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season

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要高悟 イラスト/りばた
4人組アイドルグループ「season」。普通の人生を送りたくないリーダーの日菜子、消極的な性格なのにステージでは魅力的な輝きを放つフロントの夏希、明るく良い子だが恋愛経験がなくコンプレックスを抱えるみのり、子役やモデルとしてキャリアを積み芸能界しか生きる道がない優樹乃。
seasonは地道な活動と過激な戦略で成功を治め、念願だった武道館の舞台に立つ。一方で、メンバー間では格差が広がりはじめ、みのりは焦りのあまりマネージャー鳥羽との禁じられた恋愛にのめりこんでいき…。  
 
登場人物
・成瀬日菜子…seasonのリーダー。MCやイベントの進行も担当。
・本郷夏希…seasonのフロントを担当。
・西嶋みのり…seasonのフロントを担当していたが降ろされてしまう。
・大原優樹乃…みのりに替わり、seasonのフロントを担当。
 
・高梨ノボル…seasonのプロデューサー。
・木崎…ドリームマイスターのアイドル部門統括責任者。
・石田…seasonのマネージャー。
・鳥羽…seasonのマネージャー。
 
・宗方彰…カメラマン。
・芹沢悠…若手の実力派男性俳優。
・伸久…駆け出しの俳優で、日菜子の恋人。
・大原光雄…優樹乃の父。


■season11
 
 
 今日も真夏日だとニュースのキャスターが告げた、八月のある日。ロケ地であるショッピングモールで、優樹乃は首元のマフラーに指を掛けた。
 今日は、クラッチのミュージックビデオの撮影だった。彼らの新曲は一組のカップルの出会いから別れまでを歌った曲で、映像もそれに合わせ、二人のドラマを季節を追って映し出すものとなっていた。ここでは、冬、カップルがクリスマスを楽しむ場面を撮影することになっている。
 優樹乃の相手役は、相楽という二十代前半の俳優だった。背が高く、ふわふわとした猫っ毛をしている。数年前に学園ものの映画で少し顔が売れたものの、以降はこれといって目立った作品への出演がなく、さして知名度は高くなかったように思う。
「さすがに暑いっすね」
 相楽が、手で顔を扇ぎながらそう言った。
 真冬のシーンであるため、彼も優樹乃も厚着だ。相楽はダウンジャケット、優樹乃はダッフルコートにマフラー。足元はブーツだ。まだ午前中だが、すでに十分に暑い。
 周囲のスタッフがTシャツやタンクトップという軽装の中、二人は顔を見合わせて、苦く笑った。
「何か、俺たち罰ゲームさせられてるみたいですよね」
「本当ですよ」
 優樹乃がそう言うと同時に、監督が声を上げた。
「はい、じゃあ、行くよ!」
 優樹乃と相楽は、もう一度顔を見合わせ、そして本番が始まった。
 
 
 撮影は順調に進んだ。暑い日差しの中、長い時間、優樹乃と相楽は演技を続けた。
 その中で、優樹乃は相楽とすぐに打ち解けた。悪条件を共有していることや、また、この年頃の男性俳優にありがちな、才走った雰囲気が相楽にないこともその大きな理由だった。共演者である優樹乃やスタッフへの対応は、プロとしての姿勢を感じさせるしっかりしたものだったが、物腰はいつも穏やかなのだ。
 その後も場所を変え、丸二日間、ミュージックビデオの撮影は続けられた。撮影は終止慌ただしかったが、優樹乃は落ち着いた気分でそれに臨むことができた。
 
