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第1話

 最近よく見かけるし、日に日に増えているみたいだし、文明て発展しているはずなんだけどな、何で放置してんだよ? ネズミなんて病原菌を運ぶ悪魔みたいなものなんだからさ、駆除だろう? 駆除、駆除、駆除。簡単なことじゃん。駆除隊が出張るだろ? シャベルでネズミをかき出すだろ? ずだ袋に詰めこむだろ? 水中に沈めて窒息させるだろ? 土に埋めるだろ? ネズミ居なくなんだろ? 町がきれいになんだろ? それで終わりじゃん。なんでやんねーんだよ? これはもう目に余る数だよ。今やるべきことは今、きちんとやろうよ? 今、今、今だよ。このまま放っておいて町がネズミで埋め尽くされたらどーすんのって。ちゃんとやろうよ? 
 なんて事を考えながら、ぼくは鼻をつまみ、半歩後ろを歩くスッスに言う。
「最近ネズミの数多過ぎね?」
「あれネズミじゃないっすよ。ハムスターっす。ジャンガリアンハムスターっすよ。ゴールデンハムスターも混じってるみたいっすけど、ほとんどジャンガリアンハムスターっす」
 スッスは毛先を遊ばせた茶髪をいじくりながら言う。
「ジャンガリアンハムスター?」
 通り過ぎ様にごみ捨て場を見ると、五、六十匹か百匹か千匹のネズミたちが一斉に食事をやめ、びくりと体を縮こまらせ、耳をぴこぴこ動かしながら、ぼくの動きをそのつぶらな瞳でじっくりと観察していた。今にも飛びかかってきそうで怖い。怖い? ネズミが? 
 んなわけねーよ。
「ハムスターもネズミだろ?」
「そうっすよ。大昔に流行ったっすけど《ハムスターのアニメ》ブームの終焉を期に飼っていたハムスターを捨てる家庭が増えて、野良ジャンガリアンハムスターが大量発生して問題になってるって、先週となりのじいさんが言ってたっす」
 そういう話はよく聞く。
 生き物の大量発生。バッタとかイナゴとかハトとかムクドリとかクラゲとか、とかとか。先週隣町でハブが大量発生したってニュースを聞いたばかりだし、隣の県ではマングースが大量発生して、三県隣では日本大鷲が大量発生したとかしないとか。どうなってんのかね? どうしてあいつらあんな勝手に増えるんだろうね? なんか意味とかあんのかな? 《大いなる意思の力》とか? ぶぶぶっ、んなわけない。何だよ《大いなる》て、誰だよ? まあ、どーせまた人間がいい加減なことをしているからなんだろうけれどさ。
「となりのじいさんが言うんだから間違いないっすよ。あっ! あれはプディングっす! おれが昔飼ってたのと同じ毛色っす」
「おまえも飼ってたの?」
「小学生の時に飼ってたっす。けど増え過ぎちゃって世話するの面倒だから捨てたっす。うち、つがいで飼ってたから、子供じゃんじゃん産んじゃって、リアルネズミ算だったっすよ! マジ気持ち悪いっすよ。うじゃうじゃっすよ? ケージの中がジャンガリアンハムスターで一杯になって四角いマリモみたいになってたっすよ」
「駄目じゃんおまえ~。倫理観とかねーの? 道徳心とかよ? 飼った動物は死ぬまで面倒みるもんだ」
「そっすよね…おれ駄目じゃん…小学生のおれ駄目じゃん…駄目駄目っす…あの頃のおれをぶん殴ってやりたいっす…駄目だなあ、おれってほんと駄目な奴だなあ…駄目だあ~おれぜんぜん駄目だあ~」
 ぼくのひと言にブルーモードに突入してしまうスッスだった。
 虚弱気味な細っこい腕で頭を抱え、カエルみたいにがに股になってしゃがみこむ。
 こいつはいつもそう。自分にちょっとでも落ち度があるとすぐに落ちこむ(過去に関する事が多い)。そのくせ物事をよく考えてから行動するという事を知らないから、棒に当たる犬くらいの割合ですぐに過ちを犯してしまう。そして落ちこむ。もしかしたらわざわざ落ちこむ理由を探して歩いてるんじゃないかってほどだ。
 全然関係ないけれど《サムライブルー》てどこか落ちこんでヘコんでいるサムライみたいで、なんか頼りないよな────なんて考えながら、ぼくは言ってやる。
「昔の駄目だった自分を思い出して落ちこんでもしかたないだろ? 過去は変えられないんだからさあ、大切なのは今だろ? 今、今、今、明日、明日、明日だよ。確かに昔のお前はハムスター捨てただろ? でも、今は捨てないだろ? 明日も捨てないだろ? これからずっと捨てないだろ? ほら、全然駄目じゃないじゃん。大切なのは今、そう心がけることだろう? 落ちこむことじゃねーよ。意味なーいじゃーん?」
「むかし駄目駄目でもいいんっすか?」スッスは涙でくしゃくしゃになった顔を上げる。
「すっすすっす」ぼく頷く。
「こんなおれでもいいんっすか?」
「いーよ別に」
「うへへっ」スッスにやけて立ち上がる。
 ぼくが歩きはじめると、立ち直ったスッスは体をひょこひょこさせてバランス悪く歩いて機嫌よさそうについてくる。立ち直りは早いのだよ。悪い奴ではないんだけどな、馬鹿なんだよな。考える頭がないわけでもないんだけど、馬鹿なのだ。ちょっと考えれば事の良し悪しなんてわかりそうなものだし、わかっちゃいると思うけれど、考えと行動がちぐはぐで、考える前に脊髄反射的に間違っちゃう。うん? やっぱ考えなしなのかな? いや、馬鹿なのだ。いい意味で馬鹿なのだ。うん? いい意味で馬鹿? なんだそりゃ? 
 まあ、反省できるだけマシなんだけど。


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