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怪談彼女 短編③ 王子にされた彼と姫になりたい彼女

怪談彼女 短編③ 王子にされた彼と姫になりたい彼女

小説:永遠月心悟 キャラクター原案:ミウラタダヒロ 漫画:りぽでぃ
怪談彼女の最新5巻が8月4日に発売!! 黒川夢乃はじめヒロインたちの日常を永遠月先生が書き下ろし&4コマ漫画でお送りしております!  黒川夢乃の文化祭……悪い予感しかしない!!




「黒川夢乃さん! あなたに私の劇に出てほしいの――ヒロインとして!」

 力強い声が放課後の教室によく響く。彼女の声は非常に通りがいい。しかし俺たちは、まだ彼女の名前を知らない。制服の学年色で三年生の先輩とわかるぐらいだ。

 ホームルームが終わった途端に教室へ飛びこんできて、唐突に俺――斉藤槍牙の席まで来た彼女は、俺にではなく俺のすぐそばにいる幼馴染の女子へ開口一番そう言った。
それを受けた黒川夢乃は、入学式から半年たらずの間にすっかり馴染んでしまった(馴染まないでもらいたいのだが)俺の膝の上で、ふむ、と一つ嘆息して返す。

「断るわ。私は槍牙くんと離れるような仕事もお願いも聞けないのだから」

「大丈夫よ、彼も劇には出るから。出させるから」

「なら出るわ。台本を見せて」

「待って。いま俺を巻きこまなかったか? ねえ、ちょっと?」

 止める暇もなく黒川夢乃が受けとった台本を開いてぱらぱらと速読を始める。ものの十秒で確認を終えた黒川は、はい、と俺にそれを渡した。

「内容は非常に健全で安全なようね。少し足りない濡れ場は後から足せばいいし」

「濡れ場ってなんだ。いやそれより、ええと、先輩は……?」

 黒川と互角のハイスピードで会話を転がした脅威の先輩女子は、ふふんとふんぞり返った。ボブカットの髪、野暮ったい眼鏡、ブレザーを脱いで黄色いパーカーを着たファッションは上級生しかやらない崩し方で、真面目さと快活さが混在したような印象だ。喋り方やものの言い方も、どうやら彼女が明るい人柄であることを示している。

「私は三年五組の遠見梓よ。演劇部の元部長なの」

「元……ということは引退されたんですか?」

 十月ともなると各部活の代表が次世代へ継がれる時期だ。部活動に参加してはいない俺とて、学校の雰囲気ぐらいは多少察せられる。

 ところが遠見先輩は、いいえ! と元気よく首を横に振って返す。

「引退直前でクビを切られたの。『あなたは部長としての自覚がなさすぎる』ってね!」

 ……あまりの明るい物言いに耳を疑ったが、どうやら聞き間違いではないらしい。彼女は部員たちから部長の座を奪われ、部を追いだされたのだという。

 なお黒川はさっきから飽きたのか「槍牙くん、私以外の女の話を聞いちゃダメ」とか言いながら俺の胸板をさすってくる。邪魔だ、やめろ。くすぐったい。

「でも私は後悔していない! 私の夢はそう! 黒川さんの主演にした演劇を成功させること、ただそれだけなんだから!」

 ぐぐっ、とガッツポーズを取りどこか遠くに誓う彼女のうるささに、他の生徒たちはそそくさと帰ったようだ。気づけば教室の中には俺たち以外誰もいない。

「何故私なのかしら?」

 目を細め、黒川が尋ねる。先輩は胸を反らした。

「だってあなた美人じゃない! あなたに是非お姫様をやってもらいたくて、私は演劇部に提言しつづけたの。でも部員たちは部外者がヒロインを張ることも、黒川さんに演劇の依頼をすることも許しはしなかった!」

 だろうな、とは思う。いくら黒川が並みはずれた容姿を持っていたとしても、演劇部員でもないのに主演をやらせるというのは少なからず反感を買うはずだ。

「そして私が最後のチャンスとばかりに依頼を試みたとき、部員たちは私を強制退部させたわ。でもそのおかげで私は自由となり、こうして頼みに来られた!」

「なるほど、事情はわかったわ。それで具体的に、いつまでに仕上げればいいのかしら? 他のキャストもそろえなければいけないでしょうし」

「文化祭でやれればいいなと思っているのだけれど」

 鷹夏中学校文化祭、白銀嶺祭は一か月後だ。黒川ならば器用だから、その練習量でも演劇ぐらいこなせるだろう。たぶん。演劇をしている姿は見たことがないけれど。

 ……文化祭ならうちの妹が観に来そうだな、という不安はあるが。黒川になついているし。文化祭とか好きだし。まあ、別に観に来たっていいけど。

「キャストの問題はごめんなさい、まだ解決していなくて……でもなんとか暇な演劇部員や、つてを当たってみるから」

「いえ、大丈夫よ。見知らぬ女が槍牙くんに近づくのも私は嫌だから。それならばこちらの知りあいを連れてくるから任せてちょうだい。あとこの台本、少し書きなおさせてもらうわよ。いまのままだと、まだ槍牙くんと私の愛の場が足りないわ」

「ええ、あなた好みに変えていいわ」

「ってか待て、俺まで参加することになっているんだけど冗談だよな!」

 演劇未経験の俺まで巻きこんで、黒川が二つ返事でこの依頼を受けてしまった。

 演目の題は『白雪姫』。俺でも知っている童話であった。

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