【好評発売中!!】ジャンプ小説新人賞14Spring小説フリー部門金賞受賞作品『鬼塚伊予の臨床心霊学』が、クリスマスの特別編を公開!!

14/12/25 新刊情報
鬼塚伊予の臨床心霊学
天才・女子中学生が挑む怪奇事件簿!?
小説:花井利徳
イラスト:白狼
■定価:本体1000円+税
■発売年月日:2014年12月19日

あらすじ

弱冠13歳にして心理学の天才、鬼塚伊予。人助けを愛する彼女の手にかかれば、あらゆる悩み事は即座に解決される。幼馴染の大学生・大和一也は、傍若無人な彼女の「犬」として日夜こき使われていたが、実は、とんでもない秘密を抱えていた……!? ジャンプ小説新人賞フリー部門<金賞>受賞作!!

「くしゅんっ!」
「先輩、流石にその格好は寒いですって……」
 十二月二十四日。
 言わずと知れた聖前夜。
 メリークリスマス。こんばんは。
 俺は大和一也、駄犬の愛称で周囲に親しまれている大学生だ。
 冬本番の今日を、みなさまはいかがお過ごしだろうか?
 奇跡の起きる夜、良い子のみんなはもう夢の中かも知れないな。
 いい子に眠るみんなのところに、きっとサンタのやつもやってくるだろうと思う。
「何を言うかと思えば、この神聖なコスチュームを否定するなんて、下らないことを……『まずは形から』と昔からよく言われていますが、これは心理学的にも正しいことなんです」
 ノースリーブのミニスカサンタのコスチュームに身を包んで、難しい講釈をしてくれているこの少女は、鬼塚伊予。天才心理学少女として有名な、自称俺の『飼い主』だ。
「人間の心理というのは、基本的に行動と同時に生起されることがほとんどなんです。好きなものを『食べる』から、おいしいと『感じる』し、好きなことを『する』から楽しいと『思う』んです」
「まぁ、確かにそうですよね。何もしないのに、何かを思うってなかなかないし」
「ですので、『まず形から入る』というのは、自ら意識的に行動を起こす準備をすることで、その『行動』を促進する。いわゆる『やる気』を起こさせるということです。何事も『やる気』が肝心だといいますが、そのための雰囲気作りとして、『まず形から』というものは、非常に重要なんです。分りますか、駄犬?」
 すごく真面目な話をしているようにも聞こえるが、要するに自分がサンタコスをする理由を正当化したいのだろうと思う。でも、どうしてか、納得させられてしまうのが不思議だ。
「でも、寒いことには変わりはないじゃないですか?」
「そこは気合です。『心頭滅却すれば火もまた涼し』です!」
 つまりは、寒いのは認めるということだな。
「寒さを恐れて、可愛い格好は出来ないんです!!」
「左様ですか」
 だが悔しいことに、可愛いんだよね。この格好。
 ちなみに、俺はサンタの相棒、赤鼻のトナカイのコスプレだ。
こっちは布地が多いので、幸いなことに寒くはない。決して、温かいわけではないが。
「……先輩、震えてません?」
「き、気のせいでしゅ!」
 やっぱり寒いらしい。
「それで、先輩。これからどうするんです?」
「もちろん、サンタさんのお手伝いです!!」
「おおう」
 思い出した、先輩は未だに赤い服着た素敵なおじいさんの存在を、信じているのだった。
 心理学の天才ではあるが、まだ十三歳の女の子だ。しかも、彼女のご両親は揃って親馬鹿なので、彼女の信じる幻想を守り続けているのだ。
 まぁ、俺もその彼女の幻想を守るのに一役も二役も買わせてもらっているので、何も言うことは出来ないが……。
「もちろん、私も早く寝ないと、サンタさんが来てくれなくなるので、近隣幼稚園の子供たちにプレゼントを配ったら、家に帰って眠りますが」
「そうですね、気温も下がってきましたし……あ、雪も降ってきましたよ。先輩、風邪をひく前に行きましょう」
「ええ、駄犬、ホワイトクリスマスです!!」
 最高に楽しそうな笑顔でそう振り返る先輩。
 サンタのやつも、この先輩のお手伝いに、きっと感謝してくれるだろう。
「では行きましょう、先輩」
「ち、ちょっと待っていなさい!」
 先輩は、なんだか俺から離れると、小さな声で何かをぶつぶつ言っていた。
「せんぱーい、早く行かないと風邪ひいちゃいますよぉ〜……」
「今行きます! ついてきなさい駄犬!!」
 今夜はクリスマスイヴ。
 どうやら、色々と、大変な夜になりそうだった。

 私は一也お兄ちゃんから離れて、その様子を伺った。
「……聞こえますか、一也お兄ちゃん?」
 そして、小声で呼びかけてみる。
 一也お兄ちゃんは反応しない。
 よし、大丈夫、私の声は聞こえていないようだ。
 本人に聞こえたら、恥ずかしくて死んでしまう。
 面と向かって、『一也お兄ちゃん』なんて、もうしばらく呼んでいない。
 さて、
「こんばんは、メリークリスマス」
 私は先程のボリュームで呼びかける。
「聞こえていますよね? あなたです、画面の前のあなたに話しかけているんですよ」
 そう、画面の前のあなたです。あなたに話しかけています。せっかくのイヴですから、ちょっとメタっぽいことも許されると思いまして。
「こほん」
 駄目だ、意識してしまうと恥ずかしくて言えなくなっちゃうから勢いで行こう。
「ク、クリスマスなんだから……プ、プレ、プレゼントに、『鬼塚伊予の臨床心霊学』買いなさいよねっ!!」
 何回か噛んでしまったが、大事なのは勢いだってお父さんも言っていた。
「くしゅん!」
「せんぱーい、早く行かないと風邪ひいちゃいますよぉ〜……」
 一也お兄ちゃんが呼んでいる。
「今行きます! ついてきなさい駄犬!!」
 そろそろ体も冷えてきたし行かなくちゃ。
「それではみなさん、どうぞ『鬼塚伊予の臨床心霊学』をよろしくお願いしますね」
 さて、幼稚園のみんなは、プレゼントを喜んでくれるだろうか。
 今夜はサンタさんも来てくれるし、私ももう一息頑張らないと。
 一人小さく決意をする私だった。
 みなさんにも、素敵なクリスマスがやってきますように……。


<了>

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