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■ #9 ■


 甲高い、魔女のような笑い声が、摩天楼に響き渡る。

 マヨ自身の声ではない。あらかじめ強化制服の口元に仕込まれたスピーカーから響き渡る、アテレコされた合成音声だ。

 純粋な悪の心を持った、悪人の、悪人による、悪人のためのヒロイン、ダークカラード。

 喜びを苦痛とし、幸福を排撃し、希望を憎悪する、唾棄すべき存在。

 彼女の悪行を見過ごせなくなった三代目ライトニングセーラーとブレザーシャドウが、今日、彼女をここに呼び出し――そして、敗北した。

 完膚なきまでに。

「愛と正義のヒロインなど、笑止! 力なき者に語れる正義なぞこの世にはないわ! あーっはっはっはっはっ!」

 台本通りに。マヨの口もとから、マヨのものではない声が、マヨの気持ちを代弁するかのようなセリフを吐く。

 もっとも、無力なのは、足下にうずくまるライトニングセーラーとブレザーシャドウではなくて――愛と正義を名乗る資格を一度たりとも得ることができなかった、マヨ自身だけれど。

「死ねえええええっ!」

 段取り通り、折れた鉄骨の鋭い切っ先を、憧れだったヒロインの二人へと向ける。

『あああああっ! 愛と正義の象徴、ライトニングセーラーが……ブレザーシャドウが、ダークカラードに殺されてしまうっ! 誰か、誰かヒロインのこの危機を救う者はいないのか?! この世から、愛も正義も失われてしまうのかあああああっ?!!』

 マヨが身につけているイヤホンに、アナウンスの声が入る。それが終わるまで、不自然なほど長く鉄骨をかまえたまま、マヨは待つ。そこへ。

「待ちなさいっ!」

「愛と正義は、死なないわ!」

 新たな二つの影が、現れた。

「誰だ!」

 声に合わせて、指定の場所を振り向く。同時に、新たな人影を照らすバックライトが点灯。

「新世代を担う正義のヒロイン、四代目ライトニングセーラー!」

「新時代を走る愛のヒロイン、四代目ブレザーシャドウ!」

 良く似た二つの声が、重なる。

「正義は光とともに! 愛は安らぎとともに!」

「人々の安寧を乱す不逞の輩を」

「我々姉妹は、許さない!」

 スピーカーから流れる、二人の四代目の声。

 マヨと違い、小比類巻姉妹自身の声であることは間違いないのだが、動きと声とが微妙にあっていない。おそらくは事前に録音したものを誰がか裏でキュー出しして再生しているのだろう。

 アテレコとアフレコで言い交わす台本通りの正義論。裏事情を知ってしまえば、施設でやった学芸会よりもちゃっちいな、と、マヨはいっそ可笑しくなった。学芸会では少なくとも、自分の声で話すことができるのだから。

「こしゃくな! 愛だの正義だのという言葉だけでは私にかなわぬことが分からぬ愚か者が、まだ居るようだな!」

 音声はスピーカーからだが、行動はマヨに一任されている。というより、机上の数値計算だけで設計され、パワーブースターが搭載されすぎたこの強化制服を、既存のオートパイロットを使った事前プログラミングだの遠隔操作だので動かそうとすると、ほんの少しのトラブルですぐに暴走してしまうのだ。

 もっとも、運動神経に恵まれたマヨには、この強化制服をコントロールすることはさほど大変なものには感じなかったのだけれど。跳び箱三段もとべない小比類巻姉妹は、試作品の新型強化制服を着てみただけで、強過ぎるパワーを持て余して危うく大怪我をしそうになったらしい。

 マヨの動作データを元に開発された改良型のオートパイロットを搭載し、四代目の二人は、どうにかその強化制服を着こなせるようになった。とはいっても、マヨの動きがいつもの、ジャージ姿である時と遜色が無いのに対し、四代目の二人は、手を上げる動作一つみてもどこかぎこちない。

