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■ #10 ■


 ドーム型の天井の、ガラス越しに見える秋晴れの空に輝く太陽。その輝きが、中庭中央の巨大ディスプレイに群がる彼女らを更に興奮させているようだった。

 その日の中庭は、いつも以上に盛り上がっていた。ランチタイムのはじめは、先週放送された、四代目ライトニングセーラーとブレザーシャドウのデビュー戦のダイジェスト。そしてこれからはじまる後半では、デビュー後第一戦が放映される。

 しかも、アルテミス学院内独占生中継で。

 ダークカラードが現れた際に取り逃がしたテロリストの一味が、郊外にある、何年も前に潰れ廃墟と化している遊園地に潜伏しているとの情報を入手。四代目のライトニングセーラーとブレザーシャドウが逮捕に向かう、というのが、今回の筋立てだ。

 そんなわけで、最近いつもテラス中央席に陣取っていたルミとレミが、今日はいない。揚羽と梓乃は、自分たちがヒロインの一線から引いたことを暗喩するかのごとく、目立たないようテラスの端の席に座っている。

 そして、中庭隅の、指定席。

「予告のあるヒロイン中継なんて、前代未聞ですわ」

「そう?」

「ましてや、アルテミス学院限定公開だなんて。ただ友人に自慢したいだけだっていう、二人の卑しい心根が見え見えですわよ」

「まあ、いいじゃない」

 ダークカラードの重責から解放されたマヨは、ユカリと並んで腰掛け、久しぶりに晴れやかな気持ちでお弁当の包みを開いた。

 中からは白いおにぎりが二つ、転がり出る。

 その一つを取り上げるマヨを見ながら、ユカリはため息をついた。

「悪のヒロインとやらが終わって、マヨが元気になったのは結構ですけれど……なんだか、いやになりますわ」

「ユカリって、実はヒロイン好きだよね」

 少し笑いながらマヨが言うと、ユカリは心外だと言わんばかりに柳眉を逆立てる。

「誤解にもほどがありますわ」

「だって、なんだかんだ言っても詳しいじゃん」

「……あんな人たちなんかに、興味はありませんことよ」

「あたしもだよ。ヒロインのファンだったのは高校に入るまで、って、今度からは言うよ」

 そう言いながらマヨは、一つ目のおにぎりにかぶりついた。

 ユカリが唇を尖らせる。

「つまらないですわ」

「何が?」

「結局マヨには、私なんか必要ないのね」

「ええ?!」

 驚くマヨを無視して、ユカリは続けた。

「私があれだけ心配したのに、マヨったらケロっとしているんですもの」

「そんなことないよ。これでも、色々あったってば」

「そうかしら」

「ほら、今となっては、さ。まあ、悪役とはいえ憧れの強化制服も着られたし。けっこう、稼げたし、施設のみんなも喜んでるし。いやあ、お金って偉大だよね。ヒロインなんてのはやっぱり、余裕のある上流階級のひとたちに任せておいた方がいいんだなって」

「本気で言っているの?」

「いや、うーん、まあ……どうだろう。でも、貧乏人が必死になって愛だの正義だの語っても、助けられる方が辛いかな、なんて」

「悲しいわ」

「ごめんね」

「やっぱり、私には、弱音を吐いてくれないのね」

「え、そこ?! 違うって! だから、それは……そうじゃないよ。ユカリは、大事な友達だよ。こうして立ち直れたのだって、ユカリが変わらず、友達でいてくれたからだよ」

「あら、そうですの?」

「そうだよ」

「本当かしら」

 ユカリは、怒っている相貌を崩さぬまま、マヨを見た。そして、マヨがどうしようもなく困っている様子を見て、ようやく表情を緩める。

「まあ、そういうことなら、今回だけは許してあげますわ。でも、次に何かあった時には、絶対に相談してくださいましね。私の知らないところでマヨが泣いているなんて、それが私、一番耐えられなくてよ」

「そ、そう? ありがと」

 ユカリが、マヨの左手をつかむ。マヨはユカリの手のひらを軽く握り返すと、それをやった自分に照れたように、すぐに手を離した。

「あ、じゃ、じゃあさ! 今回相談しなかったお詫びに、っていうにはアレだけど。良かったらおにぎり一個、食べる?」

「あら、でも、それはマヨのお昼でしょ?」

「ふっふーん。今日はねー。ごはんがたくさん余ったっていうから、いつもはおにぎり一個なところ、二個握ってきちゃった! だから、ユカリに一個あげてもあたしの分はちゃんとあるわけ! しっかりしてるでしょ」

「そう? でも、じゃあ……せっかくだから、いただこうかしら」

「はい、どうぞ!」

「ウフフ、ありがとう。良かったら、お返しに、私のお弁当もいかが?」

 その瞬間。

 ガ。

 ガ―――――――――――――――――――――――ギ―――――――――――――――――――リリリリリリ―――――リ――――――――――ッ

 空気を切り裂くようなノイズ音に、マヨとユカリは手を止めた。

 ノイズの音源と思われる、巨大ディスプレイへと目を向ける。だが、つい先ほどまで、ヒロインを映すため明るく輝いていたそこが、今はただ、灰色に染まっている。

 一瞬後に、明転。

 地面と、空。人の影。動物の声。犬だろうか?

 悲鳴。人のもの。あるいは、人ならざるもの。そして、叫び。破壊音。悲鳴。悲鳴。

 絶叫。

 暗転。

 画面は、「しばらくお待ちください」という文字だけの表示に切り替わる。新ヒロイン独占生中継への期待に胸膨らませていた女生徒たちが集まっていたテラスは、今や棒でつつかれた蜂の巣の様相を呈していた。ユカリとマヨも、思わず立ち上がった。

 切れる直前に、ちらりと見えた映像。マヨの胸に、嫌な予感が走る。

「マヨさん!」

 その予感を裏づけるがごとく、テラス席の端に居た揚羽と梓乃が、マヨの方へ駆け寄ってきた。

「今の、見まして?」

 揚羽が、不安を隠しきれない様子で、マヨに尋ねる。

「はい……おそらく」

「暴走……?」

「……そうじゃ、ないかと」

「まだ、早かったんでしょう? どうして本稼働させたの」

「デビュー後も、しばらくは調整期間を置くって聞いてたんですが……」

「ちょっと、揚羽さま。文句を言うのなら相手が違うのじゃございませんこと?」

 マヨと揚羽の間に、ユカリが割り込んだ。

「マヨにはもう、関係ありませんわ。マヨの優しさにつけこんでいいように利用しておいて、問題が起きたら責任を押しつけるなんて……これ以上、失望させないで欲しいですわ」

「別に、マヨさんに責任を押しつけようとしているんじゃありませんわ。ただ、何か知らないかと。それに、私たちだって別に、あのやり方に積極的に賛成していたわけじゃ」

「積極的に賛成なさっていなくても、加担したことに変わりはなくってよ!」

「加担だなんて!」

「揚羽」

 その時、梓乃が、マヨとユカリの前で、初めて口を開いた。

 咎めるようなその口調に、揚羽が梓乃を振り返る。

「彼女の言う通りよ。もう、やめましょう」

「梓乃、でも……」

「マヨさん、ユカリさん。ごめんなさいね。揚羽、行くわよ」

「えー」

「嫌なら、私一人でも行くわ。これ以上、後輩に軽蔑されたくないもの」

 そう言って、梓乃は一人歩き出す。

 その後を、揚羽が慌ててついていった。

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