――小説を初めて書いたのはいつごろですか? きっかけと内容を合わせてお聞かせください
十歳くらいの時に、友人とリレー小説のように一冊のノートを使って交互に物語を書いたのが最初でした。内容はさっぱり覚えていないのですが、王道ファンタジーだったことだけは覚えています。
主人公の名前も、どんなキャラクターが登場したのかもまったく覚えていないのですが、漢字辞典とにらめっこしながら登場人物の必殺技を考えたことが深く印象に残っています。
今でもそうなのですが、僕はキャラクターや物語を考えるよりも、必殺技を考えている時が一番幸せです。
好きなハリウッド俳優の必殺技とかを考えていると、いつの間にか一日が終わっています。
――自身に影響を与えた作品のタイトルと、好きだった点をあわせてお聞かせください
『ドラゴンボール』と『ドラえもん』が好きで、子供の頃から現在まで、自分でも驚くくらい大好きなんです。どうしてこんなに好きなのか自分でもわからなかったのですが、あるとき『ドラゴンボール』を読み返してその答えを見つけました。
人造人間に苦しめられる未来のブルマが、タイムマシンで悟空に会いに行けとトランクスを送り出すシーンです。悟空に会ったことがないトランクスはブルマに「それほどまでに強い人だったのですか?」と尋ねるのですが、それに対するブルマの返答が次のとおりです。
「たしかに強いこともあるんだけど......どんなにとんでもないことが起きてもかならずなんとかしてくれそうな......そんなふしぎな気持ちにさせてくれる人なの......」
ブルマは悟空の戦闘能力をあてにしていたのではなく、精神的な支えとして彼の生存を望んだのでした。過去を改変しても未来のブルマの現状は変化しませんが、「どこか別の世界では悟空が生きている」という事実こそがブルマには必要だったのでしょう。
これはまさに僕が悟空やドラえもんに抱いている気持ちに他なりませんでした。 彼らが強大な力を持っているから、あるいは便利な道具を貸してくれるから僕は憧れているのではありません。困った時や辛い時、彼らの物語を読めば元気が出るのです。
悟空に誰かを倒して欲しいとか、ドラえもんに道具を貸して欲しいなんて望みません。
ただ彼らが僕の隣にいてくれたら、どんなに素晴らしいことでしょうか。そしてその望みは、ページを開いた瞬間に、いつでも叶えられるのです。
人間が創作物を必要とする理由は、まさにこのブルマの台詞の中にあるのだと思います。
――プロデビューを志したのはいつ頃からですか? 最初からプロ志向だったのか、何かのきっかけがあったのか教えてください
大学の『文章論』の授業で、「私の好きなこと」「子供の頃の思いで」などと言ったテーマごとにエッセイを執筆し、教授に添削してもらうものがありました。
そこでなんと、ほぼ毎回、僕の書いたものが模範作品として教授に選んでもらえたのです。
僕は読書感想文などで賞をもらったこともなかったので、その教授にべた褒めされたのが嬉しくてなりませんでした。
それでプロになりたいな、とはじめて強く意識しました。教授からは「君は書けば書くほど上達するね」と言われたので、とにかく量を書こうと思いました。
それから手当たり次第、ライトノベルの新人賞に応募し続けました。
――小説賞に応募する以前、周囲の方に小説を読んでもらうことなどはありましたか? あった場合は他人に読んでもらうことの影響を教えてください
授業で教授に読んでもらうのは例外で、友人などには絶対に読ませたくはありませんでした。彼らが普段どれだけ小説を読んでいたとしてもそれは読者としてであり、評価者としての能力に期待してはいけないと思っていました。
評価者として期待できるのは編集者だけであり、新人賞に応募してもらえる評価シートや編集コメントさえあればいいという持論があったのです。
ただ、ふとしたきっかけで『レイヤード・ワールド』を大学時代の先輩に読んでもらうことになりました。僕はそれと同時に、『転生レアモンスター』という話も書いていました。倒されるとレアアイテムをドロップするレアモンスターに転生してしまったばっかりに人間に追い回されてしまう主人公が、それでも可愛い幼なじみモンスターと一緒に毎日を楽しく過ごすコメディーです。
