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ONE PIECE novel A 2 新世界篇

ONE PIECE novel A 2 新世界篇

原作:尾田栄一郎
著者:浜崎達也
エースがスペード海賊団を率いて白ひげ海賊団に挑み、そしてスペード海賊団の解団、白ひげ海賊団に加入を決意したのはなぜか! 新世界突入後のスペード海賊団&白ひげ海賊団でのエースのエピソードを描いたファン待望のノベライズ!4月発売の第一弾とつながる表紙が目印!

プロローグ


 海賊モンキー・D・ルフィの旅立ちに先んじること三年。

 これはルフィの義兄弟、ポートガス・D・エースの物語…………

 史上ただひとり〝偉大なるグランド航路ライン〟をせいし、海賊王となったゴールド・ロジャー。その死から、赤子が大人おとなになるほどの時がすぎた。

 世は大海賊時代。〝ひとつなぎの大秘宝ワンピース〟をめぐる海と冒険の世紀。

 星の数ほどいる海賊のなかで、〝新世界〟にくんりんする海の皇帝たち──彼らを〝よんこう〟と並び称した。

 世界政府は、勢力を拡大する四皇たちをよくするチカラとして、マリンフォードの〝海軍本部〟ならびにしりやく許可を与えた〝おうしちかい〟をもって三大勢力のきんこうした。

 三つの勢力がバランスを失えば、この平和はくずる。

 それぞれが強大となるほど、あいあらそうほど、未来はあやうくなる。チカラと支配、同盟と反逆。あらゆる欲望と不安のうずを巻きながら、時代は未知なる輝きをびていった。

 とどまることのないもの──人の夢だ。

 白いくじらした船首が波を分ける。巨艦は荒ぶる海をゆうぜんと進む。

「グララララ……

 船長室。

 に体を預けて、船のぬしである男は愉快そうに声をらした。

 ──スペード海賊団、ポートガス・D・エース

 ──王下七武海入りを拒否

「〝偉大なるグランド航路ライン〟に威勢のいいガキがいやがる。グララララ……七武海へのかんゆうったって?」

 とあるルーキー海賊が、海軍本部中将をかえちにして、シャボンディ諸島からコーティング船で出航したという。新聞には、そいつの記事が写真入りでっていた。

「〝D〟……」船の主は白いひげをさする。「コイツら何年目だ? わけェのが……そんなに急いでどうする」

「オヤジ、入ります」

 船室のドアがひらいて、トレイを持った男が入ってきた。

 白いちゆうぼうふくひざしたたけのズボン、コックタイ──料理人のようだ。

「おう、サッチ。今日のウミガメのスープはうまかったな」

「ウミガメ……? 今日のスープはウミマムシでしたが」

「おう、それだ。腹がカッカしてやがる」

ようきようそうのスタミナスープですから で、こっちが食後の薬です」

 厨房服の男──サッチは薬と白湯さゆをテーブルに置いた。

「あーん?」

「今日から薬がひとつえました。だめですよ、ちゃんと飲まなきゃ」

「おめェは、おれの船医かよ」

「オヤジが薬を飲んでくれないと、おれが船医にしかられます。オヤジひとりの体じゃないんですからね」

 サッチがいうと、オヤジと呼ばれた男はふしようぶしよう、テーブルに置かれた薬をつかんで口に入れ、白湯で流しこんだ。

にげェ」

「良薬は口になんとやら、です。のどに薬が残らないよう、もっと水を飲んでください」

「おめェは、おれのおふくろかよ……」

「わが四番隊は白ひげ海賊団の台所を預かっていますから あ……そうだ。ジンベエ親分、帰られるそうです」

 サッチが思いだしたように手をたたいた。

「なに? もう出たのか」

「いえ……あ、でも、見送りはいらないと」

「アホぬかせ」

 男は椅子から立ちあがった。

 男は、かつて、あの海賊王ゴールド・ロジャーときそったえいけつだ。よわい七〇になろうかという老境だったが、四皇の一角として新世界に広大な領海シマを有し、勢いなお盛んだ。旗印は〝しろひげのドク〟──この旗をかかげた土地をおかそうとするなら、一六番までの隊長ひきいるじきさんと数十ものさんの海賊団、あわせて数万という戦力を敵とすることを覚悟しなくてはならない。