 あまり無理をさせない方がいい、と判断したマヨは、接近戦を避け、少し遠くに位置を取った。

「死ねえっ!」

 スピーカーからの音声は、マヨの動作を見ながら的確にアテレコされている。そのセリフと同時に、マヨは、手にしていたままの尖った鉄骨を、四代目の二人へ向かって投げた。二人が立つビルの、二人には確実に当たらない、遥か下の方へと。

 ルミとレミは一瞬ビクっと肩をすくめ、自分たちから遠く離れたところに突き刺さる鉄骨を確認し、その場にへなへなと座りこんだ。

 他人ごとながら。小比類巻姉妹相手ながら。本当の事件の時にはどうするつもりなんだろう、と、マヨは心配になってくる。

『おい、神無原』

 耳にさしたイヤホンから、兼森の声が聞こえて来た。

 せっかくオーダーした特注の強化制服を着こなせなかった愛娘たちをどうにかデビューにこぎ着けさせたことを小比類巻姉妹の父親に評価され、兼森は四代目ヒロインのマネージャーとやらに抜擢されたらしい。

 マヨにとっては、どうでもいいことだったが。

「なんですか」

 ぶっきらぼうに答える。後でイヤミを言われることはわかっていたが、兼森に愛想良く振る舞う気には、どうしてもなれなかった。

『二人のコントロールの安定レベルが落ちてる。台本は変更だ。余計なことしてないで、さっさとやられろ』

「……あれくらいで安定しなくなるとか、本当にデビューして大丈夫なわけ?」

 マヨは、小声で呟いた。その声は、もしかしたら兼森には届いたかもしれないが、もちろん彼は何も言わない。彼が頭を垂れる上流階級のかたがたが、その情報を喜ばないからだ。

 改良型オートパイロットの完全な安定にはあと一か月は調整を行う必要がある、というのが、担当技術者達の意見だったらしい。もちろん、早くデビューしたい小比類巻姉妹の強い主張により、その意見はあえなく退けられた。

『今から二人が必殺技を出す。それに合わせて突っこんで、やられろ』

「三代目の必殺技はよけたのに?」

『俺がお前に意見を求めたか? 言われた通りにやれってんだよ』

 通信が一方的に切られる。

 マヨは黙って、視線をルミとレミの方へ戻した。

 兼森の言った通り、ルミとレミはどうにかその場で立ち上がると、プログラミングされた通りの、必殺技の前振り動作を始めた。

 二人同時に両手をあげて、ふりおろし、強化制服に取りつけられたパワーブースターの全エネルギーを集約して相手を消し飛ばす。二人の合わせ技『ルミネンティック・レ・ミゼラブル』。ルミとレミが辞書を引いて見つけた、響きのかっこいい単語を合わせて名づけた、必殺技だ。

 多少の攻撃は防御できるダークカラードの強化制服だが、必殺技の直撃をくらえば、マヨもただではすまないだろう。正面から突っこむように見せかけて、テレビカメラに映らないよう、直前で避けろ、ということだろうか。それとも、直撃して、マヨが怪我をしてもかまわない、ということだろうか。兼森であれば後者かもしれないな、と、陰鬱な気持ちになりながら、マヨは地を蹴る。

「「ルミネンティック・レ・ミゼラブル!!」」

 ルミとレミの声が重なる。

 二人から放たれた、力の、光の奔流が、マヨに向かって押し寄せる。

 子供向けのテレビなら、この光に呑まれて、悪い奴が改心したりするんだよね、と思いながら。

 マヨは、それが。輝かしい光の渦が、前に迫ってくるまで、それをいつまでも見つめていた。

 その直後。夜の摩天楼に爆発音が鳴り響き、古びた廃ビルが倒壊する。


 こうして、悪は滅んだ。



 三代目ライトニングセーラーとブレザーシャドウが守って来た愛と正義は、無事次代へと引き継がれた。

 しかし、ダークカラードが逃がしたテロリストが何を企んでいるのか心配だ。

 どうか、捕まえて欲しい、と。

 満身創痍の体でそう訴える先輩二人の手を、固く握りしめる四代目ライトニングセーラーとブレザーシャドウ。

 こうしてヒロイン界に、新たなヒロインが誕生した。


 と、いうことになった。


 めでたし。


 めでたし。

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