小説テーマ部門 銅賞受賞

  • 『レイヤード・ワールド 』P.N. 羊山十一郎 あらすじ バロメア王国の騎士・ラークロットは、侵略軍との戦闘で瀕死の重傷を負う。意識が途絶えかけた時、王女の魔法によって異世界に飛ばされた。たどりついた先は、現代日本の、コスプレイヤーの少女・リコの部屋だった。科学の発達した世界に戸惑うラークロット。更にリコから、自分自身がゲームの登場人物の一人であることを知らされる。彼はゲームをプレイしながら王女の元へ戻る方法を探る。その過程で、ラークロットとリコは徐々に絆を深めていく。
    講評 現代日本から異世界に飛ぶ作品が多い中で、敢えて異世界から現代日本に転生するアイデアを選択し、その着想を十分に生かせていた。誇り高い騎士を語り手にして、現代日本のオタク少女やインターネット技術への戸惑いをコミカルに描き、徐々にそれらへ順応していく展開も、軽快でユーモラスだった。またシリアスパートについても、他人の関心を集めたいヒロインが陥った現代的な苦境から、主人公が、自身の持つ魔法と信念で救い出す様が爽快だった。

 可能性は感じれど、もっと磨ける!作品が揃った回でした。特に印象に残った作品に触れます。
 フリー部門の『遊川さんと孔雀の箱』はキャラクター、企画ともに一定のクオリティはありました。しかし2つの視点が交互に繰り返される文章の手法が、読者の感情移入をスムーズにさせるだけのクオリティではなかったのが悔やまれます。今は、一つの視点からじっくり読者を引き込む丁寧な文章を模索する段階のように思えました。『オカルト解体新章』はキャラクターの見得が大変素晴らしい!
 しかし多くのキャラクターを「立たせてしまった」結果、主人公の印象が弱くなってしまいまいました。また、起承転結や三幕構成などの各パートの分量が、多すぎたり少なすぎたりして、読者のスムーズな感情移入が削がれたのが残念です。今回は受賞作なしとします。

 テーマ部門銅賞の『レイヤード・ワールド』はアイデア・読み味ともに、楽しく読めました。『異世界』へ行きたい気持ちは、いまの現実から夢有る自分に飛躍したい、というところが根本だと思います。

次回募集も、お待ちしています!

小説フリー部門

  • 『霊食主義者の調理人』P.N. 針堂海 あらすじ 主人公・伊調は生まれつき凄まじい霊感を持っていた。その力を見初めたのは、霊を食うことで除霊を行う霊食主義者・神喰羽美子。彼女の専属料理人となった伊調は、羽美子と様々な悪霊を調理していく……。
    講評 企画性のある着想は他の審査対象よりも目立っていた。キャラクターを魅力的に造形することに意識が向けられていたのは評価されたが、重要なキャラクターが唐突に登場するなど、構成上の粗が目につく。
  • 『だいたい9センチくらいのネガティブ』
    P.N. 香田雪葉
    あらすじ 人間の負の感情が具現化された生き物が見える鍵村。だいたい9センチくらいのこの生き物のせいで、彼女は知りたくも無いことを知ってしまい、人とうまくとつきあえなくなっていた。ある日、鍵村は自分と同じ力を持つ人間たちが集まる部署に異動になってしまう……。
    講評 会社勤めの女性・鍵村の心情を、リアリティを感じさせて描いた筆致が選考でも話題になった。話の展開は、鍵村だけでなくさらにメインキャラクターが2人登場することになるが、詰めこみすぎでテーマがぼやけて減点となった。
  • 『オカルト解体新章』P.N. 江西哲嗣 あらすじ 死者の負の思念を宿したと呼ばれる物品。高校生である君ヶ瀬はその存在を感知することができた。彼は、奇妙な白髪の少女、鷺崎と出会う。文化庁に所属している彼女は、その魄霊品を蒐集して管理しているという。彼女とともに君ヶ瀬は恐ろしい殺人事件に巻きこまれることになる。
    講評 ヒロイン・鷺崎が事件を解決する際の見得の切り方はインパクトが強かった。しかしそのシーンは後半にあり、そこを読み進めるまでに時間がかかりすぎる。つかみを意識することを次作に活かしてほしい。
  • 『放浪のアルデバラン』P.N. 沢尻夏芽 あらすじ 母を亡くし孤児になったステラは、宝と平和を守るキーパーのアルデバランと出会い、旅をすることになった。2人は運命に導かれるように様々な町、様々な人々と出会っていく……。
    講評 たくさんのエピソードが詰めこまれていて、飽きさせないように書かれている。しかし、エピソードの中にはオチが無いものがあったり、ムラが激しい。世界設定やキャラクター設定も緩く作られていて矛盾として見えるところも多かった。
  • 『遊川さんと孔雀の箱』 P.N. 澄弥ばける あらすじ 何かしら起業しては失敗を繰り返す女性・遊川さん。借金のせいでいつも首が回らない。日銭を稼ぐために母校である女子校でアルバイトをすることになったが、とある失踪事件に巻きこまれて……。
    講評 遊川さんのキャラクターは選考でも話題になるほど読む側の印象に残る。ミステリとして意識された構成や女子校内での描写も読者を引きつけるだろう。しかし、前半の冗長さや視点がころころ変わることなど読みづらいと感じさせる要素が、面白さにたどり着くまでに読者を手放してしまう。

小説テーマ部門

  • 『株式会社異世界転生 クビ間際につき』P.N. 花森光 あらすじ (株)異世界転生。現世から異世界へ転送させるヒーローの選定や、転生後の冒険をサポートするなどの業務を行う企業。主人公のユウキはそんな(株)異世界転生をクビになりそうな一社員。ある日、同期で優秀な美人、アイのミッションに参加することになり……。
    講評 異世界転生をサポートするという発想は他の選考作品に無いものだった。しかし、せっかくの素晴らしい発想だが、世界の設定・ルールが穴だらけで展開が都合よく見えてしまう。
  • 『はるけき異界より来たる』P.N. 池野ダリ あらすじ 異世界の青年、ハルは唐突に自分の前世を思い出してしまう。どうやら古賀聡介という日本人だったようだ。そして古賀は弟に殺されてしまったらしい。混乱するハルの前に、異世界では存在しえない物が現れて……。
    講評 テンポよく新しい情報の提示が行われるので非常に読みやすい。とはいえ、描写が粗く、小物や服装など現実の世界と異世界の区別がつきづらい。細部にも気を配ってほしい。
  • ノーライフキングの復活
    〜ヴァーミリオン演劇団 脚本集より〜
    P.N. 一宮にのまる
    あらすじ ブギーマンは不気味な姿と不死身の肉体を持っていた。湖でホラー映画の撮影をしていたところ、自分と同じ姿の怪物に水中に引きずりこまれてしまった。気づくと彼は、自分と同じような魔物たちしかいない異世界にいた……。
    講評 独特な世界観とキャラクターを豊かな描写力で書き上げた作品で、軽やかな文体や台詞回しは審査でも評価されたが、異世界に転生する前と後で主人公の価値観が動かないので、ストーリーが平坦に見える。
このページのトップへ