ジャンプ×小説 JUMP j BOOKS

WebノベルWeb Novel


僕のヒーローアカデミア 雄英白書2

僕のヒーローアカデミア 雄英白書2

原作:堀越耕平 小説:誉司アンリ
あらすじ
大好評の小説版第2弾がついに登場! 今回は、コミックス8〜10巻に収録されている雄英高校の恒例行事「林間合宿」の裏側がメインテーマ!? 本編ではのぞけな かった1-Aの生徒たちの合宿での“日常”エピソードが満載!? もちろん、堀越先生描きおろしイラストも多数収録!!

 よく晴れた六月最後の日曜日、目前までせまる暑気を予感させる気持ちのいい絶好のお出かけ日よりだ。

 だが、みどりやいずはそんな天気が広がっている窓の外には見向きもせず、自室の机にかじりついている。期末テストのためだ。天下に名をせるゆうえい高校ヒーロー科といえど、学生である以上、本分は勉強なのだ。普通の学生のように、普通にテスト勉強もする。

 だが、普通ではないしよが一つある。左手だ。

 右手は数学の問題をいているが、左手はハンドグリップをにぎっていた。頭で難しい数式を解いている間も、左手はなく動き続ける。

 一年前は難しかった。

 あこがれのオールマイトに出会い、〝個性〟をゆずけるために貧弱だった体をきたえに鍛えた。海岸清掃をしつつ、雄英高校の受験勉強中も鍛え続けた。初めは右手と左手で別のことをやるなどなかなか集中できなかったが、それでも続けるうちに次第に慣れた。オーバーワークで倒れたことなど、今では笑い話になるくらいに。

 誰かをたすけるためには、力がいるのだ。

「ふう」

 自分で決めた範囲を終えて、出久は一息つき顔を上げて部屋にっているオールマイトのポスターをながめた。左手もいったん休憩だ。

 ポスターのオールマイトは、筋骨りゆうりゆうな体でニカッと笑っている。

 憧れ。あん。気合。高揚。

 オールマイトは出久のやる気をかんけつせんのように引き出す。あこがれのヒーローになるための尽きることがないエネルギーだ。

「……よしっ、やるぞ!」

 出久は教科書のページをめくる。普通科目の成績はクラスでも上位のほうだから、それほどの不安はない。けれど、今回は絶対に合格点をとらなければいけないのだ。

 なぜなら、赤点をとった者は林間合宿に行けない。

「……かみなりくんたち、大丈夫かなぁ……」

 問題に取りかかろうとしていた出久は、一瞬心配そうに顔をしかめた。赤点のペナルティを知ったクラスメイトの絶望っぷりを思い出したからだ。

 そういえば、およろずさんに勉強教えてもらうって言ってたっけ。……優秀な八百万さんが教えるんなら、きっと大丈夫だよね。

 八百万のキリリとしたおもちを思い出し、出久は改めて机に向かった。

 クラス全員で林間合宿に行けることを願いながら。

 

 一方その頃、ろうきようかは出久が心配していた上鳴でんたちといつしよに、八百万ももの家の前に来ていた。

「え、ここ……?」

「ウソだろ……どっかの大使館じゃねーの……??

 上鳴とはんぼうぜんつぶやく横で、じろましらおがスマホで地図を確認して言う。

「いや、住所はここで合ってるよ……」

「超~豪邸!!!」

 あしが簡素に、そして素直に驚きを口にした。

 五人の前にそびえ立つのは、門。首を真後ろに倒させてしまうほどの高さとごうしやな造りをしている。門に続いている塀も同じように高く、永遠に続くのかと思うほど果てしない。

 最寄駅で待ち合わせしてやってきた五人は、八百万の家に向かう途中に現れたあまりに延々と続く壁の存在に気づいたとき、最初はなんの建物なのかと興味を引かれるくらいだった。けれどそれが目的地に近づいても一向に終わってくれないので、耳郎たちはじんわりといやな予感をつのらせながら歩いてきた。上鳴と芦戸は、そうでもなく楽しく会話しながら歩いてきたが。

 とにかく、塀と門だけでも圧倒されるのに十分だ。もしここがどこかの国の大使館で、耳郎たちが別の国のスパイだとしたら、「今日はいったんやめとこうか」ときびすを返し、対策をらなければならない。

