――作品を書く上でどういったことに気を付けていますか? 自分のなかで大切にしていること、読者にどのような気持ちになってもらいたいと考えていますか?
小説に限らず、すべての創作物は満たされない誰かを慰撫するためのものであると思っています。僕は小学生の頃、いやなことがあるといつも図書室に逃げ込んでいました。今でも、心のどこかにその時の自分がいるような気がします。
心の中にいる子供時代の僕を笑わせようと、いつも必死になって物語を考えています。笑わせるといっても、ハッピーエンドの物語だとか、コメディーばかりを書こうということではありません。
いやなことやつらいことがあった時、それがどんな内容であれ、面白い物語は僕の心を癒やしてくれました。どのような物語を書くかが重要ではなく、それがきちんと誰かを楽しませているかだけが大事なことだと思います。 だから読者にはとにかく楽しんで欲しいです。
――作品を書く上で、資料はどのようにして集めていますか? また、集めた資料はどの程度作品に反映されるのでしょうか?
最近、電子書籍を導入して世界が変わりました。ボタンを押した瞬間に欲しい本が手に入るのが素晴らしいです。
集めた資料で得た情報が小説本文に一行も反映されないことは珍しくありません。ですが、その作品の根底にあるルールを形作るためには、どうしてもリアルの情報が必要になってきます。そのリアルの情報を絶対に守らなければならないということではなく、むしろそれを参考にして自分のオリジナル設定を作ることのほうが多いです。
ロボットの動力や素材の問題についてや、ある時代にどのように奴隷が生活していたかなどは、僕の作品の深い部分に根付いてキャラクターたちの言動に影響しています。
――創作をしているなかで原稿に行き詰まることもあるかと思います。そんなときはどのように気分転換をしていますか?
ひたすら部屋の中を歩きます。
レールを走る鉄道玩具のように同じ場所をぐるぐると回り続ける僕の姿は、家族からしてみれば奇妙そのものでしょう。本当は外の空気を吸いながらぐるぐるしたいのですが、「頼むから絶対に庭や公道ではしないでくれ」と家族から頼まれているので室内で我慢しています。
僕がどれだけ散歩が脳科学的に優れているかを説明しても受け入れられません。
僕は基本的に休日は家から一歩も外に出ません。執筆に専念するためです。けれどアイデアが出ないときは何時間も歩き続け、自宅から一歩も出ていないのに翌日筋肉痛になったこともありました。
――これがなくては仕事にならない! というものはありますか? 普段の執筆環境について教えてください
音楽やテレビがあっても、執筆に集中すると他のすべてがシャットアウトされてしまうタイプなので、なにがあってもなくても影響はありません。僕はキーボードさえあれば執筆できるので、この質問にはどう答えたらいいのでしょうか。
仕方がないので、僕がぐるぐると回り続けていても非難しない唯一の家族を紹介します。 彼は、僕がぐるぐる回っていると最初は散歩に連れて行ってもらえるのかと後をついてきたりするのですが、数分で諦めます。たまに僕の進路と彼が昼寝している場所がバッティングしてしまいますが、そんなときは遠慮なく吠え立ててきます。
ああ、僕の唯一の味方なのに......。
――小説を書く際に、小説を読むこと以外で役にたったことがあれば教えてください。
ハリウッド映画を観ることです。
尊敬する乙一先生がハリウッド脚本術を推奨されていたので、その影響で僕も勉強しています。
特にリメイク作品や、有名な文学作品が何度も映画化されているようなものは、それらの新旧作品を見比べることで学習効果が高まります。
また冨樫義博先生が以前なにかのインタビューで、「字幕翻訳は限られた字数でいかに効果的に、その状況にあった言葉を紡ぐかの参考になる」とおっしゃっていたので、意識するようにしています。
ハリウッド映画はとにかく多額の金銭が動くプロジェクトなので、失敗が許されません。そのため細部に至るまで緻密な計算に基づいて制作されています。その計算方式を解析し自分のものとすることで、少しでも自分の作品が強固なものになればと願っています。
――今後どのような作品に挑戦したいか、また構想中の作品などあれば教えてください。
新人賞に応募している頃、編集部から送られてくる評価シートに『童話のような世界観だ』とよく書かれていました。
それが低評価の原因だったり、逆に僕の強みだと評価されたりしたこともあります。 意識して童話的な世界を作っていたわけではないので、昔はずいぶんとそれで悩みました。ですが、童話のようだろうとなんだろうとおもしろい作品さえ書けば評価されるはずだと思い直し、最近では意識して童話的な世界を作ろうとさえ思っています。
もちろん、本当に童話を作ってしまっては企画が通らないので、大人から子供まで楽しめる普遍的な作品を目指しています。
ただ、誰にでも好かれる作品を目指すと、結局は誰にも見向きもされないものになってしまうことが多いので、百人のうち九十九人に嫌われ、一人に刺さる物語に挑戦したいです。
矛盾しているように思えるかもしれませんが、僕の中ではこれらは両立しているのです。
――これからJUMPjBOOKSの小説賞に応募される方に応援メッセージをお願いします!
第1回のインタビューでもお答えしましたが、投稿歴が長かった僕はすべての新人賞投稿者に同族意識というか、兄弟愛に近い感情を抱いています。
あなたの作品は編集部以外の誰にも読まれていないかもしれませんが、あなたのペンネームを見るだけで勇気づけられる人がこの世のどこかにいるかもしれません。
僕が唯一、人に誇れると思っていることは、小説を書き続けていることです。
僕は受賞するまで、誰からも、それこそ人生で一度も、小説を書けと言われたことはありませんでした。それでも必死に書き続け、その結果として僕はここにいます。
だからあなたも書き続けてください。そして、いつかあなたの小説を僕に読ませてください。
僕は心からそれを望んでいます。
羊山先生ありがとうございました!!
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