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season

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要高悟 イラスト/りばた
 4人組アイドルグループ「season」。普通の人生を送りたくないリーダーの日菜子、消極的な性格なのにステージでは魅力的な輝きを放つフロントの夏希、明るく良い子だが恋愛経験がなくコンプレックスを抱えるみのり、子役やモデルとしてキャリアを積み芸能界しか生きる道がない優樹乃。
 seasonは地道な活動と過激な戦略で成功を治め、一躍トップアイドルに。初の全国ドームツアーを控えるなか、みのりは仕事とマネージャー鳥羽への恋の苦しみから手首を切ってしまう。ミニライブ中断の危機に、優樹乃が再び泥をかぶり、そこへ優樹乃の父・光雄が事務所問題をふっかけてきて…。怒濤のトラブルのなか、いよいよドームツアーが始まる。  
 
登場人物
・成瀬日菜子…seasonのリーダー。MCやイベントの進行も担当。
・本郷夏希…seasonのフロントを担当。
・西嶋みのり…seasonのフロントを担当していたが降ろされてしまう。
・大原優樹乃…みのりに替わり、seasonのフロントを担当。
 
・高梨ノボル…seasonのプロデューサー。
・木崎…ドリームマイスターのアイドル部門統括責任者。
・石田…seasonのマネージャー。
・鳥羽…seasonのマネージャー。
 
・芹沢悠…若手の実力派男性俳優。
・伸久…駆け出しの俳優で、日菜子の恋人。
・大原光雄…優樹乃の父。
・横田孝文…リフォーム会社の主任で夏希のファン。


■season14
 
 
 本郷夏希を好きになった理由は、横田にもよく分からない。
 十代の頃から、好きなアイドルは何人かいた。今思い返すと、夏希と似たところのある少女ばかりだ。どちらかといえば中性的で、露骨に女の子らしさをアピールすることはない。それでいて、十代の少女特有の危うさを持っている——そういうタイプが横田は好きなのだろう。
 とはいえ、追っかけにまではならなかった。出演するテレビ番組を録画し、雑誌やCDを買う。それくらいだ。中学、高校とサッカー部に所属し、そちらに時間を取られていたという面もある。お金もなかった。
 しかし、今は違う。会社以外の時間は暇だし、自分の自由になるお金は桁違いになった。それに現代は、十年前とは比べものにならないほど、一人のアイドルに関して世間に出回る情報の量が膨大だ。
 twitter、ブログ、ネットニュース、YouTube……。公式なものから非公式なものまで、キーワードひとつで無数の画像や動画、そしてテキストが浮かび上がってくる。それらすべてを追いかけようと思ったら、時間がどれだけあっても足りないだろう。
 そもそも、横田が夏希を知ったきっかけもそういったもののひとつ——投稿された動画だった。当時はまだ無名に近かったseasonが、地方のあるイベントに出演していたときのものだった。彼女たちは四人一列に並ぶのがやっとの狭いステージで、明らかに興味のなさそうな観客を前に一生懸命踊っていた。
 以来、中央に立つ女の子が何となく気になって、横田は関連する動画を見るようになった。seasonや夏希の情報を積極的に集めるようになるまで、そう時間はかからなかった。
 またその中で、夏希がフロントなのはプロデューサーの高梨が依怙贔屓しているからだという批判も知った。一理あるとは横田も思った。夏希は歌もダンスも拙く、アイドルとしてうまく立ち回っているとはとても言い難かったからだ。しかし、むしろそこにこそ横田は惹き付けられていた。
 夏希は一生懸命やっている。不器用だから上手に伝わらないだけで、それが分からず、夏希のことを「暗い」だの「やる気がない」だの言うやつは、単に口が上手くて要領の良い人間に騙される、浅い人間だ——横田はそんなふうに思っていた。
 また、ネット越しとはいえ、誰もが好き勝手に言い過ぎだろうとも感じていた。
 夏希と芹沢の報道が出たときなどは、特にひどかった。「裏切られた」「ビッチ」……と、ネット上には自称ファンの罵詈雑言が飛び交っていた。男である横田さえ眉をしかめるような、卑猥で汚い文言もあった。
 何を考えているのだろう、と横田は思った。そもそもあの記事自体、信憑性の低い、憶測の塊のようなものだったのだ。夏希や事務所は否定していたし、おそらく、芹沢とは本当に何もなかったはずだ。それなのに、そんな記事を鵜呑みにしたり、芸能界の男と夜に遊ぶこと自体を、さも重罪のようにあげつらっているのだ。
 ただ騒ぎに便乗して他人を攻撃したいだけの人間は論外だが、夏希のファンだからこそ許せないと言う人間も、横田からすれば狭量だった。若い女の子なのだから、たまに友人たちと遊ぶくらいは大目に見るべきだろう。
 普通の人間は、そんなことにまでグダグダ言ったりはしない。そんなことに文句を言うのは、よほど了見の狭い男か、あるいは生身の女を知らない、引きこもりの童貞だ。
 あくまでアイドルとして仕事をしているだけの少女を自分の恋人のように思い込み、その私生活まで制限しなければ気が済まないなど、馬鹿げている。そもそも、アイドルに恋愛感情を抱くこと自体が間違っているのだ。
 もちろん、横田は違う。横田が夏希に抱いているのは単なる応援の気持ちであって、恋愛感情ではない。贔屓の歌舞伎役者を見に行くことを習慣にしている人たちと同じだ。あるいは、車や釣りといった娯楽にお金を使うのともそう変わらないだろう。あくまで趣味なのだ。
 それに何より——と横田は思った。
 夏希は不器用だが、その分、まっすぐな少女だ。誤解とはいえ、スキャンダルを起こしてしまったこと自体に心を痛めているだろうし、それに理解を示す横田のようなファンの気持ちも、ちゃんと分かっているはずだ。
 だから、夏希はきっと、これからはより身を引き締めて、アイドルとしての活動に邁進するはずだ。本当のファンだったら、それを信じて、変わらない声援を送るものだろう。
 そんなふうに横田は考え、その後も夏希の応援を続けた。
 
 

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