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 もし、あした人類が滅亡するとしたら何する? なに食べる? 誰とすごす? 
 と問われたら、
 もしもし、あしたは人類滅亡しないから今すべきことをしろよ。
 とぼくは答える。
 ノストラダムス然りマヤカレンダー然り、侵略宇宙人の襲来とかアルマゲドーンとか、なにかと人類滅亡を心配するひとたちがいるみたいだけれど、これまで人類が滅亡した試しはない。そりゃそうだ。みんな普通に生きてんだから、人間社会もフツウに形成されて、フツーに継続されていくに決まってる。人生は大体筋書き通りに進むのさ。そんな思いきった出来事は起こらない。もし将来に人類が滅亡するようなリスクがあるのだとしても、人間は賢いから、そういったリスクはひょいっと避けていく。人類は滅亡しない。
 きみもそう思うだろう? 
 ちゅうちゅうちゅうちゅう。
「ねえ、ミキオくん。わたし上野動物園に行きたいかも」
 課題を解く手を止めて、不意にトロ子がそう言ったのは昨日のことだった。
 ちゅうちゅうちゅう、ちゅうちゅうばちゅばちゅう、ばちゅうばちゅちゅちゅばちゅう。
「いやいや、トロ子ちゃん? そんなところ行ってる場合じゃないよ。きみ来年受験でしょ? なに言ってんの? この前のテストの順位何番だったか覚えてる? 最下位だよ?」
 とぼくはあきれる。
 ちゅうちゅうばちゅばちゅう、ちゅうばちゅちゅちゅば、ちゅちゅうちゅう、ちゅうばちゅばちゅうばちゅうば、ちゅばちゅうば、ちゅうばちゅちゅちゅば、ちゅうばちゅう。
「それくらい覚えてるよー、ミキオくん馬鹿にし過ぎかも」「高校入ってからずっとじゃん」「覚えててくれたんだぁ、えへへっ」「…あのね、うちの高校で最下位取ってる奴が大学なんて行けるわけないよー、上野動物園なんて行ってる場合じゃないよー、わかるでしょ?」「だからミキオくんにお勉強教えてもらってるのかも?」「じゃあ、ちゃんと勉強しないとね。上野どーぶつえんに割く時間なんてねーもん。基礎学力が足んねーんだもん。勉強、勉強、勉強。詰めこみ、詰めこみ、詰めこみだよー」「でも、息抜きとかも必要ってハム恵ちゃんが言ってたかも?」「息抜いてる場合じゃないよー。トロ子ちゃんぼくと一緒の大学行くんでしょ? 今のままじゃ行けないって」「それは困るかも」「でしょ?」「じゃあ、今日じゃなくていいかも? 次の土曜とか?」「土曜は図書館で朝から勉強だろ?」「じゃあ日曜でもいいかも?」「日曜も勉強だよー」「えー、じゃあいつ行くの?」「大学に受かってからだろ。今は全てを捨てて勉強すんだろ? そしたら学力つくだろ? 受験すんだろ? で、大学受かんだろ? それからでいーじゃん」「あう…待ちきれないかも?」「それを待つことで、カタルッシスるんだろ?」「でも、それまでに上野動物園潰れたら行けないかも?」「潰れねーよ」「じゃあ、それまでに人類滅亡したら…?」「しねーし」「えーと、それまでに…」
 なんて不毛な会話があって図書館の閉館時間ぎりぎりまでお勉強詰めこんでトロ子を地下鉄の駅まで送って帰って晩飯食って風呂入ってベッドに寝ころんで、ぼくは考える。
 ちゅうちゅう、ちゅちゅ、ちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちちゅうばちゅばちゅうちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちゅうちゅ。
 上野動物園に恨みはないし、断固行きたくないというわけでもないし、トロ子と行きたくないというわけでもなく、意地悪をしているわけでもなく、実はトロ子の事が大好きなので、むしろ手をつないで行きたいくらいなのだけど、その先のことを考えると行くわけにもいかない。動物園になんて二人で行って、お弁当なんて食べちゃって、その先にはきっと恋とか愛とか結婚とか妊娠とか出産とか、そんなものが付きまとってくるのだけれど、ぼくはそういったリスクをひょいっと避けて生きていかなければならない。
 トロ子には悪いけど、大学に受かっても上野動物園なんて行けない。
 ちゅうちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちゅうちゅう、ちゅうちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅっちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅうちゅうちゅ。
 それに、わざわざ上野動物園になんて行かなくたって動物なら嫌と言うほど見られる。
 ちゅうちゅうばちゅばちゅう、ばちゅうばちゅちゅちゅば、ちゅちゅうちゅう、ちゅうばちゅばちゅうちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちゅうちゅ、ちゅうちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちゅうちゅう、ちゅうちゅう。
 ネズミで良ければ。
 ちゅちゅちゅちゅっちゅ、ちゅちゅうちゅちゅちゅちゅ、ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅ、ちゅうちゅちゅちゅうちゅ、ちゅちゅうちゅちゅちゅうちゅ、ちゅばっちゅちゅばちゅちゅうちゅ、ちゅちゅちゅうちゅうちゅちゅ、ちゅっちゅちゅちゅうちゅちゅうちゅ。
 スッスと学校に行く道すがら、ごみ捨て場でネズミが残飯を漁っている。
 ちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちゅうちゅ、ちゅうちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちゅうちゅう、ちゅうちゅう、ちゅうちゅうばちゅばちゅう、ばちゅうばちゅちゅちゅば、ちゅちゅうちゅう、ちゅうばちゅばちゅう。
 通り沿いにある全てのごみ捨て場で。
 目を覆いたくなるほどの数で、ざっと見て五、六十匹。ん? 百匹? 数えきれない。毛色は茶色だったり灰色だったり白っぽかったりで、泥にまみれて汚れていて全体に黒が多いからぱっと見、黒い別の生き物の塊みたいで、みな丸々と太っていて十センチほどの大きさで、ビーズみたいな無表情な瞳をきょろきょろさせ、ごみ捨て場をびっしりと埋めつくし、蠢いて、いいにおいのするごみ袋に寄ってたかって食いついて、鋭くぎらつく前歯でごみ袋を食い破り、ご馳走を引きずり出し、我先にと奪い合い、食いあさっていて、ごみ捨て場にはみかんの皮やらへどろみたいな残飯やら野菜くずやらのごみが散乱し、町中に下水管の中にいるみたいなひどいにおいを撒き散らしていて気持ち悪い。
 ちゅちゅちゅちゅちゅうちゅうちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅうちゅうちゅう。
 うるさいし。


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