ジャンプ×ノベル JUMP j BOOKS

02/04

一日目・犯罪学級(はんざいがっきゅう)


 「何なんですか、あいつら?」
 案内後、俺は大至急職員室に駆け込み、二人の生徒から振るわれた暴挙について柊先生に申したてた。しかし先生は俺の訴えに対して、
「その程度で済んで良かったじゃない。相手が人性さんとかだったら、原形すら留めてなかったかもしれないわよ?」
 眼鏡をクイと上げつつ、けろりとした様子。……どういうことだ?
「だいたい、あのクラスは意味が分かりません。そもそもどうしてあいつらだけあんな少人数なんですか?」
「ふふ、ちょっと遅くなってしまったけど……ここでキチンと説明しておきましょう」
 先生が椅子を回転させ、こちらに向き直った。表情も心なしか真剣なものへと変わっている。
「ここは、犯罪者予備軍の子達が集められた学校なの」
「犯罪者……予備軍?」
 俺はその非日常的な単語を無意識のうちに復唱していた。
「そしてあなたが入れられたあのDクラス、通称Danger(危険)クラスは、ここでもとりわけ犯罪的特性が濃厚な人間が集められた教室よ」
「はあ」
 こともなげに告げられた内容に、俺の凡庸(ぼんよう)な思考はひたすらに置いてけぼりを食らっているが、簡潔にまとめるとこういうことになる。
「つまり、ここの生徒は全員が未来の犯罪者候補ってことすか?」
「そうね」
 彼女はあっさりと首肯した。
「いやいや、『そうね』って……。そんな普通の返しをされても」
 それで「はいそうですか」と素直に了解する阿呆(あほう)がいるだろうか。だが柊先生はおかまいなしに説明を続ける。
「だって事実だもの。この学校には、犯罪を起こす可能性が格段に高い子達を日本中から集めて通わせているの」
「いや〜、えっと……」
 事実だとしても、それはこちらが頷(うなず)く理由にはならないだろう。俺が反応に困っている間も、先生は言葉を紡(つむ)いでいく。
「つまり、この学校は彼らが犯罪者としての特性と向き合って、社会に貢献できる人材となるよう更生させるという一部の政府関係者の発案の下(もと)、表向きには一般の高校と変わらない形で運営を始めたのよ」
「んな滅茶苦茶な……」
 あまりにも破天荒な理屈にひたすら唖然(あぜん)とさせられるが、まだその在(あ)り方(かた)に納得がいかない。俺はさらなる疑問をぶつけてみた。
「でも、どうして普通の学校みたいにして、ごく普通に高校生活なんてさせてるんです? 他にもやり方はあると思うんですけど……」
 そこで先生は、聞き分けの悪い子を諭すような口調に変わった。
「いい、平君? ここの生徒達は確かに一般社会には受け入れがたい特性を有しているけど、彼ら自身はまだ何の罪も犯してはいないの。逮捕されて収容されたわけではない。あくまでそういった犯罪を起こす、もしくは関わる可能性を持っていると診断されただけ。そしてそれだけの理由で彼らの存在を拒絶することを、ここを運営する者達は好ましく思ってはいない。勿論私自身もね」
「でも、それを治すための学校なんですよね?」
「厳密に言えば、彼らが自分の特性を制御できるようにするの。犯罪的特性は、上手(うま)く扱えれば唯一無二の個性にもなる。ここはその特異な個性を活かしつつ、健全な日常を送ることが可能となるようサポートすると同時に、異端者である彼らに高校生らしい生活を提供しようという配慮も兼ねた教育施設として存在しているの。……ただ、暴走してしまいがちな子には相応の処置も施すけど」
 話を結んだ先生の眼鏡が意味深にキラリと光る。
 かなり飛び抜けた方針で最後の一言にも身震いしたが、話をまとめるとこの学校の理念はこんな感じらしい。
 ─ここ昏忌高校は、日本中から犯罪者の素質を持つ人材を集め、その特性を上手い具合に修正、発展させていく政府の施設であり、そしてあくまでそれは高校生活という営みの中で行われる。
 よし。受け入れるかどうかは別として、そこまでは把握できたぞ。
 だが問題はそこからだ。
「じゃあ、どうしてそんな学校に、俺が転校させられることになったんですか? それもその中で最も危険な連中が集められた教室に」
 もしかすると……俺にも隠された犯罪的特性とやらがあるのだろうか。
 こちらのそんな懸念を読み取ったのか、それをかき消すように先生は述べる。
「それはね、平君がごく普通の高校生だったからよ」
「……ごく普通の?」
「ええ、ごくごく普通。あなたには特殊な犯罪的特性はないと私達は判断した。だからそういう意味では安心していいわ」
「はあ、ありがとうございます」
 不安を一つ払拭できたのは喜ばしいが、それならここに来させられる理由はないだろう。疑問が深まるなか、先生が淡々と話を続けていく。
「以前あなたが過ごしていた学校での成績や授業態度、人間関係についてこちらで調査させてもらったわ。その結果、あなたは【普通すぎるくらいに普通】だということが判明したの」
「普通すぎる、ですか」
 なんだか馬鹿にされているようにも感じたが、柊先生は真剣そのものだ。
