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season

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要高悟 イラスト/りばた
4人組アイドルグループ「season」。普通の人生を送りたくないリーダーの日菜子、消極的な性格なのにステージでは魅力的な輝きを放つフロントの夏希、明るく良い子だが恋愛経験がなくコンプレックスを抱えるみのり、子役やモデルとしてキャリアを積み芸能界しか生きる道がない優樹乃。seasonは地道な活動と過激な戦略で成功を治めていくが、事件やスキャンダル、家族問題、恋の悩みなど次々にトラブルが降りかかり、やがて混乱と熱狂が加速していく…。  
 
登場人物
・成瀬日菜子…seasonのリーダー。MCやイベントの進行も担当。
・本郷夏希…seasonのフロントを担当。
・西嶋みのり…seasonのフロントを担当していたが降ろされてしまう。
・大原優樹乃…みのりに替わり、seasonのフロントを担当。
 
・高梨ノボル…seasonのプロデューサー。
・木崎…ドリームマイスターのアイドル部門統括責任者。
・石田…seasonのマネージャー。
・鳥羽…seasonのマネージャー。
 
・宗方彰…カメラマン。
・芹沢悠…若手の実力派男性俳優。
・伸久…駆け出しの俳優で、日菜子の恋人。


■season09
 
 
 翌日の朝、夏希が集合場所のスタジオに着くと、カメラを構えた見知らぬ男性が入口にいるのが目に入った。
 そういえば、と夏希は思い出した。ニュース番組で特集されるので、今日から一週間ほど密着取材があると聞かされていたような気がする。
 そして、そのカメラの前では、夏希同様に到着したばかりらしい優樹乃が、何かを喋っていた。夏希はその横を通り過ぎるとき「おはようございます」とカメラを構えているスタッフに軽く声をかけた。ただ、優樹乃には何も言わず、優樹乃のほうも夏希を見なかった。
 まあいいか、と夏希は思った。
 こういうときは無理に話さないほうがいい。どうせ今日はすぐにリハーサルだ。リハーサル中は何がしかやり取りをせざるを得ないので、終わる頃にはお互い普通でいられるだろう。
 実際、そうなった。その日の仕事が終わる頃には、昨日優樹乃と険悪な雰囲気だったことなど、夏希は忘れてしまった。
 
 
《season仲悪すぎ》
《やっぱ性格悪いな本郷》
《大原のほうがヤな感じだろ》
 ニュース番組で流れた一場面に、ネット上ではそんな批判がいくつも上がった。
 カメラに向かって挨拶をしている優樹乃と、それを無視してカメラマンにだけ声をかける夏希。しかも、優樹乃はすぐにカメラから離れて夏希と同じ方向に歩き出したが、前を行く夏希に話しかける様子もない。
 さして意図もなく放送された、ごく短い場面だったが、そこだけ切り取られて動画サイトにアップされたりして、いくらか話題になった。
 しかし、そういったことはいくらでもあった。「不仲」「仲悪い」「性格悪い」「態度」……。seasonやそのメンバーの名前を検索サイトに打ち込むと、追加キーワードの予測にはそんな言葉が並ぶようになった。今やメンバーの些細な言動は、その批判と共にテキストや画像、映像といった形で無数に増幅していく状態だった。
 特に夏希に対する批判は多かった。無愛想、態度が悪い、とネット上の一般人のコメントでも週刊誌の記事でもよく書かれた。
 夏からレギュラーで出演している連続ドラマの現場でも無愛想で、現場の空気がギスギスしている。そうも書かれた。
 実際のところ、現場にその緊張感があるのは、主役とプロデューサーが対立していたり、予算の関係で急遽ロケ場所が確保できなくなったり、といった様々な事情によるものだ。しかし、人々は分かりやすいゴシップを求めたし、その上視聴率も振るわないので、何となく夏希がスケープゴートにされた感は否めなかった。
 そんな中、高梨は夏希のソロデビューを決めた。
 デビュー曲のタイトルは『毎日が夏休み』。夏希は最初、聞き間違いかと思った。
「発売は十月、ですよね……」
「うん。まあ、何ていうかツッコミ待ちの曲? 「もう秋なのに」って誰もが言うでしょ。曲自体がそういう分かりやすいボケ、みたいな。今の世の中、みんなツッコみたいから、それを用意するってやり方も面白いかなって思って」
「はあ……」
 打ち合わせ場所である事務所の会議室で、夏希は曖昧に頷いた。テーブルの上に置かれたA4サイズの紙に、もう一度目を落とす。
「まあ、あとは季節のキーワードの入ってる曲って、ある程度ヒットするとその時期が来るたびに流されるから、結構美味しいし」
「そういえば、高梨さん季節感のある歌多いですね。『風薫る』とか」
「そうかな? ま、本当のこと言えば、季節ものって作りやすいんだよね。目の前にある風景をどうにか形にすればいいわけだから。僕もう、ネタのストックとかないしねー。俳句の季語とか季節の風景画とかさ、あれってクリエイターのネタ枯れを防ぐためのシステムだと思うんだよね。よくできてるよね」
「…………」
 高梨の言葉はどこまでが本気か分からない。夏希は黙って高梨を見返した。
 その夏希に、ふと高梨が言った。
「ツッコまれるうちが華だよ、本郷」
「——」
「いろいろ言われるってことは、それだけ関心を持たれてるってことだから。前言ったでしょ? メジャーになったんだよ、君は」
「メジャー……」
「そう。あんまり嬉しくない?」
「……よく分からないです。実感もないし」
「ま、そうだろうね。初めてだもんね。僕は何回か経験があるから分かるけど」
 高梨は得心した様子でそう呟くと、夏希をまっすぐに見つめた。
「あのね、本郷——世の中の人は君のことすごい嫌うし批判するし、すごい利用もするけど、その何百倍も君のことを好きだよ。そういうものだよ」
「…………」
 夏希は頷けなかった。だが、高梨の言うことはほとんど理解していた。
 自分は愛され、求められている——その実感は、夏希にもあった。
 そしてそのことは、何とも表現しがたい昂揚として、ときどき夏希を満たした。それは真実だった。
「高梨さんも、私のこと好きですか」
 夏希はぽつりと尋ねた。高梨は即答した。
「もちろん」
「——」
「君たちはよく頑張ってると思うよ。それに『switch』もこの曲も、可能にしてくれたのは結局君たちだからね。君たちが売れてればこそ、どんなバカみたいなことでもスケール大きく試せるんだもの。プロデューサーとして、そういう相手のことは、そりゃあ好きだよ」
 高梨の言い様は身も蓋もなかった。しかし、その分、どこにも嘘がなかった。夏希は笑った。
 
 

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