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「……おい! ファターにダミアン! 遅れているぞ! もっと気合を入れろ! それでも誇り高き海兵隊か!」

 ラヴ中尉の野次が飛ぶ。早朝訓練のランニングはいつものことだが、寝不足だと言っていたファターにはややきつそうだ。ゼイゼイ言いながらどうにかすぐ前のウィルソンに追いつく。

「い……いやあ。なんのこともなかったね。ただ、司令官がさ、交代するだけなんて」

「お前もがっかりした口か」

「まあ、ね。報告なんて、言うからさ。ちょっと期待しちゃった!」

 そう言われ、ウィルソンが笑っているとファターが続けた。

「俺たちより先に、さ。ジョンストン中尉の方が早く復帰できるだろうから。せめてね、中尉だけでも早めに復帰できたらいいんだけど」

「まったくだ」

 復帰できるなんて可能性がそもそもあるなら、だが。

「ファターは……ここを除隊しようとは思わないのか?」

「別に、帰ったところで居場所もないしね。案外、ここの居心地も悪くはないんだ。まあ、奥さんくらい欲しいけどね」

 実際、居心地は悪くはない。訓練もそれほど厳しくもないし、酒も煙草も許されている。それでも、ここが監獄同然であることは言うまでもなかった。我々下士官は勿論、ジョンストン中尉ら尉官待遇の者たちも、配属以来一度もこの島を出たことはなかった。テレビやラジオの視聴も認められない。出版物に関しても最新のものは目にすることはない。外部との連絡は手紙なら許されるが、厳しい検閲にかけられる。今では、この基地で外部に連絡をとろうとする者など、誰もいない。それだけのことをしたのだ。我々は。

「ウィルソン!」

 ラヴ中尉の怒声が響く。ウィルソンは我に返り、後続のグループに追いつこうと再び走った。

「第三小隊はクズの集まりか! そんなノロマじゃ戦場に立ってもすぐにおっちぬぞ! 気合を入れろ!」

 横を向くと、ダミアン上等兵もウィルソン同様後続から離されていた。

「大丈夫か?」

「……すいません、先に……行ってください」

 ダミアンは息を切らしながらそう言った。

「……わかった」

 ダミアンをおいて後続に追いつく。ダミアン上等兵は元々体力があるほうではない。体格も小柄、体調も崩しがちで、このように訓練において怒声をあげられることも少なくなかった。これでも以前に比べれば体力はついたのだが、朝食前の早朝訓練時はどうも調子が出ないようだ。

「まったくよお、お前らのせいで第三小隊全員の株が下がるってもんだ!」

 チャプリン少尉が周りに聞こえるように大声をあげる。昼食中の話だった。あれから怒声をあげられつつもダミアンも無事早朝訓練を終えた。その後朝食を済ませ、ウィルソンたちはなんの問題もなく訓練を済ましたのだが、どうやらその間にジョンストン中尉とチャプリン少尉はラヴ大尉に呼び出され、我々についてとやかく言われたようなのだ。

「ただ走るだけも出来ないってんじゃなあ! その点、マークスは優秀だよなあ!」

「恐縮です」

 マークスが返事をする。が、それにも気を止めずチャプリンは続けた。

「けっ! 何が、あんなんじゃ戦場に行ってもただの足でまといだ、だよ! いつになったら俺らが戦場に行けるってんだよ!」

 チャプリンの怒りの方向は、すでに違う方に向かっているようだ。自分が部下のせいで怒られたことより、いつまでたっても復帰の目処も立たないことへの不安が、怒りとなって噴き出していた。

「お前らがヘマなんかしなけりゃよお! 俺があんなこと言われることはなかったってんだ! わかってんのか、ええ!」

「それくらいにしておけ、チャプリン」

 ウィルソンたちがうなだれて昼食に手を付けないでいると、ジョンストン中尉がチャプリンの話を遮った。

「部下の分まで文句を言われるのが上官の務めだろう。誰だってミスや調子の悪い時がある。こいつらだって、いつも訓練についていけないわけではないだろう? なら、これ以上俺たちが文句を言う必要はないよな?」

「……へい」

「ほら、お前たちも早く飯を食え」

 おとなしくなったチャプリンを横目に、ウィルソンたちも昼食をとりはじめた。


「あー、業務連絡だが。本日新しい司令がこの基地にやってくる。一五時には到着予定だが、まあ遅れる可能性もある。各小隊長及び教官は出迎えにいかなければならない。なので、昼の訓練はなしだ。一三時に集合したのち、自主訓練に励んでくれ」

 食事が終わり、ダミアンが小隊員へコーヒーを配っていたところでジョンストン中尉が話し始めた。

「まあ何もないとは思うが、チャプリン。俺がいない分こいつらのことは頼むぞ」

「了解です! ガンガン鍛えて……」

「せっかくあの鬼教官もいないんだ。まあ自分のペースで、無理はさせないようにな」

「……了解です」

 勢い良く立ち上がろうとしていたチャプリン少尉がうなだれながら席に座る。

「ジョ、ジョンストン中尉! 上官に対してそのような……」

 マークスが思わず反論する。

「ははは、まあこのような席ではいいだろう?」

「は、はあ…」

 マークスがおとなしくなったのを見て、チャプリンがコーヒーをすすりながら言った。

「新しい司令ってのは、どんな人物ですかねぇ」

「あまり詳しいことはわからないがな。これまでに比べれば若い人がくるようだ」

「ホントですかい?」

 それは意外な話だった。ここにくる司令は退役間近のよぼよぼの者ばかりだった。どうせお飾りだし、別に仕事もない。そんな場所にまともな指揮官を置いても仕方がない。だが、今回は違うようだ。

「……何か状況が変わるんですかね」

「どうだろうな。わからん」

「変に引っ掻き回して、居心地悪くしたりとか、余計なことしてくれなきゃいいんですがね……」

「チャプリン少尉!」

「無礼講、無礼講! いいじゃねえか飯の席くらい」

 マークスがまた声をあげる。が、チャプリンも特に取り合うこともなく話を続ける。

「……まあ、いい変化をもたらしてくれるよう祈りますわ」

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