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罪人教室 ―破獄試験―

罪人教室 ―破獄試験―

小説:埼田要介 イラスト:掃除朋具
あらすじ
 『犯罪者予備軍』の青少年を集めた学園に『一般人代表』として放り込まれた平桔平は、 危険な同級生たちに翻弄される日々を送っていた。
 そんなある日、委員長の『人斬り予備軍』八重梅規理が殺人容疑で逮捕される。桔平たちは彼女の嫌疑を晴らすべく奪還作戦を開始するが!?
 明かされる八重梅の過去、そして芽生える想い……!? 『犯罪者予備軍』高校生VS国家権力!! 狂騒の学園クライムノベル!!
大人気漫画家・掃除朋具による美麗ピンナップも収録!!

 私立くらいむ高校。

 某県の中心部に位置し、近年急速な発展を遂げる昏忌市内に創設されたこの高校。

 一見何の変哲もない普通科高校だが、その実態は、全国から『犯罪者予備軍』と認定された学生を集め、高校生活を通して個々の犯罪的特性を制御し活用しつつ、一般社会に適応できるよう育成するという前代未聞のプロジェクトの下に運営されている、破天荒極まる学校である。

 そしてその教育プログラムの一環として、犯罪者予備軍を『普通』に慣れさせるべく、一般人代表としてこの俺が、もっとも危険な生徒たちが集まるDクラスになかば強制的に転入させられたのだ。

 そこに在籍していたのは、ある意味では本物の犯罪者も顔負けの、六人の最凶犯罪者予備軍。

 スリ予備軍、つるまきとう

 人斬り予備軍、うめ

 詐欺師予備軍、ともえきゆうま

 ストーカー予備軍、とりざさ

 ハッカー予備軍、きくびしあそび

 大量殺人者マス・マーダラー予備軍、ひとさがあく

 入学早々から彼らのきつい洗礼を受け、予想外のトラブルにも見舞われたが、雨降って地固まるのたとえのごとく、俺は転入からひとつきの間に、多少なりともこの二年D組の問題児軍団に対する理解と耐性を身につけてきたと自負している。

 そして暦は五月半ば。

 全国の高校生がほぼ総じて嫌悪感を抱く学園イベント。

 ────中間試験が迫っていた。


 その日の授業を終え、俺たちは学校近くのファミレスで勉強会を開いていた。なかなか一般の高校生らしい集団行動である。

 だがメンバーが尋常ならざれば、決して一般的なイベントで済むわけがなく。

たいらさんは飲み物どれがいいですかぁ?」

 空いたコップを持って席を立った巴が、不気味に口元をゆがませながら尋ねてきた。

「コーヒーとコーラを何対何で割りますか?」

「勝手に俺が得体の知れない飲み物を求める前提で話すんじゃねえ。普通にコーヒーで」

 俺は教科書とにらめっこしながら答えた。

「分かりました。ただこの店のドリンクバーはコーヒー類は別料金なので、二〇〇円いただきますよ」

「そうなのか? だったらコーラでいいよ」

「え〜、今コーヒーって言ったのに〜? 二〇〇円くらいケチケチしないで下さいよ。僕が平さんに飲み物を持ってくる気分でいられるのは今しかないかもしれないんですよ?」

「…………」

 かなりイラつかされるが、こいつとのな押し問答は害にしかならないことは知っているため、俺は渋々陰気な小男に小銭を手渡した。

 巴は「へへへ」と、やたらみみざわりな笑い声を残してドリンクバーへ向かう。

 すると入れ違いで鳥居笹がビアガーデンの店員よろしく、大量のコップを俺の前にどんと置いた。

「はい、きつぺい君。どれがいい?」

 並べられたコップの中身は一つとして同じ飲料はない。彼女のことだから、きっとドリンクを選ぶ楽しみも兼ねて全種類の飲み物を用意してくれたのだろう。……愛が重いぜ。

 ストーカー予備軍である彼女はひょんなことから俺に恋心を抱き、個人情報を事細かに収集して、こちらが申し訳なくなるほどに奉仕してくるのだ。

「えっと、アイスコーヒーかな」

 苦笑いしながら俺はコップの一つを指差した。

 ただ、コーヒーは別料金ではないのか? ……あの根暗詐欺師め。

 小銭をだまし取られたことに心の中で舌打ちしていると、鳥居笹はパアッと明るい表情で、

「分かった。それじゃあそれ以外は私が飲み干すね」

「……じゃあ、それ以外も飲むよ」

「ええ! ……それってもしかして私と、馬鹿ップルが一つの飲み物を二つのストローで飲むあれをやってくれるってこと?」

「……馬鹿ップルが一つの飲み物を二つのストローで飲むあれは…………やらん」

 馬鹿ップルが一つの飲み物を二つのストローで飲むあれを鳥居笹としている図を想像し、「ありじゃね?」と俺の欲望がささやくが、もし安易な気持ちでやってしまったら、妙な既成事実が生じてしまい、今後の関係に差しさわる。かつとうの末、俺は馬鹿ップルが一つの飲み物を二つのストローで飲むあれを断念した。

 あれ、名前なんていうんだろ?

