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season
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season

要高悟 イラスト/りばた
あらすじ
 4人組アイドルグループ「season」。普通の人生を送りたくないリーダーの日菜子、消極的な性格なのにステージでは魅力的な輝きを放つフロントの夏希、明るく良い子だが恋愛経験がなくコンプレックスを抱えるみのり、子役やモデルとしてキャリアを積み芸能界しか生きる道がない優樹乃。
 seasonは地道な活動と過激な戦略でブレイクし、一躍トップアイドルに。紅白出場や武道館公演でも成功を収め、いよいよ全国ドームライブツアーが始まった。ところがメンバーのひとり優樹乃は、父・光雄の横暴な交渉によってツアー終了後にseasonを脱退することになってしまう。そして迎えた4人編成最後の東京ドーム公演前日、優樹乃との連絡が不自然に途絶える…。
 
 選ぶことも決めることも許されなかった彼女たちが起こした、唯一の行動…その果てに、魔法のような音楽が絶頂とともに響き渡る、アイドル小説・音楽小説史に燦然と輝く奇跡の最終回。  
 
登場人物
・成瀬日菜子…seasonのリーダー。MCやイベントの進行も担当。
・本郷夏希…seasonのフロントを担当。
・西嶋みのり…seasonのフロントを担当していたが降ろされてしまう。
・大原優樹乃…みのりに替わり、seasonのフロントを担当。
 
・高梨ノボル…seasonのプロデューサー。
・木崎…ドリームマイスターのアイドル部門統括責任者。
・石田…seasonのマネージャー。
・鳥羽…seasonのマネージャーだったが、みのりに手を出しドリームマイスターを退社。
 
・芹沢悠…若手の実力派男性俳優。
・宗方彰…優樹乃と懇意のカメラマン。
・大原光雄…優樹乃の父。オオハラオフィスを設立。
・樋口…光雄と手を組む業界人。  
 
 

