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■ #4 ■


 歴代の生徒会長が私費で改装を繰り返し、今や校長室よりも立派らしい、と噂の生徒会室の扉を、この学院で教えられたマナーに従い四回ノックすると、扉の向こうから揚羽の「どうぞ」という声が聞こえてきた。

 中に入ると、生徒会長の席に座る揚羽と、その隣に立つ梓乃。そして、会長の机の前で、蜃気楼のように浮かぶ――見たこともない、強化制服らしき衣装の、立体映像。

 その制服――全体として受ける印象は、黒い。光沢を持ちつつも吸い込まれるような、黒さだ。ところどころに、銀や紫、緑などで、羽根のようにも鋭い刃の先のようにも見える意匠が施されている。

「どうぞ。中まで入って、扉を閉めてちょうだい」

 映像に気をとられたマヨを促すように、揚羽が言った。その言葉に従い、マヨはもう一歩、部屋の中に入ると、扉を閉め、再び揚羽たちの方へ向き直った。

 廊下に使われている絨毯も十分に高価なもののはずだが、生徒会室内のそれは、更に桁が違うのだろう。毛足の長さに足が沈むような感覚に戸惑うマヨに、揚羽は優しく笑いかけた。

「ねえマヨさん、あなた、ヒロインはお好き?」

「は、はい」

 ヒロイン、という単語に反応し、なんとなく直視できずにいた揚羽の顔を、思わず真正面から見た。そして反射的に赤面するマヨに、揚羽は柔らかな笑顔のまま、こう続けた。

「それは良かったわ。単刀直入に言うわね。あなたに、ヒロインをやってもらいたいの」

「――――――――――ヒ」

 ヒロイン。

「ですか……」

「ええ」

 揚羽が、優雅に首を上下させる。

 全校生徒、いや、全世界憧れのトップヒロインからの、用件不明の呼び出し。

 期待半分、不安半分、とはいいつつも、本当は――期待の方が大きいに決まっている。

 昼休みに、ユカリが言った言葉を思い出す。

 ヒロインに?

 あたしが?

 本当に?

 でも、強化制服が。でも、目の前のこの制服の映像が。それに、揚羽さまも、ああ言っていて。ああ。じゃあ、もしかして――本当に――――。

「マヨさん?」

「はい!!!」

「有名なヒロインネームの襲名っていうのはね。もはやアルテミス学院内部だけの問題じゃないの。高視聴率で潤っているマスコミはもちろん、そのスポンサー、人気ヒロインの強化制服の開発元ということで名を売っている精密機器、特殊繊維、制御回路、その他関係企業全てに影響を及ぼす、一大事業なのよ。そのために、あなたの力が必要なの」

「わ、私……が」

「あなたにしかできないの。やって、いただけるかしら?」

「はい!」

 雲を踏むような心地、とは、このことを言うのだろう。折角の高級絨毯から数センチほど上に浮かんだような気持ちで、マヨは勢いよく返事をした。

「快諾してくださって嬉しいわ。この制服の映像、ご覧になった?」

「はい」

「あなたが着る制服よ」

「はい……!」

「短い期間とはいえ、仲良くやりましょうね」

 ……短い期間?

 もうすぐ揚羽達はヒロインを引退する。だから、それまでの短い期間。

 たった、それだけの意味かもしれない。

 だが。妙な違和感が、マヨの心臓を打った。

 マヨは揚羽の顔を見たが、揚羽は変わらぬ笑顔をマヨに向けただけ。

 隣に立つ梓乃はといえば、無言のまま。マヨや揚羽よりも、目の前の蒼い硝子の花瓶に生けられた花の僅かな角度の方がよほどの重要ごとだとでも言うように、先ほどから何度も手を伸ばしてはその花弁をいじくり回している。

「あの……」

「なあに?」

「どういう、ことでしょうか」

「何かしら?」

「その……短い期間、っていうのは……」

 その時。マヨの背後の、扉が開いた。

「いっやあー! いやあいやあ、申し訳ありません、授業の終了間際に質問をしてきた生徒がおりまして、はい。そういった場合、教育者の私、兼森<かねもり>としましては、生徒の向上心、すなわち、上を向く心を無下に、上なだけに下には、切り捨てるということを行うわけにもいかず、その生徒が理解し納得し驚嘆するまで、せつせつと、りんりんと、きんきんとした、説明をしておりましたところかくのごとき時間とアイナりまして。誠に申し訳も御座いません。いや、その生徒と申し上げますのが、頭が、いや、向上心はあるのですが頭の、すなわちオツムのできぐあいが元来少々不完全であるなどの問題に見舞われ、いわばオンプロブレムの状態でありまして」

 振り向いたマヨの目の前に立っていたのは――担任教諭の、兼森だ。

 そこに居るマヨには一瞥もくれず、部屋の奥へと向かって七十五度に腰を折り、満面の笑みに作った顔面のまま、唾を飛ばして喋り続けている。

「あ、いえ、ですが、はいもちろん教育者の私としましては。私、兼森<かねもり>敏郎<としろう>と致しましては、そういった生徒をも見捨てない、いや、人は生まれながらにして不完全、アンパーフェクトであり、エデュケーションを通じて、パーフェクトな人格と人生との形成を目指していくがゆえに、いや、もちろん既にパーフェクトのルート三乗にイトマの無き日永生徒会長様におかれましてはそういった問題とは無縁でございましょうが、つまりはそういった生徒、スチューデンツにこそきちんと向き合うべきだと常日頃から強く主張している所存にてございまして」

「ええ、分かっておりますわ兼森先生。熱心なご指導に、生徒を代表して御礼申し上げます」

 放っておけば永遠に続きそうな兼森の口上を、揚羽がやんわりと制した。

 マヨは、兼森がマヨに対して見せる威丈高な様子も嫌いだったが、それと同じくらい、有力な家柄の生徒に対するこの卑屈な態度が、大嫌いだった。

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