――受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちを教えてください。
ちょうど別の新人賞用の執筆が佳境で、運悪く仮眠を取っていたときでした。知らない番号から着信があり、僕の作品が受賞したことを担当編集から聞きました。 僕は授賞式の日程や、駅から編集部までの道のりなどをメモに取り、もう一度布団に潜り込みました。
次に目を覚ますときっかり二時間経っていたので、執筆を再開しました。ふと手元のメモが目に入り、寝ぼけていたのだなと確信しました。いい夢を見たと思い、ちょっと得した気分で執筆したのを覚えています。
あとで携帯を見返したら見慣れない番号が残っていたので、もしやと思いそれにかけ直すと集英社に繋がりました。それでもまだ信じられず、自分の名前が載ったジャンプを見るまでは詐欺にあったのかもしれないという思いがあり、怖くてずっと震えていました。
――初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか? ご自身の想像とは違ったりした部分などがあればお聞かせください。
想像というよりも『バクマン。』の描写そのまま過ぎて興奮しました。
その後、編集部を軽く見学させてもらったりしたときに、まだお店に並ぶ前のジャンプが本棚に並んでいるのを見つけました。
編集部の方から「あー、ごめん、これは君には見せられないんだ」と謝られたのですが、僕のほうこそとんでもない秘密を盗み見てしまったような気分になり、恐ろしくなりました。
きっとこのあと僕は口封じのためにとても酷いことをされてしまうんだと確信しました。「本当に表紙しか見ていませんから受賞を取り消さないでください!」と泣いて許しを乞おうか真剣に迷っていると、編集部の方が「君、どんな本が好き? 刊行前のものじゃなければ持っていっていいよ」と言ってくださったので、怖い気持ちがすっかりなくなり、うきうきしながら本を選びました。「SHUEISHA」と書かれた紙袋に選んだ本を入れてもらったのがさらに嬉しかったです。
――初めて担当編集者と話をしたときどんな印象を持ちましたか? 編集者から受賞作にどういった評価をもらったのかも聞かせてください。
最初の授賞式の日、僕を出迎えてくれたのはスーツにスニーカーを履いた人で、見るからにただものじゃないオーラがありました。
二回目の授賞式の日、同じ人が信じられないほどしわくちゃのスーツを着て現れました。そのスーツがあまりにもくしゃくしゃなので、彼は他の編集者からもからかわれていました。
でもその人と実際に話をすると、とんでもなく創作に造詣が深い人だということがすぐにわかりました。僕の受賞作のよかった点や改善すべき点を、既存の作品と比較したりしながらとてもわかりやすく伝えてくださいました。僕の作品のコメディーパートが特におもしろいと言ってもらえたのがすごく嬉しかったです。 それから今日まで、彼のアドバイスは常に的確で、僕はその人のことをとても信頼しています。
ちなみにその人は『ミニキャッパー周平』と名乗っているのですが、帽子を被っているところを僕は見たことがありません。だから『スーツにスニーカー周平』とか『くしゃくしゃスーツ周平』に改名したほうがいいんじゃないでしょうか?
――ジャンプ小説新人賞のテーマ部門で銅賞受賞後、フリー部門でも銀賞受賞となりました。テーマ部門とフリー部門での執筆の違いはどのようなところにありましたか?
テーマ部門に投稿する際は『異世界転生』という縛りがありました。 人間の想像力は不思議なもので、ある程度の縛りというか制約があったほうが、かえって力を発揮するらしいです。僕が小説を書くときはいつもなにかアイデアのとっかかりを決めてから、想像を膨らませるようにしています。だから僕にとってテーマ部門は、非常にやりやすかったです。
次にフリー部門での受賞を目指そうと思ったのですが、なにもとっかかりがありません。困りました。
ふと、『くしゃくしゃスーツ周平』が授賞式の後、「俺、SF好きなんだよねー」と言っていたことを思いだし、それでロボットの話を書こうと決めました。
それで『breakroid!』という人間そっくりのロボットをアイドルとしてプロデュースするお話でフリー部門銀賞をいただくことになりました。 とても光栄でしたが、よりよい作品を目指すために、どうして金賞を取れなかったのか授賞式の時に質問しました。
「うーん、なんだっけ? なんでだろうね。......あ、SF的な部分が思ったよりよくてびっくりした。あんなにしっかりしたSF書けるなんて思わなかったよ。ただ内容がSFに寄りすぎてライトノベルの読者に受け入れられるか心配になっちゃったんだよね」 と『寝ぼけまなこ周平』が目をこすりながら言いました。
僕はなるほどなと思いました。
僕は『おまえが「俺、SF好きなんだよね」って言ったから頑張ってSF書いたんじゃねえか周平』のことをとても信用しているので、彼の指示をしっかりと守ってこれからも頑張っていこうと思います。
――星海社FICTIONS新人賞を受賞され、10月には星海社からも新刊が刊行されます。応募作や新刊はレーベル毎での書き分けなどを意識されたりしていたのでしょうか?
新人賞投稿時代からレーベル毎の書き分けについては僕なりに色々と考えていたのですが、最初に会ったときに『ミニキャッパー周平』から「ジャンプを意識しないでいいです。とにかくあなたがおもしろいと思うものを書いてください」と言われました。
前の質問でミニキャッパー周平について色々と言ってしまったのは冗談で、僕は本当に彼のことを信頼しています。信頼の根拠のひとつが、先の言葉です。
真剣におもしろいものを作ろうと考えてくれる編集部の存在は、僕にとって本当に励みになります。集英社も星海社も、編集部にお邪魔させていただくといつもそこにある熱気に驚かされます。
編集者とお話すると、とにかくおもしろいものを書こうという気になるので、最近はあまりレーベルカラーなどは意識しないようになりました。
次回更新は9月19日予定!!
新作『かぐや様は告られたい』小説版について語っていただきました!
お楽しみに!!
『かぐや様は告らせたい 小説版 〜秀知院学園七不思議〜』の詳細はこちら!!