくれる分だけ差しひいても、かなり労働環境のいいパシリである。
 目をつけてきたのがあいつらで良かったな、とは思う。友達づきあいをする気はないけれども、なんとなくあいつらが対抗意識を燃やしていると余計な敵が増えなくていい。どうも「野波小百合は私たちの獲物よ!」みたいな顔をするのだ、大村咲貴は。 
 プールの金網に立てかけられていたトンボを見る。十本はあるだろう。朝グラウンドで練習をやった奴らが片づけなかったのかもしれない。何故あの三人が頼まれたんだろう、と思ったのだが、そういや奴らは私たちの体育の担任教師、久住碧が顧問を務めるバレーボール部に所属している。そういう縁で頼まれたのだろう。 
 元々片づけをしなかったのは、陸上部かサッカー部、野球部あたりだろうか。私は一本のトンボを持ちあげる。なかなか重い。両手に一本ずつ持って移動するので手一杯だ。 
 五回に分けるか。少し手間はかかるが、帰り道に手ぶらなのはいい。両手に一本ずつトンボを持ち、一応引きずらずに体育倉庫へと向かう。倉庫の扉は大きく開いていた。気にしたことはないけれど、たぶんいつも開いているのだろう。いちいち施錠して開錠して、などとわずらわしいことこの上ない。 
 中に入る。トンボが他にも立てかけられているところがないか見てみると、どうやら入って右奥のところにあるようだった。粉っぽい空気をあまり吸わないようにしながら進む。物は多いが整理されているようでつまずくこともなく、トンボを立てかける。 
 さて、あとこれを四回やれば―― 
「あ、野波さん。これでいいの?」 
 両手に一本ずつトンボを持った男子が倉庫の中へと入ってくる。おい、と声をかける暇もない。そいつはすたすたとこちらへ歩いてきて、私に笑みを見せる。 
「……なにしているんですかね? 最悪器官」 
 斉藤槍牙――私や師匠たちが「最悪器官」と通称している存在だった。 
 私のクラスメイトであり、怪異がらみの厄介な力を持ち、そしてなにより八年前、私の家族が死んだ原因となった存在である。 
 この世で一番むかつく奴が、一体どうしてここに来たのかといぶかしんでいると、斉藤槍牙はトンボを片づけながら言う。
「着替えて外に出たら、大村さんたちと喋っているのが見えたんだ。その後、野波さんだけでトンボを片づけはじめたから、なにか強制されたのかなと思って」 
「強制というほどではありませんね。荷物を持っていってもらう代わりに、出しっぱなしのトンボを片づけるという話をしていただけですね」 
 あながち嘘というわけではない。大村咲貴には強制しようにも、隙が多すぎる。 
 そうなんだ、と言いながら斉藤槍牙はにこにことしているだけだ。 
「……黒川夢乃はどうしたんですかね? あいつの性格を考えたら、自分以外の女と一緒にいるあなたを見たら逆上してきそうなんですけれどもね」 
「ああ、髪の毛を乾かしているよ」 

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