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第1回 ジャンプ恋愛小説大賞 結果発表

  • 金賞 賞金100万円+書籍化 『消えないあなたに』P.N.分玉あまね あらすじ 交通事故の後遺症から“忘却”することができなくなった少女・由起子。彼女は事故の瞬間を何度も何度も思い出して追体験してしまう。記憶の再生をコントロールする術を覚え、なんとか日常生活を送る彼女だったがレンタルビデオ店でバイトをするうち、同僚の蒼汰から告白され恋に落ちる。しかし、蒼汰はある日突然姿を消してしまった……。 講評 コンセプトが明確な小説。恋をする際の『障害』がハードで、「次に一体どうなるのか」、と読者を煽ることが出来ている。ところどころ粗い文章は目につくが、セリフ、シーンにも印象に残るものが多く、適度に笑いもちりばめられている。読者と向き合った作品と言えるだろう。ある程度先が読めてしまうのは気にはなるが、些細な欠点に過ぎない。
  • 銅賞 賞金30万円 『恋の魔法にかけられて』P.N.椿むぎあらすじ 立花桃子は先輩の愛美に恋をしていた。そんな彼女の元に恋のキューピッドが現れる。キューピッドは、恋する相手の名前を言えば魔法をかけて恋を叶えることができると告げる。桃子は半信半疑で愛美の名を口にするが、翌日桃子に告白してきたのは、愛美と同じ名前を持つ別人・椿愛美だった。ショックを隠せない桃子に椿はとある提案をする……。講評 いわゆる『百合』作品。登場するキャラクターの心情変化を描写の積み重ねで的確にみせている。公表はしないが、著者の若さを考えると今後が非常に楽しみである。構成力は鍛える余地がある。女の子同士だからできる恋、生まれる障害、があるはず。現状描かれている恋はまだ男女でも成立するもの。女の子同士だからできることを見つめてほしい。
  • 銅賞 賞金30万円『バッドトリップ・ハッピーエンド』P.N.りきまるあらすじ 主人公・市ヶ谷ソウの通う高校に、転校生の猫町セリがやってくる。誰に対しても心を開かず感情を表さないセリ。彼女は『自分の感情が周囲に幻となって現れてしまう』病気を持っていた。ひょんな事からセリの歌う姿を見たソウは、自分とバンドを組んで欲しいと頼む。当初は拒否していたセリもやがて少しずつ心を開き、二人はバンドを結成し…。 講評 キャラクターの感情表現が豊かで、全編を通して楽しんで読むことができた。特に、何事にもひたむきで行動力のある主人公に好感がもてる。ヒロインは登場時にはとっつきにくい印象だったが、ヒロインの持つ独特の感情表現で心情の移り変わりがカラフルに伝わってきた。勢いがある文章だが、課題としてはそれに伴う構成力を身に着けたいところ。

