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ミニキャッパー周平によるジャンプホラー小説大賞 傾向と分析(全3回)
改めて、ジャンルの話に戻りましょう。「怪談」「都市伝説」ジャンルは数多く応募されています。現代的な恐怖と繋がりやすい分、「都市伝説」ものの方が最終候補まで残る数がやや多い、という印象があります。「死にたい人の前に現れて契約し、自殺のプランニングを行う自殺コンサルタント」という都市伝説を扱った『自殺幇女』は、都市伝説そのものが強い魅力をもったキャラクターとなっており、書籍化に至っています。「怪談」にしろ「都市伝説」にしろ、あるいは「呪い」にしろ、今の読み手にとって危うい魅力とリアリティを感じられるものでなければ読者からは支持されません。自分が書こうとしている怪談や都市伝説や呪いが、SNSで緊密なやりとりをし、動画共有サイトや深夜アニメを楽しむような現代の若者にとって、恐怖としてどのくらい説得力をもつか、あるいは魅力ある怪異と映るかはぜひ考慮してみてください。
何らかの「モンスター」を描くというのもホラージャンルの一つです。第四回では特別賞に、(時にVtuberとして形を取ることもできる)情報生命体が萌えキャラ的な外見を持ちながら虐殺を行う『夢幻抱擁 ~This Rotten World~』、ターゲットの友達になるためその周りにいる人間を殺してなり替わっていく怪物を描く『おともだち係』、の2本が選ばれています(後者は「都市伝説もの」でもあります)。マンガ・アニメ・ゲームでグロい表現や残酷な描写があふれる現代において、「ただ殺しに来るだけのモンスター」がそれだけではさほど珍しくないし怖くないからこそ、創意工夫を凝らした、時に精神的にも恐ろしい攻撃をしてくるような怪物・怪異を描くことが必要です。
ジャンルで言えば「デスゲームもの」は、例年一定数は応募されてきていますが、最終候補には第一回に一本が残ったことがあるのみです。〇〇年代に爆発的に増えたこのジャンルの作品は、様々なパターンが既に書き尽くされており、小説以外のメディアでは、近年には「アイドルにデスゲームをさせる」とか「家族対抗でデスゲームをさせる」作品など、コンセプトの段階で明確な差異を打ち出してきています。小説でも、デスゲームを始める前段階、コンセプトの時点での他にはない武器が必要でしょう。
ある程度応募されてくるにもかかわらず、これまで最終候補に残ったことのないジャンルとして「村」をテーマにしたものがあります。古い因習が残っているという村を舞台にし、物語の後半で村に生贄の風習があると明かされ、メインキャラが生贄にされつつあることが分かる――という応募作は少なくありません。このプロットだと、生贄というのが平凡で読者の予想を上回るものではないことと「今の読者にとって刺さる部分」が少ないことが弱点となります。村もので21世紀に最もヒットしたホラーはゲーム「ひぐらしのなく頃に」だと思いますが、現代的なキャラ造形やループ、「雛見沢症候群」など、当時の読者にとって「親しみやすい」一方で「新しく」見える内容だったことは重要です。
その他でのジャンルでも、「難病もの」に「ゾンビもの」という異色の掛け算で書かれた『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』が金賞を受賞したり、「ループもの」でも、結婚式に出席して新郎の顔を見ようとするたび時間を逆行する、という異様なシチュエーションの『※ただし、美人に限る。』が最終候補に残ったりしています。オリジナルなアイデアで既存のジャンルに化学変化を起こし、見たことのない物語を作るというのは、戦略として有効なもののひとつでしょう。
ここまで分かりやすくジャンル区分しやすいものに限って説明してきましたが、ジャンルの分類に入れにくいものでも、「死んでしまった片思いの相手を生き返らせるために、人間の血肉を栄養にする花を育てる(そのために主人公は殺人を繰り返す)」という『ピュグマリオンは種を蒔く』が銅賞を受賞するなど、アイデアの尖り方、読者を引き込む新奇性さえあれば十分に面白い作品は作れます。ジャンルを意識しすぎなくて構いません。かつて高見広春が、中学三年生の一クラスが最後の一人になるまで殺し合う『バトル・ロワイアル』を日本ホラー小説大賞に応募した時点では、「デスゲームもの」というジャンルは、世界にほぼ存在していませんでした。斬新さと強いエンタメ性を伴った作品ならば、ジャンルをゼロから作ってしまうほどの力をもっています。
様々書いてきたものの、上に記したのはあくまで応募者のための「傾向分析」であり、「これをやってはいけない、あれをやってはいけない」という禁止事項ではありません。ここから数カ月を費やして勝負をかけるための作品作り、そのヒントにしてください。
一度脱線して、主人公の話をしてみます。応募されてくる作品の主人公は、「高校生」であるものが比率的には最も多いです。続いて大学生、中学生、若者といったイメージ。これは、若い読者に刺さる作品を求めているこの賞にとって、たとえば老人を主人公にするよりは遥かに感情移入しやすいので、決して間違いという訳ではありません。
