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■ #6 ■


 今日は、あいにくの雨だ。

 だが、中庭の片隅。いつもの場所にいつもの二人の姿がないのは、それが理由ではない。

 天から降ってくる水滴は特殊ガラスで作られたドーム状の屋根に遮られ、女生徒達が戯れる芝生の上までは届かない。むしろ、雨粒が特殊ガラスに当たって跳ね返る音が、彼女たちがうわさ話に花を咲かせるのにちょうどいいBGMにすら感じられるはずだ。

 中庭中央の全方位型ディスプレイでは、先日のダークカラードが出現した際の事件報道が、再放送されている。

 ここ数年、コンビで出動すれば無敵を誇っていたライトニングセーラーとブレザーシャドウが、突如現れた新ヒロイン相手に苦戦する。最新型の強化制服を着た、しかし悪の心を持ったヒロイン。ダークカラードと名乗るそのヒロインの姿は、邪悪に満ちている。後ろに広がる長いスカートの中は、昆虫を思わせる反射素材。ライトニングセーラーとブレザーシャドウの行く手を阻み、凶悪犯が逃げることをまんまと成功させ、高笑いだけを残して去る――ダークヒーロー、いや、ダークヒロインの登場に、アルテミス学院内は、興奮で沸き返っていた。反社会的。下品。粗野。新しい興味の対象に興奮している彼女たちは、まさか同じ学園にその当人が通っているなどという想像を働かせる余地もなく、思い思いに彼女を罵った。

「でも、ライトニングさまとシャドウさまが、必ずあの下品なダークを倒してくれますわ」

「けれど……最新型の強化制服は、これまでの強化制服の十倍も強いのでしょう? いくらあのお二人でも、勝てるのかしら……」

 そう言いながら皆がちらちらと視線を送る先は、全方位型ディスプレイを囲むテラス席の、少し高くなったところ。

 揚羽と梓乃の指定席だったそこに今日座っているのは、小比類巻ルミ、小比類巻レミ。憧れの先輩の真似をしてブランド物のティーカップに紅茶をそそいでは、蒸らしすぎたそのお茶の苦みに顔をしかめている。

「あの…………ねえ、ルミさん、レミさん。少し、よろしいかしら?」

「あらあ、何かしら? ねえ、レミ」

「そうねえ、ルミ。私たち、今、お茶を楽しんでいるところですのよ?」

 周囲からのその呼びかけを待ちわびていたことを隠し切れず、しかし表面上は面倒くさそうな風を装って、ルミとレミは振り向いた。

「ライトニングセーラーとブレザーシャドウ……これから、どうなるんですの?」

「あら、私たちが知るはずないじゃない。ねえ、レミ」

 そう言ってルミは、思い切って飲み干したお茶の苦みにむせて、机上に置いたクッキージャーから取り上げたチョコチップクッキーを、口の中に放り込む。

「そうよねえ、ルミ。ライトニングとシャドウがこれからどうなるか、私たちも気になって仕方がないわ」

 ルミの失敗を見てもまったく懲りず、レミもまたカップをあおり、やはり耐えきれない苦さをチョコチップクッキーで中和する。

 二人の答えに落胆の色を見せる周囲を確認したルミとレミは、満足そうに目を見合わせた後、クッキーのかけらを口の端にくっつけたまま、続けた。

「ただ……そうね。わたくしが思うところでは、おそらくこの後、四代目のライトニングセーラーとブレザーシャドウが現れるのではないかと思うの。どう思う、レミ?」

「そうですわねえ、ルミ。最新型強化制服を着た、四代目のライトニングセーラーとブレザーシャドウが、ダークカラードなんかこてんぱんにやっつけると思いますわ」

 その四代目は自分たちだ、と。

 言葉にはせずとも、二人が座るこの席が、何よりも雄弁に語っている。

「いつ頃いらっしゃるんですの?!」

「あんな醜悪なヒロイン、いつまでも見ていたくないですわ」

「早くやっつけちゃってくださいまし」

「デビューはいつですの? あした? あさって?」

 沸き立つ周囲に対して、しかしルミとレミは急に困ったような表情を見せた。

「で、デビューには、もう少し時間がかかるんじゃないかと思いますわ。ねえレミ」

「そ、そうですわよねえルミ。なんてたって、最新型の強化制服はコントロールが難しくって……」

「ダークカラードは、そんな強化制服をあっさり着こなしていませんでしたこと?」

 ルミとレミを讃えるこの場に、そぐわぬ者が声を上げた。

 それに対する悪感情を礼儀のヴェールで覆い隠し、ルミとレミは、異端者――ユカリに、挨拶を投げる。

「あら、まあ。ユカリさん、ごきげんよう」

「ごきげんよう、ユカリさん」

「ごきげんよう。強化制服が着こなせないなんて、四代目ヒロインは随分と脆弱な質ですのね。心配ですわ」

「ユカリさん、脆弱だなんて……ルミさんとレミさんは、繊細な方でいらっしゃるんですのよ」

 ユカリの舌鋒に驚いた周囲の女生徒が、その鋭さをやんわりと非難する。

「ええ、もちろんそうですわ。私は、四代目ヒロインの話をしておりますの。ルミさんやレミさんが繊細で素晴らしい方であることは、心から同意するところですわ」

「そ、そうですわよね」

 学院内では、ヒロインの正体は公然の秘密。その建前を楯にとられ、指摘した女生徒の方が、慌てたように小さくなった。ルミとレミは、そんなユカリをにらみつける。

「最新型の強化制服は、特注品ですの。いままでの十倍のパワーブースターを装備していますのよ。ねえ、レミ」

「そうですわよねえ、ルミ。だから、オートパイロットの調整に時間がかかって大変なんですのよ。今までのものと同じに考えるのは、大間違いですわ」

「調整を人に押しつけておいて、大変も何もないんじゃなくて?」

 ユカリが小声でぼそりと言ったその言葉に、小比類巻姉妹は目に見えて狼狽した。周囲の取り巻き達が、聞き落としたそれを問い直すよりも早く、大声で話題を逸らす。逸らしきれずとも。

「と、ところでユカリさん。いつもランチをご一緒なさってる、あのネズミ色の方は、今日はどちらにいらっしゃるの? ねえ、レミ、ああああの方、なんと言ったかしら?」

「あ、ああら、ルミったらうっかりさんねええ! え、えええと、たしか、神無原マヨさんよ」

「そ、そそそそうそう、そうでしたわ。ごめんなさいね、ユカリさん。私ったら、興味がない人の名前を覚えられなくて。ねえ、レミ」

「そうですわね、ルミ。でも、きょ、興味がないんだからしょうがないですわ。まーったく、興味がなくて、ご縁のない方なんですもの。ユカリさん、気を悪くなさらないでね」

「ええ。もちろんですわ」

 むしろその方が光栄だとばかり、ユカリは返事をする。

「そういえば、その、マヨさんはどちらに? あの方、いつもあちらの隅に座ってこちらを怖い目で見ていらしたけど、いなくなると寂しいわ。ねえ、レミ」

「そうよねえ、ルミ。学校にはいらしていたみたいなのに、どうして今日はあそこにいらっしゃらないのかしら」

 皆、関与はせずとも、マヨのことが視界の隅には入っていたらしい。ルミとレミの取り巻き達が、口々に賛同の意を示す。その中で一人ユカリだけが、いなくなった原因を知っているくせに、と言わんばかりの表情で、二人をにらみつけていた。

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