「ああ、桔平ちゃん。シャーペンの芯借りたから」

「え?」

 鳥居笹に意識を向けていると、弦巻が指先でつまんだ芯棒を見せつけてくる。まさかと思い、俺は手に持ったシャーペンをカチカチとノックするが、見事に芯だけが抜かれている。幾度も被害に遭ってはいるが、いつ見ても嘆息すらしてしまう超絶のスリ技術だ。

「細やかな嫌がらせはめろよな……」

「怒んなよ、桔平ちゃん。俺と桔平ちゃんの仲っしょ?」

 シャーペンを芯だけ盗み取るのは、一体どんな仲だというのだ。

「ファック! こんな暗記問題だりーだけなんだよ!」

 いきなり怒号を発した人性に、瞬間的に肝を冷やした。

 先ほどの一件で普段以上にご機嫌斜めの彼女は、英単語のカードを憎々しげに見つめて鉄製のスプーンを握りつぶした。店員さん、ごめんなさい。

「なあクソたいらこんなチマチマしたもん覚えるより洋画一本垂れ流しにして見た方がタメになると思わねえか?」

「……うん。おつしやる通りだと思います」

 無茶な要求だと思いつつも、に反論できない。

 人性という女はその細身に似合わぬりよりよくも手伝い、八重梅と並ぶクラスの要注意危険人物とされている。むしろ破壊衝動を制御する気もない分、より問題児扱いされている生徒だ。口答えの一つ二つしようものなら、数週間の入院生活を余儀なくされる危険性は大だ。

 この集団勉強会は本日で四日目を迎えるのだが、一回目を開催したカラオケ店ではこの人性が隣りで洋楽ラップをたらに歌う若者グループの部屋に入り込んで暴れ回り、二回目の某有名コーヒーチェーン店では人性好みのハリウッドアクション大作を否定的な見解で語る批評家気取りのおじさんに人性がコーヒーをぶちけ、三回目は趣向を変えてメイド喫茶に行ったものの、か鳥居笹がフリル付きエプロンをかんぺきに着こなして接客をしていて……あれ、それはオッケーじゃない? 

 ともかく、一般市民の方々に大迷惑をかけ続けたおかげで様々な店舗から出禁を食らい、とりあえず今回は平凡なファミレスにて試験勉強を進める俺たちであった。

 しかしそこには「あれー、テスト範囲どこだっけー?」とか「やっば、絶対赤点だわー」だのとり合いながらも何だかんだで真面目に取り組む学生の姿はない。皆が皆、一般人代表である俺に何かしらの形で絡んでくるのであった。

 犯罪者予備軍というのは、勉強会一つもまともに行えない人種のようだ。

 だがかくいう俺も、決して単なる普通人というわけではないと、Dクラスの担任で、理知的な眼鏡めがね美人のひいらぎみず先生は語る。

 彼女によれば、俺は綿密な調査の結果、普通すぎるほどに普通、、、、、、、、、、であることが判明したらしい。周囲のもくを集めることを生理的に受けつけないという俺の性格も手伝っているのか、俺は何をどう頑張っても平凡な成績、平凡な印象で終わってしまうそうだ。

 なぞの性質の由来はいまだ不明だが、つまり今回の中間試験もどれだけ勉強しようがしまいが、平均点を前後するだけのオチになるだろう。結果が分かっている努力。なんだかやるせない気分になる。

「…………」

 俺はノートに重要単語を書き連ねながら、隣りに座った小柄な女子を横目で見る。

 八重梅にしかられた俺の心労も空しく、菊菱遊は何くわぬ顔で携帯ゲーム機での娯楽に興じていた。

「菊菱、真剣にやらないと次こそ八重梅の怒りの矛先がお前に向くかもしれないぞ?」

 しかしこちらの警告など完全に聞き流して、彼女は一心不乱にゲーム機を操作している。

「遊ちゃん。今はゲーム禁止だよ。集中する時は真剣にやらなきゃ」

「……分かった」

 鳥居笹が優しく諭すと、菊菱は素直に従った。ほんわかとした柔らかな口調が効いているのか、もしくは俺がとことん舐められているのか……せめて両方であってほしい。

 実力は未知数だが、ハッカー予備軍である菊菱遊は通信機器のたぐいを持たなければ、無害で貧弱な少女である。そのため、個としては並々ならぬ危険度を持つクラスメイトにおびえたがゆえに不登校になってしまったのだが、復帰してからは、普通人である俺と、外面はふんわり美少女である鳥居笹に対しては一定の信頼を置いてくれている。俺に関しては、使い勝手のいい駒とすら考えている節があるが。