■season18
 
 
 優樹乃は宗方との電話を切ると、足を止めた。
 マンションのエントランスに光雄が立っていたのだ。光雄のほうもすぐに優樹乃に気付き、自動ドアを抜けて優樹乃に近付いた。
「何だよ、おまえ。さっきから連絡してただろ」
「ああ……」
 優樹乃はそう生返事をした。
 確かに、マナーモードにしていたスマートフォンには、光雄からの電話着信履歴が二つあった。また、メールも来ていた。契約手続きの件で話がある、すぐ折り返すように——そんな文面だった。宗方のアパートを出てすぐ、優樹乃もそれらに気付いていたが、もう一度電話があったときに出ればよいだろうと折り返さなかったのだ。
「ま、いいわ。とにかく来い」
 光雄はそう言うと、マンションの駐車場を首でしゃくった。
「来いって、どこに」
「いいから車乗れ。道々説明する」
 光雄はそれだけ言って、半地下になっている駐車場に向かった。
 優樹乃は仕方なく、遅れてそれに付いて行った。光雄を振り切ってマンションに入るのは難しそうだったし、かといって、光雄を自分の部屋に上げて話をするのも嫌だった。
 光雄は駐車場に入ると、通路となるスペースに勝手に停めたらしい自分の車のロックを解除した。
「どこ行くの? お父さん」
「ドリームマイスターだよ。契約結ぶんだ」
「え?」
 優樹乃は虚を突かれた。
「どういうこと? まだ何かレンタルとかCMとかの契約書いるの?」
「ちげーよ。あそことまたタレント契約すんだよ。早く乗れって」
「何言って——」
 わけが分からず、優樹乃はぽかんとして立ち尽くした。
 しかし、そんな娘の様子と関係なく、光雄は車のドアを開ける。
「てか、そもそもそういう話だったろ。独立なんて、更新の契約料を吊り上げるためのハッタリだって」
「——」
 優樹乃は一瞬、言葉を失った。
「ここまでしといて? 全部パフォーマンス?」
「そうだよ。決まってんだろ。やだね、ころっと真に受けちまって」
「…………」
 優樹乃は直感的に、光雄の言葉は嘘だと感じた。思い付きで行動して、そのときどきでもっともらしく言い訳しているだけだ。優樹乃は声を硬くした。
「でも、オオハラオフィスの契約はどうするの」
「ああ? そんなん破棄だよ」
 光雄がそう吐き捨てるのに、優樹乃は呆れた。
「無理だよ。サインしちゃったんだよ。契約書は樋口さんが持ってるし、そもそも社長ももう樋口さんだし、一方的に破棄なんてできないよ」
「大丈夫だろ。樋口が違約金がどうこうとか言い出したら、払ってやるよ。どうせあいつ、金が欲しいだけだし。違約金分、ドリームマイスターの契約金に上乗せすればいいだろ」
「お金を払えば引くとは思えないって」
「うるせえなァ。多少揉めても、ドリームマイスターが尻拭いしてくれんだろ」
「…………」
 優樹乃は黙り込んだ。光雄は分かっていない。
 seasonやドリームマイスターは、すでに優樹乃がいなくなった後の、三人体制での準備を進めている。つまり、高梨はとっくに戦略を切り替えたのだ。彼がそう決めたなら、その動きは早く、そして徹底的だ。今さら優樹乃に固執などしない。
「お父さん、もう全部遅いよ」
 苦い口調で優樹乃は言った。
「もう私にseasonに戻ってほしいなんて、誰も思ってない。いなくなること前提で話が進んでるんだから。多少揉めてもなんて、もうそんな段階じゃないよ」
「そんなん分かんねえだろ」
「分かるよ。そうなんだよ。私が必要とされるのは明日までで——残った役回りは、四人体制の綺麗な幕引きだけだよ」
 優樹乃はそう自分で口にしながら、ひどく切なかった。
 しかし、光雄がそんな娘の内心に気付くはずもない。彼は優樹乃の反論に、ただ眉をしかめた。
「だったら——なら、それでも構わねえよ。明日までは必要なんだろ。明日の出演も考えさせてもらうって言えば、向こうも無視できねえだろ」
「な……」
 優樹乃は今度こそ絶句した。
「そうだよ。契約上、もうおまえはドリームマイスター所属じゃねえわけだし。明日はギャラもらってのレンタルだろ。こんなチンケなギャラじゃ出られねえって、値上げ交渉すりゃいいんだよ。良い案じゃんか」
 光雄は、自分の思い付きが気に入ったように笑った。
「何言ってるの? 明日のレンタルだって、もう書面で契約したでしょ?」
「分かってんだよ、そんなん。破ったら違約金だとか言ってくんだろ。知るかよ。おまえの卒業を綺麗に済ませることが今後の戦略だっつーなら、明日おまえがばっくれたときの損失は、それじゃ見合わねえだろ。どんだけ吹っかけたって乗るよ」
「——」
「それで樋口も黙らせるだけの金もせしめて、どっちともオサラバだ。すげーな、優樹乃。一日の出演料で桁違いの金が転がり込んでくるんだぜ。ハリウッドスターみたいじゃんか」
「お父さん……」
 優樹乃はもう、父親を見るのが辛かった。
「いい加減にしなよ……。そんな都合よく人が動いてくれるはずがない。そうやって脅迫じみたことばっかやってるから、結局こうなっちゃったんでしょ? もう何したって事態は悪くなるだけだよ」