ただ、大量に高校生主人公の原稿が送られる中で、どうやって突出するか、自分なりの面白さを作るかという部分にはぜひ知恵を絞ってみて下さい。その点で、「名探偵だったが既に殺されて白骨死体となっている先輩と、死者の声を聞き届ける能力を持ち先輩の指示に従って事件を追う後輩」という異色の高校生コンビを主人公に据えて書籍化を射止めた『たとえあなたが骨になっても』は、キャラで勝負するためのお手本になるかと思います。実はこれが高校生主人公の唯一の書籍化作品です。他には「都市伝説サイトを運営する少女と、都市伝説の現場をバットで破壊することが日課の主人公」という、絵的に映える二人の物語『キミノクロア ~誰の中にも伝説がある~』が受賞していますし、最終候補に残ったものの中でも、「写真部に所属する高校生が、技術を駆使して心霊写真を偽造した結果、怪異に巻き込まれていく」というもの(『印画紙の黒』)もありました。
除霊師・退治屋など「心霊事件や怪奇事件を解決することを生業にしている」キャラクターをメインに置いた作品は、競争倍率が高いカテゴリですが、なかなか最終候補まで上がってきません。誤解して頂きたくない部分として、キャラの個性を作るうえで「退魔士や除霊士的なものにどれだけオリジナルなネーミングをつけてもそれだけではオリジナリティにはならない」というのがあります。ヤンデレ少女の正体が妖怪退治組織の一員である『怪談彼女』、顔の怖さで生徒に恐れられる(しかし心優しい)保健室の教諭が怪異を倒す『保健室の死神』などに見られるような、「どういう属性を背負った人物が怪異に立ち向かうと面白いのか、読者にとって美味しいキャラになり得るのか」の意識こそが、キャラの差異化・独自性の獲得に役立つでしょう。
職業でいえば、「探偵」がメイン登場人物の作品もよく送られてきますが、事件を複雑化することの方に力が入っているためか、肝心の探偵について、前の段落で書いたような『属性』の面白さや、キャラの性格の魅力、ハッタリに欠けているものが少なくなく、応募される数に対して最終候補に残る数が少ないです(唯一の例外は『たとえあなたが骨になっても』)。ミステリの世界においては「執事」「神父」「古書店主」「猟奇殺人鬼」「猫」「物理学の教授」「大富豪」「落語家」「名探偵の孫」「殺人鬼の息子」などなど多種多様な立場のキャラが探偵役をつとめていますし、ホラーにおいても、保険会社社員を探偵役にした貴志祐介『黒い家』など、その職業の観点ならではの物の見方を意識して新しい探偵像を提示できるかもしれません。
ジャンプホラー小説大賞では、主人公が「質屋」であったり「料理人」であったりと、ホラーとはかかわりのないような専門的職業とホラーを絡めた作品が幾つか最終候補に残っています。キャラクター文芸が興隆しお仕事ものジャンルが流行る昨今、こういった「職業」ものはもしかしたら受賞が増えていくカテゴリかもしれません。
ここまで4回に渡って開催され、現在第5回募集中の「ジャンプホラー小説大賞」。本日は、応募者の方々の作品作りに役立てて頂くべく、これまで応募された作品・受賞作品について傾向をご紹介できればと思います。
データを見ていきましょう。第1回から第4回までで、書籍&電子化作品6本、電子書籍化のみの作品1本、最終候補以上は24作品となっています。
まず歴代最終候補24作の中で、「私たちが暮らしているのと変わらない、現代日本を舞台にした作品」は20作。うち4作が書籍化されています。これは以前にもお伝えした通り、40字×32行で118枚以内という制限のために、遠未来や異世界などの現実から遠い世界を舞台にした作品は、「恐怖」や「キャラクター」や「ドラマ」の魅力を描く前に世界設定の説明でページ数を使いきってしまう率が高く、最終候補に残りづらいため、結果「現代日本が舞台」の作品が多く残っていることを示しています。
逆に「現代日本以外が舞台の作品」のうち書籍化された2作品は「ゾンビ化が癌のような難病の形で存在している(それ以外は現代日本と同じ)世界」を描く『マーチング・ウィズ・ゾンビ―ズ』、「食人文化があり食料として育てられる人種がいる異世界」が舞台の『舌の上の君』と、世界設定そのものが強く読者の目を引く部分になっています。最終候補止まりだった作品でも「転生が当たり前に実在する世界で、殺人鬼の生まれ変わり同士が殺し合う」(『生まれて、変わって、殺したい!』)という内容だったりしますから、現代日本以外を舞台に設定するのなら、その「世界」自体に何らかの分かりやすい過激な魅力が存在しなければ、最終候補には届きづらくなるでしょう。
それでは、応募作のジャンルについて触れていきます。書籍化されたもののうち主として学校を舞台にした「学園ホラー」は2作(『少女断罪』『散りゆく花の名を呼んで、』)です。学園ホラーはこの賞に応募されてくる数では一・二を争うジャンルといっても過言ではありません。その分、学校を舞台にすると思いつきやすい、似たプロットのものも大量に送られてきています。たとえば私はこの賞の下読みに関わって、「いじめによる自殺で死んだ子の『呪い』によって学園内でいじめっ子が次々変死していく」「転校生や同級生が実は霊能力者で、学校で起きた変死事件を解き、霊やモンスターを退治する」応募作をそれぞれ五〇本は読んでいます。そんな中で、「かつて生徒を死なせたことのある小学校教師の主人公が、自分の過去を知っているらしき転入生の少女に翻弄される」『少女断罪』、「サイコメトリー能力を持つ教育実習生の主人公が、生徒である少女と恋愛的に距離を縮めつつも死の連鎖に巻き込まれていく」『散りゆく花の名を呼んで、』は、視点・シチュエーションの切り口で新しい魅力を得ているからこそ書籍化に至っています。
他社の作品になりますが、学園内に伝わる伝説と演劇を絡めた恩田陸『六番目の小夜子』、学園で起きる連続死を引き留めるための儀式「いないもの」が登場する綾辻行人『Another』などでは、斬新なアイデアやスケール感が、学園ホラーの中でも唯一無二の魅力を与えています。