「じゃあ遊ちゃん。一緒に国語のお勉強しよっか」

「了解」

 鳥居笹はまるで子供と接するお姉さんのように菊菱に勉強をうながす。俺に対する偏愛さえ無ければ、彼女も普通の美少女なのだが……。

「では次のことわざの意味を答えてね。飼い犬に手をまれる」

「ボケナメコの胞子でピクミンが暴走すること」

しようを射んと欲すれば、まず馬を射よ」

「ファントムガノン戦の前半」

「三つ子の魂百まで」

「ポケモンの最初の三匹」

 ……どうして全部ゲームネタで答えたんだよ。それに三つ子の魂って、三匹って意味じゃないから。

 連発される珍解答に、さすがの鳥居笹もふんわりした表情に困惑の色を隠せない。

「うーん、全部にんてんどう関係じゃちょっと分かりづらいかな?」

「じゃあカプコン作品も入れる」

「えっと、そういうことじゃなくって……」

「?」

 菊菱は何が間違っているのか分からない様子で小首をかしげる。それがまた母性をくすぐる幼気いたいけさを演出するので、強く言い聞かせられないのがもどかしい。

「でもあそっち、意外にも意味はちゃんと理解してるね。少し答え方を変えれば、すぐ高得点取れるんじゃない? あくのんにしたって真面目に取り組んでないだけだし、こりゃ桔平ちゃん、まさかのビリ確かもねー」

 弦巻が勝手にクラス順位を予想するので異議を唱えようとするが、ぞんがい的外れではないことに気付いた。茶髪男の言う通り、今の問答を解析してみれば、決して菊菱は勉強が不出来なわけではない。

 となると、俺は勉強する気ゼロの人性とデッドヒートを繰り広げることになるのだろうか。それは嫌だなあ……。

「平さ〜ん、飲み物お待たせしました〜」

 今頃になって巴が、ドリンクバー展と化したテーブルの上に、黒い液体をなみなみと注いだコップを置いた。多種多様なドリンク群の中でまがまがしい邪気を漂わせているの飲み物をたりにして、俺はごくりとつばを飲む。

「……これ何? ブラックコーヒー?」

「猛ど……ウーロン茶です」

「今猛毒って言いかけなかった?」

「いえいえ、モード系って言いかけただけですよぉ」

「このタイミングでモード系と言う必然性がないだろうが」

 実年齢より多少年下に見えてしまう詐欺師予備軍の小男は、愉快そうにこちらの反応を観察している。巴求真は、物理的な害はないが、悪質なをついたり、他人のを何でも見抜く技能を持っていたりと、油断ならない生徒なのだ。後者の能力については、何故か学校側には秘密にしているらしいが。

 そんな大つきが烏龍茶だと呼ぶ飲料を、そのまま文字通りみにすることができるだろうか。答えはいな。俺は、よどんだオーラをまとう黒色の汁を警戒心たっぷりにすっと遠のけた。

「烏龍茶頂き」

「「あ……」」

 コップから距離を置いた矢先、にゅっと菊菱がきやしやな腕を伸ばし、無謀にも黒汁を一息にあおる。予想外のちんにゆうに俺も巴も対応が遅れてしまった。

「……う」

 怪しげな汁を飲み込んだ菊菱が、びくんと反応する。……大丈夫なのか、おい。

「……黒烏龍」

「烏龍茶かい!」

 変に危機感持って損した。巴はただ真実を述べていただけらしい。

「へへへ、当たり前じゃないですかぁ。僕はいつだって人畜無害ですよ〜」

「ははは、やっぱ桔平ちゃんは期待通りのリアクションしてくれるね!いやー面白い!」

 弦巻も巴と一緒になってちようしようする。毎度毎度、うつとうしい悪ノリコンビである。

「……でもこんなに楽しい勉強会なのに、どうして規理ちょんは来ないのかな?」

 ひとしきり笑った弦巻が、鳥居笹が運んできたドリンクをちびちび飲みながらぼやく。

 そう。このクラス全員参加のはずだった集まりには、あの大和やまとなでしこ委員長の姿が無い。彼女は俺たちが誘うと「勉強は一人でするもの」と断って急ぎ足で帰宅してしまうのだ。

「知らねーよ、スパ子なんざ。あいつ試験前はいつもざわりっぷりが増すよな」

 ぴしゃりと単語カードを机に叩きつける人性に、弦巻が口をとがらせながら言葉を続けた。

「うーん、ようやく打ち解けてきたと思ったんだけどなー。あのピリピリ感は手の打ちようがないのかなー」

 Dクラスの人間関係は以前、険悪よりも更にひどい、隔絶の状態にあった。しかし俺が転入して事件に巻き込まれ、クラス全体で解決に取り組んだことで、多少なりとも閉塞した人間関係に変化が見られるようになってきたらしい。