 いや、スパイでなくても「今日はいったんやめとこうか」といますぐ踵を返したいくらいだと耳郎は思う。

 お嬢様だと思っていたが、まさかこれほどとは。

 人間、予想以上の事態には及び腰にもなるというもの。

 耳郎のまゆが不安そうにしかめられたそのとき、目の前の門が開いた。大きな門のわりにはスムーズに開かれ、よく手入れされているのがわかる。

「耳郎様、芦戸様、上鳴様、瀬呂様、尾白様でございますね」

 開いた門の先には礼服を着たややがらな老人が立っていた。七十代前半といったところだろうか。にゆうわな顔立ちにしらじり。だが背はピンと伸びて若々しい印象を与える。

「は、はいっ」

 ふだん、年長者から様付けで呼ばれることのない五人はあわてて返事をする。それにこたえるように老人はしわきざみながら品よく微笑ほほえんだ。

「よくおいでくださいました。私、八百万家のしつうちむらと申します。百お嬢様が首を長くしてお待ちしております。さ、どうぞこちらへ」

「は、はいっ」

 五人はぎくしゃくと内村のあとについていく。

「執事! 本当にいるんだね、執事!」

「執事がいるってことは、もしやメイドさんもいるんじゃねえ!?」

 小声ながらも興奮をおさえきれない芦戸の言葉に、上鳴も小声で同意する。耳郎が「ちょっと……」と二人をいさめようとしたその時。

「はい、おりますよ」

 執事は二人の会話に、にこやかに答えた。二人のぶしつけな会話にも、気を悪くしてはいないようだ。これほど大きな家の執事ともなると、ちょっとやそっとのことでは取り乱したりはしないのだろう。

 森かな? と思うような美しく手入れされた広大な庭を抜けたところに現れた家に、耳郎たちは改めて圧倒された。大使館どころの話ではなく、城だった。もう一度門の外に戻ってここは日本かと確かめたくなるような、立派な西洋建築が威風堂々と建っている。

「いらっしゃいませ」

 そして通された玄関ホールで耳郎たちを待っていたのは、多勢のメイドたちだった。耳郎たちがなんとあいさつをしたものかとまどっていると、ホールの奥から小走りでやってくる女性がいた。

「まぁまぁいらっしゃい……! いつも百がお世話になって……。百の母でございます」

「あっ、こんにちは」

 五人を前にふわりと笑う顔は、八百万を大人にし、やわらかくしたような印象だ。

「こんなにたくさんお友達がいらしてくれるなんて、とてもうれしいわ。……あら、あなた」

「え」

 耳郎は思わず自分の服を見た。八百万母の視線がじっと自分の服にそそがれていたからだ。

 自分でえりぐりを大きく切りカスタマイズした肩出しTシャツに、かわパン、手首には革にびようのついたブレスレット。自分の中では、おとなしめのセレクトだ。

(……なんか、ヘン?)