最終候補作

  • 『牛肉とご飯と紅生姜』P.N. 奈川哲丸あらすじ 冴えないOL吉乃は、ある日牛丼を食べようとしていたところを雷に打たれた。そのとき、なぜか紅生姜が人間になってしまう。そうして一緒にくらすことになったのが、同居人、紅子。ふと学生時代にアルバイトをしていた牛丼屋の牛丼が食べたくなった吉乃だが、その店は潰れていた。しかしそこで再会したのが初恋の人・米屋。牛丼をめぐる恋の物語がはじまる……。 講評 突拍子も無い設定の嵐だったが、勢いで読んでしまう不思議な愛嬌のある小説。発想はあるのだが、では設定が物語に生かされているかというとそうではなく、設定のままになっている。たとえば紅生姜が擬人化された紅子は、特にその特徴を生かすこと無くただ傍らにいる解説役としての役割しか果たさない。自分の腕を削って紅生姜をかけるくらいしてもいいのではないか。設定がドラマ、キャラクターの感情に活きなかった。
  • 『銀河鉄道のよるよる』P.N.門かえるあらすじ家出した男子高校生の「僕」は、目的地を決めずに電車を乗り継いで旅に出た。途中の駅でピアスを拾ったことをきっかけに年上の女性「彼女」と知り合い、彼女はそのピアスを捨てることを目的に、それを捨てる海まで「僕」と一緒に旅をすることになる。車中で彼女の話を聞いていると「僕」は拾ったピアスが「彼女」のかつての恋人のものだったと分かるのだが…講評会話や風景の描写などにより、温かみがありながらも少し不思議な、作者独特の雰囲気を作り出せている部分が高評価につながった。映像的に文章も書かれており、ストーリーの背景に相まって、いわゆる「エモい」という感情が惹き起こされた。ただ一方で、話の展開自体が平坦で起伏がなく、特定のシーン以外での盛り上がりにかけてしまっていた。これからは、この雰囲気を生かしつつ、しっかりドラマ性のある作品作りに挑戦してもらいたい。
  • 『ブループリント・ジグソー・ライフ』 P.N.二六歩あらすじ 父の蒸発、母と妹と死別した過去に悩み、将来への不安も抱える大学生・永瀬太地。交際相手の陽から突然別れを告げられて絶望する女子大生・南。一年前に転校した永瀬雪のことを忘れられず、次期エースとして期待されるバスケ部の活動にも身が入らない男子中学生・青嶋。ある日永瀬の下に一年前に死んだはずの妹・雪が現れ、止まってしまっていた3人の時間が動き始める。講評 作中で描かれていた若者の悩みに強いリアリティがあり、今このときの作者にしか書けない作品で、背伸びをしておらず好感が持てた。まだ粗い部分はあるものの、テキスト力は高く明瞭な文章が読みやすさを支えている。ただし、群像劇の体を取っているために、序盤に3人の視点がめまぐるしく変わり、その展開の変化が状況の把握を難しくさせていた。今はまだ応用的な技法をとるのではなく、一人の主人公を視点に、じっくり腰を据えて作品を書いてもらいたい。
  • 『魅惑の遺伝子』P.N. 真田五季あらすじ 大富豪の令嬢である金音彩子と宝鉄真宵は、無二の親友でありながら、互いに欲しいものを奪い合うゲームを行っていた。ある日、銀堂家の晩餐に招かれたふたりは、銀堂千尋の召使いである久坂宗平に一目惚れしてしまう。ふたりは宗平を取り合うゲームを始めるが、麻薬カルテルと米国特殊部隊を巻き込む事態に…そこには銀堂家が研究していた「遺伝子」が関わっていて…。講評 設定や物語の組み立ては丁寧で、予想を裏切る展開が次から次に起こり、読者を飽きさせない工夫が見られて面白かった。一方で「恋愛小説」としては物足りず、惜しくも落選となった。ジャンルとは「読者が期待する感情」のこと。恋愛ジャンルなら「どんな恋愛をするんだろう」という読者の期待を、思いも付かない方法で叶えてあげることが重要です。これは、ホラーでもミステリでも同様です。

編集部講評

  • 恋愛小説大好き! 編集部 ろくごう この賞の創設にあたり、Jブックス出身の直木賞作家・村山由佳先生にコメントを頂きました。一部を抜粋します。
    『一つでいい、〈ほんとうのこと〉を書いてほしい。あなたが経験したことをただそのまま書くのではなくて、小さくても、ありふれていてもいいから、経験を通して得た〈これだけはきっと真実なんじゃないかと思える何か〉を核に据えた物語を紡いでほしい。』
    我々はこの言葉をしっかりと受け止め選考を重ねてきました。受賞した3作はいずれも“恋愛”という普遍的なテーマの中で、至る道筋は違えども、それぞれの核となるものと向き合った作品でした。今後の活躍とさらなる成長を期待します。この賞のひとつの命題は、Jブックスの大ヒット作『おいしいコーヒーのいれ方』に続く作品を発見することにあります。そんな作品を受賞者の皆さん、そして次の受賞者である、いま、原稿を書いている皆さんと見つけていくために、この賞を続けていきます。次回もよろしくお願い致します。

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