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怪談彼女 短編③ 王子にされた彼と姫になりたい彼女 2 / 13

小説:永遠月心悟 キャラクター原案:ミウラタダヒロ 漫画:りぽでぃ

「というわけでいまから配役を発表するわ」

「待ってくださいね、黒川夢乃」

 俺たちが集められたのは黒川の家、神社の母屋だ。二十畳ほどもある、この家でもっとも大きな客間で車座になり、場を仕切る黒川夢乃の言葉を聞くのは俺、遠見先輩、クラスメイトの野波小百合さん、知りあいの怪異である零子さん、最近になって神社の居候となった詠ちゃんの六名である。

 キャスト発表とかいう発言を受け、口をはさんだのは野波さんだ。

「何故私たちまで巻きこまれているんですかね?」

「三人では役を回すことができないからよ」

「協力するメリットがないって言っているんですね」

 黒川と野波さんがにらみ合う。零子さんと詠ちゃんは「演劇だってー」「わーい楽しみー」と呑気なものだ。ぎすぎすしているよりはいいが。

 ……異を唱えても無駄なのは知っているので、俺は流されました。

 それにもう一つちょっと嬉しいこともあった。黒川が俺以外の人とこうして関わりを持つことは珍しい。黒川に友達(遠見先輩は先輩だけれど、友達と言って悪いこともないだろう)ができることも、俺は嬉しいと思っている。

 黒川と俺の社会参加。その足がかりにもなるのなら、多少の苦労はいとわない。

「というか舞台の上で顔を出すとか恥さらし以外の何物でもありませんね」

「大丈夫よ、あなたは顔を出さない配役だから」

 そういう問題じゃありませんね、とでも言いかえせばよかったのだろうが、野波さんはそこで言葉に詰まってしまう。隙を突くように黒川が話を続けた。

「さて演目はみんな知っている『白雪姫』。もちろん主役の白雪姫は私がやるわ」

「黒川ちゃんをみんなに見せたいから立てた企画だもん。当ったり前だよね!」

 親指を立ててウィンクして見せる遠見先輩は、すでに馴染んだようで黒川をちゃん付けで呼ぶに至っている。やや強引なところが黒川と性に合ったのかもしれない。

「王子様と狩人は槍牙くん。二役だから出番が多いけれど、私の槍牙くんなら大丈夫よ」

 お前の槍牙くんじゃないけどな。

 王子様は最後にお姫様を口づけで起こすシーンで有名な役である。一方、狩人は最初に白雪姫の暗殺を頼まれるも、白雪姫を外へと逃がす地味な役どころだ。黒川がすでに脚本に手を加えたらしくて、その狩人が実は遠い国の王子様で、成長して大きくなるまでは命を狙われるため、この国の猟師に預けられていた、という設定が付与している。白雪姫を起こすときにはもう自分の国へと戻り、王子の身分で白雪姫を探しているという状況だ。つまり二役のようでいて、同一人物なのである。

 
「白雪姫の美しさに嫉妬し、怒りにまかせて毒リンゴを食べさせる妃。零子」

「ほーい」

 ぶんぶんと手を振っている零子さんだが、普段の雰囲気と暗殺を企てた妃とのギャップが酷い。大丈夫だろうか。演技とかできなさそうな気がするんだけれど。

「妃に予言を告げる無機質なる鏡。平賀」

 旧姓で呼んでいるが、野波さんのことだ。彼女は返事もせず、そっぽを向いた。確かに顔は出さなくてもいいだろう。演出によって変わるだろうが。

「白雪姫を助けてくれるドワーフ、詠」

「はーい!」

詠ちゃんが元気よく手を挙げる。ねえねえ、と零子さんが疑問を呈した。

「七人の小人ってやつだよね? 一人でいいの?」

「ええ、大丈夫よ。私と槍牙くんの子だもの。七人力どころか百人力よ」

 むんっ、と出てもこないのに力こぶを見せる詠ちゃんだが、俺と黒川の子でもないし、小人のところで大きなエピソードもないので一人で大丈夫というだけだ。とどのつまり、狩人から逃がしてもらった後の白雪姫をかくまってさえくれればいいのだから。

 そしてその目を盗んで妃――零子さんが毒リンゴを食べさせに来るという筋である。

「その他、ナレーションから裏方担当、大道具小道具ライトに音楽はぜーんぶ私がやるから任せてちょうだい!」

 遠見先輩が胸を叩く。それだけの作業を一人で回すとはものすごいバイタリティである。手伝えるところはもちろん、俺も手伝うつもりだが。

 黒川が、そうそう、胸をそらして言う。

「衣装は私に任せてちょうだい。できあいのダサい服は着たくないし、まあこれだけの人数分なら平気よ。後で採寸だけするから、いいわね?」

「ええ、お願い黒川ちゃん。さあ、それじゃあ台本の読みあわせをするわよ」

 遠見先輩が手早い動きで俺たち一人一人に台本を渡してくれる。芸が細かく、ページの端や台詞のところに色を塗ってくれているので、自分の出る場面がすぐわかる。

 さて。黒川が手を入れたというのだから従来の『白雪姫』とは違うだろうが――

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