「ああ? ったくさあ、おまえ本当に意固地だな。ウダウダ言ってねえで、とにかく乗れよ。お父さんの言う通りです、つっておまえは座ってりゃいいんだから」
「そんなのできないよ……」
 優樹乃は首を振った。
 それを見て、光雄は舌打ちした。そして、優樹乃の腕を掴むと、助手席に押し込もうと引っ張った。
「ほら、乗れよ」
「無理だって。考え直してよ、お父さん。私、新しい事務所で働いて稼ぐから——明日は約束通りにしようよ」
「だから、もう新しい事務所なんか意味ねえよ」
「お願いだって。明日はちゃんとステージに出たい」
 優樹乃は必死に言った。
 これほど真正面から父親に何かを訴えたことなど、かつてなかった。しかし、優樹乃は決めたのだ。せめて明日までは——と。
 車に押し込もうとする父親の手を振り払って、優樹乃は叫んだ。
「私、絶対、明日は出る! 出ないなんてハッタリでも言わない」
「おまえ……」
 光雄がわずかに目を見開いて優樹乃を見た。しかし、優樹乃はそれを怯むことなく見つめ返しながら、一歩ずつ後退った。
 光雄はもう一度舌打ちした。
「仕方ねえな。いいよ、俺が一人で行ってくる」
「勝手に行けばいい。私は出るし、高梨さんにもそう言う。誰もお父さんの言うことを真に受けたりしない」
 優樹乃はそう言うと、身を翻した。
「待てよ!」
 光雄はすぐに優樹乃を追い、その肩を掴んだ。
「おまえ、ふざけんなよ。親の言うことが聞けねえってのかよ」
「親の言うことって——お父さんさあ……」
 優樹乃は心底呆れて父親を見た。そのまなざしがよほど気に食わなかったのだろう、光雄は手を振り上げた。
「!」
 優樹乃は咄嗟に頭を庇った。しかし、光雄は拳を振るわず、そのかわりに、ぼそりと呟いた。
「バカにしやがって……」
 ぞっとするほど憎悪の込められた声だった。そして、光雄は素早く周囲を見回すと、優樹乃の腕を引っ張った。
「い……っ! お父さん——」
 優樹乃は痛みに声をあげた。腕が千切れるかと思うほどの力だったのだ。
 しかし、光雄はまったく力を緩めることなく、そのまま優樹乃を駐車場の隅に連れて行った。そして、金属製のドアが開きっぱなしになっていた用具入れの中に、優樹乃を突き飛ばした。
 二メートル四方ほどの、狭いスペースだった。優樹乃は体勢を崩し、そこに倒れ込む。同時に持っていた鞄が転がり、中身がいくつか散らばった。
「何す……っ」
 優樹乃は膝や腕を打ちながらも、咄嗟に立ち上がろうとした。しかし、それよりも光雄の行動のほうが早かった。光雄は優樹乃の鞄を引っ掴むと、すぐさま用具入れのドアを閉めた。
 ガシャン、とけたたましい音が駐車場に響く。鍵のかかる小さな金属音が、すぐにそれに続いた。
「お父さん!」
 優樹乃はドアに飛び付いた。
「お父さん、何してんの!? 開けて!」
 優樹乃はドアを開けようとしたが、当然、開くはずもない。ドアノブをどれだけ回しても、ガチャガチャとした音が立つだけだ。
「そこで大人しくしてろ。すぐ話付けてくるから」
 一方、光雄はドア越しにそんな声を寄越した。
「ふざけないで! 出してよ!」
 優樹乃は叫んだ。ステージ上でかけ声をするときと同じかそれ以上に大きな声だったが、光雄が応えることはなかった。光雄の声はそれきり聞こえなくなり、そのかわり、車の走り去るかすかな音がそう間を置かずに響いた。
 そして、すぐにそれも途絶える。あっという間に、外からは何の音もしなくなった。
「お父さん!」
 優樹乃は怒鳴り、ドアを蹴飛ばした。
 しかし、案の定と言うべきか、金属製のドアはわずかに揺れただけでびくともしなかった。優樹乃は焦った。
 この用具入れは、ドアにスライド型の掛金があって、それにナンバー式の南京錠で鍵をする仕組みだったように思う。ここも含め、共有スペースで使用する鍵のナンバーは共通——このマンションに入居したとき、管理会社の人間からそう説明された記憶があるので間違いない。そしてそうなると、内側から開けるのはまず不可能だ。
 優樹乃は周囲を見回した。鞄から落ちたものがいくつか足下に散らばっていたが、スマートフォンはない。
「誰か! 誰かいませんか!」
 優樹乃はドアを叩き、声を張り上げた。
 しかし、それがあまり意味のない行為であることは、優樹乃も分かっていた。この用具入れは駐車場の最も奥まったところにある。外から聞き付ける人間がいるとは思えない。
 しかも、駐車場はあらかた車で埋まっており、今夜ここに来る人間はもういない可能性が高いのだ。さすがに明日の朝か、遅くとも昼になれば誰か来るだろうし、一晩閉じ込められたところで死にはしない。
 だが、これで優樹乃は、今夜誰とも連絡の付かない状態になった。光雄がどれほど勝手なことを言っても、それを否定する術がないのだ。
「嘘でしょ……」
 優樹乃はドアに縋り付き、そのままずるずると座り込んだ。
 
 

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