「テストの成績は平均点からプラスマイナス五点以内。運動は得意でも不得意でもなく、人間関係においてはほぼ全員があなたについて『普通に良い人』と答え、知人はそれなりにいたけど深い付き合いの友人は一人もいない。そんな少々【異常な】結果が判明したの」
 俺は自分でも把握していなかった自らの希薄な人間関係に絶句した。
「ここまで平凡な人物には今まで出会ったことがないわ。もしかしてこの結果自体あなたが何らかの意図を持っていたりしたの? だとしたらあなたスパイの才能があるわよ」
「…………」
 これほどの事態になるとは予想もしていなかったが、実を言えば、心当たりがないわけでもなかった。
「モットーっていうか心がけみたいなもんなんすけど……俺、あんまり目立ったりしたくないんですよね」
「……へえ」
 先生が興味を引かれたように、レンズの向こうの目を細める。
「別に勉強とかも手を抜いてたってわけじゃないんすけど……あんまりできすぎたりできなさすぎたりすると変に注目されるじゃないですか。なんか俺、そういうのが嫌だなって思ってて、それが影響したのかもしれません」
 俺の言い訳めいた独白を聞くと、柊先生は「ふむ」と顎(あご)に指を添えた。
「なるほど。『没個性』ね。それもちょっと不気味なまでの」
「……不気味ってのは言いすぎじゃないすか? それに友達がいないってのも今時珍しくはないでしょ」
「でも狙ったのでなければ、特に成績関連では全員の協力でも仰がない限りはこのような結果にはならないわ。……ま、本音を言うとそこはさして重要ではないの。大事なのはつまり、あなたは【世間の一般人の理想的なモデルである】ということよ」
「はあ……」
 未(いま)だによく分からない。それがなぜここに招かれる理由になるというのか?
「つまりあなたは、この学校の生徒─その中でも群を抜いた問題児揃いのDクラスの生徒達が一般社会に不自由なく溶け込めるよう、まずは普通の生徒と一緒に学生生活を過ごさせてみようという斬新かつ画期的な教育計画(プラン)に基づき、ここに招待されたのよ」
「ああ、なるほど」
 俺は合点がいったとばかりに手をポンと叩いた。
 しかし、それは結局、こういうことではないだろうか。
「つまり俺は、体(てい)のいいモルモットってことですか? あいつらが『普通』に慣れるための」
「ええ」
 女教師はモルモットという非人道的な譬(たと)えをあっさりと認めた。
 残念ながら、辛抱(しんぼう)強く話を聞いていた俺も、さすがに堪忍袋の緒が切れた。
「冗談じゃないですよ! そのために俺はわざわざ転校させられたんですか⁉ 本人の許可も一切なく!」
 その訴えに、先生は「てへっ」と言わんばかりにあざとく舌を出す。
「だってここが犯罪者予備軍の巣窟(そうくつ)ですと言ったら誰も来ないでしょうし……それにこのアイデアが職員会議で出た時は『ヤバい』だの『そいつ詰んだ』だの教員一同が大絶賛だったわ」
「そいつら絶対語尾に(笑)入ってんだろ⁉」
 教師達の会話レベル! ネットの書き込みじゃねえんだから。
「とにかく、そんな勝手な理屈で命の危険に晒(さら)されるなんてまっぴらごめんですよ!」
「まあまあ、そう怒らないで。こちらだってあなたの最低限の命の保障は………………するから」
「その間(ま)は何だよ⁉ そこは完璧な保障なきゃ駄目だろうが!」
 人の命を何だと思ってるんだ、日本政府!
 顔を紅潮させ激昂(げっこう)する俺に対して、柊先生はこほんと咳(せ)き込(こ)むと、無理矢理会話を締めに入った。
「それじゃ、理解してもらったところで、お悩み相談は終了。こっちもこっちで新任の先生が行方不明になって大変なの。一応クラスメイトの簡単なプロフィールは渡しておくから、せいぜい用心して高校生活をエンジョイしてね。あと今の話は口外厳禁よ。この計画の存在が露呈してしまったら、全てが台なしだもの。それにここから逃げ出そうなんて無謀も控えるように。この学校に転入した時から、あなたには四六時中、政府が監視の目を光らせてるのよ。それじゃ」
「ええ⁉ それってどういう……」
 さりげなく重大な情報を漏らしつつ、先生は詳細を問(と)い質(ただ)そうとする俺を振り切る形で、すたこらと逃げるように職員室を出ていってしまった。去り際にしっかりとデータ入りのファイルとやらも押しつけられている。
「……はあ」
 ああも強引に捲(まく)し立(た)てられては返す言葉も見当たらない。職員室に取り残された俺は、ファイル片手に重い、重い溜息を吐(つ)いた。

<第3回更新に続く>

キャラ紹介やプロローグも読める『罪人教室』特集ページはこちら!

作品詳細・ご購入はこちら!





02/04

新刊情報発売スケジュール

読者アンケート

今後の予定

WebノベルWebノベル一覧

このページのトップへ
このページのトップへ
JUMP j BOOKSについて
©SHUEISHA Inc. All Rights Reserved.