 
 そのミュージックビデオ撮影が終了した翌日、仕事終わりの夜遅くに、優樹乃は宗方と四谷のカフェで待ち合わせをした。
 先に来ていた宗方は、窓際のカウンター席で、行き交う車のヘッドライトを眺めていた。
 会うのは二週間ぶりだろうか。記憶にあるより、少し肉が削げた横顔だった。
「痩せたね」
 宗方の隣に座ると同時に、優樹乃はそう言った。
「え、そっかな。自分じゃそうは思わないけど」
 宗方が自分のウエスト回りを手でさすった。
「でも、最近ごはんたくさん食べることないかも。結構忙しくてさ」
「そんな感じする」
 痩せたとはいえ、宗方に貧相なところはまるでなかった。彼は精悍になっていた。何かに集中している人間の、研ぎ澄まされた顔をしている。
 そして、宗方はカプチーノの入った白いカップを持ち上げながら、ふと思い出したように言った。
「あ、そういえば——昨日、浦島って広告代理店の人に会ったよ」
「浦島……ああ、CMの……」
「うん、それ。CMの撮影で優樹乃に会ったって言ってた。俺のこと、優樹乃から聞いたことあるって」
「ああ、うん。話したかな……。彰、浦島さんから仕事来たの?」
「いや、雑誌の撮影で、たまたま現場にいたんだよ。広告との連動記事でさ。俺のこと指名したのは雑誌側だから、その人からってわけじゃないけど、でも、何となく最初から印象良かったし、そのうち回り回って話が来ることもあるかもね。ありがと」
「うん……」
 優樹乃は曖昧に頷いた。
 それから、しばらく黙ってアメリカンコーヒーを飲み、出し抜けに言った。
「ねえ、ホテル行こっか」
「ホテル? いいけど……」
 意外そうに目を見開いたものの、宗方は拒まなかった。
 
 
 火照りの残る手足を、優樹乃は広いベッドの上に投げ出す。
 特に肌触りも良くない安っぽいシーツでも、そこに疲労感で重くなった体を沈み込ませる感覚は格別だった。
 浴室からは、宗方がシャワーを使う音が聞こえてくる。優樹乃はそれをぼんやりと耳にしながら、天井を見つめた。
 そしてそのうちに、天井のシミのひとつが気になり始めた。
「どうしたの?」
 じっと一点を見ている優樹乃を、浴室から出てきた宗方が訝しげに見下ろした。
「あれ。キリンに見えない?」
「キリン?」
「あそこ。あの隅のシミ」
 寝転がったまま、優樹乃は天井の一角を指さした。
 宗方はベッドに腰掛け、優樹乃の示した場所を見上げた。しかし、納得できない様子で首を傾げた。
「んー、キリンかなー?」
「ほら、あそこが首で、そっち側が足」
「いや、確かに首っぽいのはあるけどね……」
 宗方はそう言うと、バッグからいつもの一眼レフを取り出した。そして、天井のシミにレンズを向け、ファインダーを覗き込む。
「うーん……。やっぱり見えないな」
 真剣に眉をしかめる宗方に、思わず優樹乃は吹き出した。
「何それ。カメラ越しの見え方も確認しないとダメなの?」
「ファインダーを通すと、見え方が変わることがあるんだよ」
「ふーん……」
 優樹乃は相槌を打ち、宗方のほうに手を差し伸べた。そして、カメラを受け取り、宗方と同じようにファインダー越しに天井を見る。
 優樹乃の目には、やはりシミはキリンの形を取っているように見えた。
「そんなに変わって見えないけど」
「物理的にっていうより、心情的に変わるものだからな。傍観者的視点になるというか——ちょっと主観が減るんだよ。その場でないところから見てるみたいな。貸して」
 宗方は優樹乃からカメラを戻すと、今度はまだ何も身に付けていない優樹乃にレンズを向けた。優樹乃はそれに笑いかけた。
「どう? やっぱり違う?」
「そりゃ違うよ」
 そう言いながら、宗方は何回かシャッターを切った。優樹乃はレンズを見返す。
「……最近、仕事上手くいってるんだね」
「んー。ぼちぼちね。でもまあ、絶対君のほうが忙しいよ」
「確かに忙しいけど……」
 優樹乃は言葉を濁した。
 そうは言っても、充実感を持って仕事をしているのは宗方のほうだ。優樹乃には、それが見れば分かった。
「彰、今、どういう仕事が多い?」
「ミュージシャンかな。あ——そう、明日seasonの子撮るよ。西嶋さん」
 ファインダーから目を離して、思い出したように宗方が言った。
「みのり? 本当に?」
「うん。グラビア。俺、結構seasonの子も撮ってるんだよ。優樹乃はサースデイの後、四人揃って撮ったとき以来ないけどね。本郷さんは二回やったし、成瀬さんは一回……。西嶋さん単独は初めてだな。あ、ねえ、西嶋さんってどんな人?」
「どんな人って——」
 宗方にそう聞かれ、なぜか優樹乃はむっとした。
「普通だよ。普通に良い子」
「そりゃ、パブリックイメージはそうだろうけどさ」
「本当にそうだよ。本当に良い子」
「ふーん……?」
 宗方はそう言って、不思議そうに頷いた。
 
 

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