 やわらかそうなカーブを描いていた八百万母の眉が、わずかに寄せられたような気がする。だが、それはつくろうようなみにすぐにうち消された。

「あっ、百は今、講堂で準備をしておりますの。さっそくご案内いたしますわね」

「それでは……」

「いいわ、じいや。私が」

 八百万母は執事にそう言うと、「どうぞこちらへ」と五人を案内するように家の奥へ進んでいく。五人はゆったりとした歩みについていきながら、しげしげと家の中を見回した。

 花と植物の描かれた壁紙に、大理石のゆか。廊下の壁にはどこかで見たことのある絵画や壺が飾ってあったり。

「ベルサイユ宮殿だ……行ったことないけど」

「だな……行ったことないけど」

「同意だよ……」

 ぜんと呟く上鳴たちに、耳郎も心の中で同意したその時、芦戸が感心したように言う。

「ここがヤオモモんちなんだねー。そりゃお嬢様だわ!」

「ヤオモモ?」

 芦戸の言葉に、八百万母が振り返る。耳郎はあわてて口を開いた。

「あっ、ヤオモモはヤオモモの……じゃなくて、えっと百さんのあだ名っていうか」

「まぁ、百はあだ名で呼ばれているのね! ヤオモモ……ヤマモモみたいで可愛かわいらしいわ。私もつけてもらいたいくらい」

「それじゃ、ヤオモモのママだから、ヤオママだ!」

「私のあだ名? 嬉しいわ、ヤオママと呼んでくださらない?」

「ヤオママー!」

「はーい」

 じやな芦戸の提案に、言葉どおり嬉しそうに笑う八百万母は心からの笑顔に見える。けれど耳郎にはさっきの八百万母の視線がのどに引っかかった小骨のように残っていた。

 もしかしたら、こういう服とかきらいなのかな? でも、他のみんなとそんな変わんないと思うんだけど……。

「どした? 下ばっか見て」

 上鳴に声をかけられ、耳郎は顔を上げる。頭悪いのに、たまにするどい。

「……うっさい。べつに、きれいな廊下だなって思っただけ」

「あ~、だよな。夏とかここでころがりてえよな。すずしそう」

「転がりたくはない」

「あっ、なんだよー」

 のうてんそうな上鳴の顔に、耳郎はふっと小さく息を吐いた。

 服を気にしてもしかたがない。今日は勉強を教わりにきたのだ。

「アンタが一番がんばんなきゃいけないんだからね。なんせクラス最下位なんだから」

「……言うな、言うな。みなまで。すべては八百万先生にかかっているんだからよ」

「ヤオモモにすべてを託すな」

「だから、みなまでだって言ってんだろー」

 それから少しして、やっと五人は講堂に着いた。講堂というだけあってさすがに広い。そのかたすみに長いテーブルとが用意されていた。

「百、お友達をお連れしましたよ」

「みなさん、ごめんなさい。お出迎えもせず……。さっきまでどの参考書がいいか迷っていましたのっ」

 講堂で待っていた八百万は、メガネをかけ先生ようだ。上気したほおとキラキラとした目が、今日の日を心待ちにしていたことを物語っている。

「それじゃ、私はこれで……。あとでお茶を持ってまいりますわ。百、しっかり教えてさしあげるのよ」

「はい、お母様」

 扉をめ八百万母が出ていくと、耳郎は人知れずホッとしてしまった。そんな自分がやる気満々の八百万の前で、少しだけ後ろめたい。そんな耳郎には気づかず、八百万は鼻息荒くみんなに声をかける。

「さっ、おかけになって。さっそく勉強を始めましょう!」

「おー!」

「よろしく」

「頼むぜ、八百万先生!」

「先生の肩に、俺の林間合宿がかかってんだ……!」

「だから託すなっての」

 みんなからの期待に、八百万は感動に打ち震えながらしっかりと答えた。

まかせてください! 必ずみなさんのお役に立ってみせますわ……!」

 かくして、勉強会は始まった。

 

 その頃、とある図書館ではまた別の勉強会が始まろうとしていた。

「頼むぜ、ばくごう!」

「うっせーんだよ、クソがみ!」

 日当たりのいいまどぎわの席できりしまえいろうと爆豪かつがそう言うと、本を読んでいたまわりの大人や子供たちから視線を向けられる。静かにしてという目線だ。

「すんません!」

 切島があわてて周囲にあやまるがその声も大きく、おじいさんから「せいがいいねぇ」としようされてしまった。今日は日曜日。幼い子を連れた家族や、調べものをしにきた学生からお年寄りまでまぁまぁの混雑あいだ。

 なぜ二人が勉強会をすることになったかというと、八百万が関係していた。

 普通科目の成績は八百万がクラス一位で爆豪が三位。上鳴たちに教えをわれる八百万を見て切島が「この人徳の差よ」とからかったところ、「俺もあるわ! てめェ、教え殺したろか」と爆豪が返したのを切島が本気にしたのだ。ちなみに切島は十五位である。

「なぁ、家じゃダメだったのかよ」

 地声が大きい切島が、声をおさえて聞く。

「お前んちまで行ってられるか、めんどくせえ」

 爆豪はあまり気にすることもなく、いつもどおりの声で答えた。

「じゃあお前んちでも」

「ババアがうるせえんだよ。チッ、ちゃっちゃと終わらせるからな」

「おう! ……あ、すんません……」

 周囲の視線をまたしても集めてしまい、切島は小さくなる。図書館というものは、けんそうとはかけ離れていなければならない場所なのだ。だから、昔からあまり縁はない。

 しかし、勉強は教えてもらわなければいけない。林間合宿に行けなくなってしまう。

「いちいちあやまってんじゃねーよ、バカか。あ、バカか」

「バカじゃねーよっ? バカじゃねーけど、お前よりはバカだから教えてもらうんじゃねーか」

「一回しか教えねーからな、さっさとしろ」

「おう! ……あ」

「いーからさっさと問題見せろやっ」

「じゃあまず……これだな」

 周囲の視線を気にしつつ、切島は持ってきた教科書を開いて、引っかかった問題を指さす。二次関数の応用だ。

 

トップへ
トップへ