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小説おそ松さん ヨコ松【カラ松、秘密基地を作る】

原作:赤塚不二夫「おそ松くん」
小説:石原宙
今回のヨコ松では『欲求不満プリンター』でおそ松の願望が実体化!? 『実録! デリバリーニートのすべて』では伝説のニート「十四松さん」を追う! 『公開大詮索』では猫田一(仮名)と名乗る一松そっくりな若者が登場したり……ほか全8編収録。相変わらず荒唐無稽で抱腹絶倒な6つ子たち!  限定版では描き下ろしイラストを使用したアクリルチャーム6種付き! おそ松さん製作委員会監修。 ※通常版(電子書籍のみ)も同日配信。

「カラ松、あんた部屋のリフォームをしなさい」

「え? 急にどうしたんだマミー? そしてなぜオレなんだ?」

 その日、カラ松は思いがけない指示を母・松代から受けた。

「リフォームなんてしたことないぞ!?」

 それはそうだ。

 あり余る時間を、さんざん酒やギャンブルに費やしてきたダメニートが、そんな技術を持っているわけがない。

 覚えのある技術と言えば、自己満足のギターと奇抜な服づくりと誰も見てない前髪を整えることくらい。

 そんなカラ松には荷が重すぎた。

 しかし、

「あんたが屋根を踏み抜いたからでしょ!?」

「確かに……そうだが……」

 カラ松は申し訳なさそうに二階の部屋の抜けた天井を仰ぎ見た。

 そこからはさんさんと照る太陽が顔を覗かせていた。

 昨夜のことだ。

 いつものように屋根の上に登って哀愁のギターを奏でていたカラ松。

 だんだん気分が乗ってきて、売れっ子アーティスト気分で屋根の上を飛び跳ねながらギターをかき鳴らしていたところ、老朽化していた屋根を思い切り踏み抜いてしまったのだ。おかげで6つ子たちの部屋の天井には大きな穴が開いてしまった。

「ミステイク……!」

 当然修理をしなければいけないが、家計は火の車の松野家である。

 修理を業者に頼む予算もない。

 だから責任をとってお前が直せと松代は言うのだ。

「この家も古いし、いい機会だから綺麗にリフォームしてちょうだい? じゃあこれだけ渡すからあとは頼んだわよ!」

「お、OK……マミー……」

 いくらか金を渡されて。

 やむなくカラ松は家を出て、買い出しに行くことになった。

 

「ここがホームセンターか……」

 店に入るなりきょろきょろとするカラ松。

 リフォームといったって何をすればいいのかわからない。

 ひとまず材料や工具を揃えるために、カラ松は近所のホームセンターへ足を運んだ。

 普段あまり来る機会のない場所だ。

 いまいち勝手がわからず、当てもなく店内を歩いていると、

「ん……? これはなんだ?」

 ふと棚の上にあった商品が気になり、手に取ってみる。

「OH……! クールだ……!!」

 カラ松は衝撃を受ける。

 それは充電式のドリルドライバー。

 ダークブラックの持ち手に艶のあるシルバーを利かせた、無骨さと色気をあわせもつ珠玉のボディが光る。

 ひとたび手に持てば、男なら誰だって謎の敵エージェントとの銃撃戦や襲いくるゾンビとの死闘を演じてみたくなること請け合いだ。

「おお、他にもこんなに……!」

 次々に駆け寄って、板金塗装用のスプレーガンやガンタッカーに目移りするカラ松。

 いまいち用途はわからないがかっこいいのはわかる。男にはそれだけで十分だ。

 カラ松はたちまちホームセンターの魅力に取りつかれてしまった。

 夢中になり、店内のあちこちを見て回る。

 工具のほかにも、クールな建材、アバンギャルドな造形物。

 見るたびに、むくむくとカラ松の中で創作意欲が膨れ上がっていく。

 確かに、素人にリフォームなんて荷が重い。

 しかし自分だけの城がつくれると思ったらどうだろうか。

 部屋を自分色に染め上げられると思ったらどうだろうか。

「……秘密基地だ」

 カラ松は呟くと、天を仰いで目を閉じた。

 想像する。誰も知らない都会の地下、ある高層ビルの地下駐車場には秘密の暗号で開く壁があり、街を守るスーパーヒーロー・カラ松の秘密基地につながっている。漂う機械油と火薬の香り。鈍色のパイプが何本もコンクリート打ちっぱなしの壁をのたうっている。基地の中央には流線型のスタイルをした改造スーパーカーが出動の時を待ち、黒く美しい車体に地上から採光した微かな月灯りを映していた。

「いいぞ……いいぞ……!」

 まさにサイバーパンク。孤高のヒーローとはオレのこと。基地の整備や清掃は、おそ松たち5人の兄弟を使ってやろう。

カラ松は前髪をかき上げ、きらりと瞳を光らせた。

「オレはつくるぞ! 男の秘密基地を!!」

 

 

……そんな決意の一方で。

「あーいたいた、カラ松ー」

 のらりくらりと現れて、片手をあげたのはおそ松。

 さっきまで昼寝でもしていたのか、いかにもやる気なさげな様子だ。

「おそ松? どうしたんだ?」

「あー、母さんに手伝えって言われてさー。死ぬほどめんどくさいけど」

 松代いわく、天井が壊れたのは6つ子の共同責任。

 普段から、屋根の上にのぼるのはカラ松に限ったことではない。

 6つ子の誰もがしていたこと。壊したきっかけはカラ松だったが、そもそもは節操なく6つ子が屋根にのぼり続けたことが原因で、つまりは兄弟全員に責任がある。

 だからおそ松や他の兄弟たちも、カラ松と一緒にリフォームするよう松代に言われ、嫌々やってきたのだ。

「なるほどそういうことか……」

 人手が増えて少し安堵するカラ松。

「手伝ってくれるなら助かるぞ、ブラザー」

「いや、俺は見てるだけだし? カラ松……作業は任せた!」

 しかし当然のように言ってのけるおそ松。

 これにはさすがのカラ松も言い返して、

「待て! お前も頼まれたんだろう!?」

 すると、おそ松の後からぞろぞろと他の兄弟たちもやってきた。

 いつも以上に眠たそうな目で、まずは一松が声をかけた。

「おいクソ松、終わったか? もう終わっただろ」

「終わるわけないだろう! まだ始まってもいない!」

「マジで? いい加減にしろよ」

「えぇ――――――――――!?」

 続けてチョロ松が眉根を寄せて言う。

「あのさぁ、カラ松兄さん。仕事には段取りってものがあるんだよ。つまり事前の根回しや準備。仕事の良し悪しは目に見えるものじゃなくて段取りが決めるんだ。……で、もう終わった?」

「終わってないと言ってるだろう!!」

 トド松は陽気にスキップを踏みながら言った。

「じゃあさ、打ち上げはどこにするー?」

「だから作業はこれからだ!!」

「あはははは! 飲もう飲もう!」

 プシュッ!

「おい待て十四松! 店内で缶ビールを開けるな! めちゃくちゃ見られてるだろう!?」

 初めから手伝う気はさらさらなく、そろってカラ松に面倒を押しつける気満々の五人。

「どれだけお前たちはやりたくないんだ!?」

 こうして序盤から不安しかない松野家リフォーム大作戦が始まった。

 

©赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

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