「……八重梅は前もああだったのか?」

「うん。中間期末とか、直接成績に影響が出る系が近付くと毎回あんな調子。どうも頑固さに磨きがかかった上に、不機嫌丸出しになるっちゅーかね」

 なるほど。ここ最近、妙に八重梅が神経過敏になっていると思ったら、元からいたメンバーにとっては珍しくない現象のようだ。

 しかし個人的な見立てによれば、あれは不機嫌というよりは……、

「────切羽詰まってるって感じだよね」

 鳥居笹がコップの回りについた水滴を見つめながら、心配そうな表情で俺の見解を代弁してくれる。

 八重梅もクラスをまとめる代表としての責任を背負っているのだろう。それにしたって午前中のくどくどとした説教といい、神経質になりすぎている。周囲の迷惑はともかく、彼女自身、試験のたびにあれほどストレスを溜めていては、いずれ限界を迎えてしまうのではないか。

「あーあ、だる。あたしそろそろ帰るわ」

 人性はにべもなく言い放って席を立つと、自分の代金を置いてさっさと店を出ていってしまう。本日は店舗の全壊もなく、一難去った思いだったが、退出する歩調はいつもよりわずかにせわしなく見えた。

「あくのんもちょいピリついてるみたいだね。……ま、俺たちがここで規理ちょんのことを案じてたってせんいことか」

 弦巻も「じゃあそろそろ」と告げると、他の三人も続いてかばんを取って帰宅の準備を始める。結局勉強らしいことはほとんどできていないが、教科書と向き合う気分でもなくなってしまったのだろう。

 まだ座って教科書を眺めていた俺に、帰り支度をする鳥居笹が話しかけてくる。

「私も帰るけど、桔平君はどうする?」

「俺はもうちょっとここでやってく」

「そっか。じゃあ私は桔平君の家で夕飯作って待ってるね」

「……自宅に帰れよ」

 俺がいき一つ返すと、Dクラスの面々はぞろぞろと帰路にいた。

 それから、黙々と授業内容を復習すること十分。

 俺はコップを取ってドリンクバーに向かう。緑茶を注ぐと、とある席へ足を向けて、ゆっくりと彼女、、の正面に腰を下ろした。

「…………」

 清楚な白ワンピースに身を包みハイソなサングラスをかけた、どこか深窓の令嬢めいた装いの八重梅規理がそこにいた。

 彼女は接近したこちらを認識すると、バツが悪そうにストローでジュースをズズズと飲み干した。

「……気付いてたの?」

「少し前にな。どうしてこっち来なかったんだ?」

「だって……学校帰りの買い食いは禁止されているし、委員長としては……」

 俺はただ黙ってもじもじと弁解する彼女を見つめていた。

 実は八重梅はこの数日間、俺たちが店に入った後からこっそりとやってきていたのだ。多分、そのことを知るのは俺だけである。

 無言の対面に耐えられなくなったのか、八重梅はぽつりと本音を吐露した。

「……ちょっとだけ、怖かったの。横暴に振る舞う私を、みんな嫌っているのではないかと思って……元々敵対してる人性さんを除いて」

「たしかに全員、お前の異変は感じ取ってたけどな。でもきっと軽なんかしてないと思うぞ」

 八重梅を安心させるためのフォローを入れるが、彼女の表情は一向に暗いままだ。

「私、どうしても止められないの。前々から酷かったとは思うけど、試験日が近付くにつれ、KILLキレやすくなってきていて」

 サングラスの向こうの目が、かすかに細められた。

 さいなキッカケによって引き起こされる憤慨。逆上。げつこう

 我慢とおのれに言い聞かせることは簡単だが、現実にはふくれ上がった感情が制止を促す理性を容易たやすく押しのける。きっと、彼女がクラスで一番その不安定な情緒に苦しめられているのだろう。

 一瞬、どう返答すべきか迷った。

 彼女の深い事情を知らなければ、軽はずみに助言すべきではないと思う。だが普段から彼女が自分の特性と真剣に向き合ってせいぎよしようと努めていることも理解している。だから、せめてほんの少しでも安心させてあげようと思った。

「試験が終われば多少は落ち着くだろ。それまではみんなも我慢してくれると思うぞ」

「……そうかしら」

 なおも八重梅は力無いまなしで、テーブルの一点を見つめていた。焦燥と疲労に心身を削られているその姿は、まるで枯れかけの花のようだ。

「ま、お互い頑張ろーや」

 月並みな台詞せりふしか出てこない己の平凡さが、がゆかった。

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