 エドワード・ニューゲート。

 世に海賊〝白ひげ〟と呼ばれる、世界最強の男だ。

 そのチカラは大地を、海をふるわせ、島ひとつをたちまち崩し去るという。

 船長室を出たニューゲート──白ひげはかんぱんにあがった。

 はだでる。しつこくの海のただなか、船のむかう方角を示すものは星と月、記録指針ログポース。では魚は、なにを頼りにして泳いでいるのだろう。おそらく人間にはない特別な感覚があるのだ。それは、たぶんぎよじんも。

「おう、ジンベエ」

「白ひげのオヤジさん……

 いま、まさに海に飛びこもうとふなべりをのぞきこんでいた男が、声にふりかえる。

 たけは一〇しやくに達する。〝かいきよう〟ジンベエは、ジンベエザメの魚人だ。

 魚人族は、海中で呼吸ができ、一般的に人間をはるかにしのぐ身体能力を誇る。ただ、まったく別の種類の生物というわけではなくて、人間とのあいだに子をなすこともできた。

「水くせェな」

 送らせろや、と。白ひげは小さく笑った。

 ジンベエは恐縮したが、白ひげのもとにあゆみよると、見あげた

「実は、マリンフォードに呼ばれておりまして……」

「センゴクか」

「はい」

 ジンベエは、かつては人間に敵対した魚人海賊団にいた。その懸賞金は二億五〇〇〇万ベリー。しかし、いまでは世界政府側の立場にあった。

「海軍本部げんすい殿どのは、ジンベエ親分をずいぶん買ってらっしゃるようで」

 ランタンげたサッチがやってきた。

「ええ、サッチさん。まったく七武海ゆうても、みな勝手気まま……」

「まともに海軍本部に顔を出すのは、ジンベエ親分くらいでしょう? 〝ジヤの女帝〟ボア・ハンコックはいざしらず、ドフラミンゴしかり、あのワニ野郎しかり……七武海は自分の稼業シノギしか頭にないやつらばかりだ」

「わしゃ、魚人族のおんしやとひきかえにこのお役目にきましたので……まァ、これもおつとめだと」

 だから王下七武海に名をつらねるジンベエが、いかに旧知の仲とはいえ、四皇・白ひげの船におおっぴらにいるのははばかられるのだった。

りちですねェ、ジンベエ親分は」

「いやいや……七武海の欠員が埋まらず、センゴク元帥も手がりんのでしょう」

「おう、その話だがな」

 白ひげは手にした新聞をサッチにわたした。

 角灯の明かりで一面記事に目を通す。

「ルーキーが七武海の勧誘を蹴った……?」

 サッチが小さく声をあげた。

「その若造、知ってるか?」

 白ひげの問いかけに、ジンベエは新聞をのぞいた。

「……耳にしたことは。ずいぶん手配書が出まわって……自然ロギアけい、炎の能力者とか」

「シャボンディ諸島でひと騒動起こしたらしい。てことは来るんですかね、新世界こつちに」

 サッチはジンベエを、それから白ひげをあおいだ。

「おう、ひきとめてすまなかったな。じゃあなジンベエ、道中達者で」

「はい。オヤジさんも」

 白ひげは軽く手をあげてこたえると船室にもどっていった。

 ズンッ……

 海鳴り。彼方かなたの水平線で小さく赤い光の爆発が起きる。

 どこかの火山が噴火したのか……サッチとジンベエは、つか、そちらに気をとられた。

「──サッチさん、白ひげのオヤジさんは……」

「すこぶる元気ですよ。少なくともわるくはなっていない」

「そうですか」

 ジンベエの顔にあんの色が浮かんだ。

「まァ、人間誰でも、としをとれば昔のままってわけにはいきません。舌がにぶるもんだから、濃い味つけになっちまって、塩分とりすぎないようにしないと……」

「サッチさん。差し出がましいですが、白ひげのオヤジさんのこと、くれぐれもよろしく頼みます。あの人は魚人族わしらの恩人だ」

「わかってますよ、ジンベエ親分」サッチはジンベエの手をとった。「オヤジは、みんなわかってますから」

「はい。では、わしゃあ行きます」

「お気をつけて……あと、そうだ。この新聞のルーキーのこと、なにかわかったら教えてください」

「ええ、気にかけておきますよ。七武海を蹴って新世界をめざすような若造は……」

 なにを考えているか、やらかすか、わかったものではないのだ。

 ポートガス・D・エース。

 その名をはんすうすると、ジンベエは船縁から海に飛びこんだ。巨体が、たちまち海のやみの底に沈んで見えなくなった。

 

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