僕は受賞した『レイヤード・ワールド』よりもこの『転生レアモンスター』のほうが好きだったのですが、この二作を先輩に読ませると前者のほうがおもしろいという評価でした。
僕は「ほら、やっぱり評価者として彼らは信用できないぞ」と思いつつこの二作を応募しました。
結果は先輩の言うとおり、『レイヤード・ワールド』のほうが受賞し、僕の渾身の力作『転生レアモンスター』は一次選考さえ通過できませんでした......。僕のほうが間違っていたのです。
これから小説を投稿しようとしている人は、変な持論を持たず、多くの人に自作を読んでもらうことを強くおすすめします......。
――デビューするまでJUMP j BOOKS以外の新人賞には投稿されていましたか? 投稿されていた場合はその経験から得られたことを教えてください
様々なペンネームで手当たり次第の新人賞に応募していた時期が十年近くあります。
ライトノベルの新人賞は一次選考、二次選考とその過程をwebで発表しているものが多く、今回は一次で落ちたとか最終まで残れたとか、その結果に一喜一憂していました。
そういったことを何年も続けていると見覚えのある名前が選考結果に出てきます。僕と同じように、様々な新人賞で何度も一次選考を通過してwebに名前が載るけれど、受賞やデビューには至らない人々です。
僕はそういう人々と話をしたことも、彼らの作品を読んだこともありませんが、なぜか不思議な連帯感を覚えていました。
いつも最終選考付近で名前を見かけていた人がデビューしたりすると、心の中で祝福してその本を買いに行きました。
どんなに自分が興味ないジャンルだったとしても、僕にとっては名前しか知らない○○さんがどんな作品を書いているのか、ようやく知る機会に恵まれたわけです。だから絶対に名前を覚えている人のデビュー作は買っていました。
今思えばそれが結果的に、普通ならば読まない多くの作品に触れる機会となって、デビューに繋がったのかもしれません。ありがとう、既にデビューしている○○さん。
そして、まだweb上のあの無機質な『一次選考通過作品』とだけ書かれた戦場で戦い続けている○○さんたち。あなたたちの戦いがいつか報われることを、心から願っています。
――なぜジャンプ小説新人賞に応募しようと思ったのかを教えてください
なんと言っても尊敬する乙一先生が受賞されたジャンプ小説大賞の流れを汲んでいるので、ここは外せません。
さらにジャンプ小説新人賞は受賞すると週刊少年ジャンプにその結果が掲載されるのです。誰が見ているかもわからないwebの片隅に自分のペンネームが載るだけでさえ嬉しいのですから、子供の頃から読み続けているジャンプに名前が載った日にはそれはもう......。
また掲載時にイラストを描いてくださった裏方先生の絵が本当に素晴らしくって、何度も見返して勇気をもらっています。
そのジャンプは当然本棚に残っているですが、あまりに何度も結果発表のページを見返しすぎて開き癖がついてしまいました。保存用にもう一冊買っておけばよかったと後悔しています。
――応募作はどれぐらいの期間をかけて書かれたのでしょうか? また、応募するとき自信や手ごたえはあったのでしょうか?
『レイヤード・ワールド』は二週間、『breakroid!』はちょうど一ヶ月ほどで書き上がったと思います。それから何週間かかけて推敲し、応募しました。
これらの作品に限らず、自信は常にありました。いつだって手ごたえばっちりです。「あーあ、今回こそ受賞しちゃうな。本が刊行されたらあとがきにはこう書こう」という予定も色々と立てていたのですが、いざ受賞の電話を受けるとそれらがすべて抜け落ちてしまいました。
ちなみに僕の魂の力作『転生レアモンスター』は三日で書き上げました......。 これを読んでいる編集部の皆様、いつか異世界転生をテーマにした短編集を刊行するようなことがありましたら、ぜひ『レイヤード・ワールド』と、それからついでに『転生レアモンスター』をお願いします......。
次回更新は9月12日予定!!
編集者と作品を創っていくなかで気づいたこととは?
お楽しみに!!
『かぐや様は告らせたい 小説版 〜秀知院学園七不思議〜』の詳細はこちら!!