受賞時の思いは? 新人作家として目撃した編集部や編集者の姿とは?
――「リトルスター」佳作受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちを教えてください。
発表時に私が書いたコメントを送っていただきましたが、読みませんw 高校時代の自分の顔写真をパッと見て一瞬で閉じました。さすがに気恥ずかしくて直視できません。
しかし、編集部から電話があった後で二階の自室から出て階段の壁を蹴って、「受賞したー!」と階下の親に叫んだことは覚えています。このときの三十万円の賞金を何に使ったのか、覚えていませんね......多分、ラノベと漫画を買いまくったんでしょう。
友人たちに知らせて、何やら驚かれたような気もしますが、これもはっきり覚えてはいません。
――「リトルスター」は佳作受賞後、雑誌『ジャンプノベル』6号(1994年4月)に掲載されています。ご自身の作品が活字になることについてどういったお気持ちでしたか? 改稿の有無などについても含めて教えてください。
天下を取ったような気持ちでいました。ひとつ恥ずかしい話をしましょう。近所の書店兼ビデオレンタルショップに掲載号が並んでいるのを見たときに、当時そこの会員証を持っていなかったものですから、この号を店員に見せたら、顔写真も載ってることだし、身分証明代わりになって会員証作れるんじゃないかな? とアホなことを考えました。やりませんでしたが。
改稿はほとんどしなかったと思います。それができるほど、自分の原稿に対してまだ距離を取れませんでした。
――大賞を受賞した『まずは一報ポプラパレスより』は、編集者のアドバイスなどを受けて書いたものですか? それとも、ご自身でゼロから構想し書かれたものですか? また、「リトルスター」から『まずは一報ポプラパレスより』で意識的に変えた部分があれば教えてください。
これについてはあとがきにも書きましたが、エヴァンジェリン姫シリーズ、そしてアルスラーン戦記の影響が大きかったような気がします。小さい国が大きな国に侵略されて、元気で健気な君主が立ち向かう、というモチーフをもらったんですね。そのように作風を変えた理由は......なんだったかな、忘れましたが、当時のJブックス編集長さんに、「あなたの作品の特徴は優しさにあるから、そこを生かしたらどうか」と言われたことを覚えています。いや、これは受賞後だったかな? 当時はそれを聞いて、優しさ? そんなんあるか? と疑問に感じましたが、今振り返ると当を得たご指摘でした。私は邪悪を探求して我とわが身を重ねていくことを、今でも難しく感じます。人は善くあらねばならないという強い召命を受けており、反発はあれど、首肯しています。当時、それがうまく出たのが、「ポプラパレス」だったんでしょう。
――初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか? ご自身の想像とは違ったりした部分などがあればお聞かせください。
にぎやかでごちゃついていて圧倒された、と思います。よく覚えていません。強烈過ぎて消化しきれなかったんでしょう。日本の出版業界の中枢たる東京の出版社の心臓部に足を踏み入れたんですから、「おのぼりさん」という言葉の見本だったと思います。
これは二度のうちどちらの受賞パーティだったか忘れましたが、山の上ホテル(という有名な高級ホテルが首都東京にはあるんですよ)で食事会を開いていただいて、初めてフルコースというものを食べました。そのときスープに透明なゼリー状の球体がぷつぷつと浮いており、「これはなんですか?」「タピオカです」と給仕さんに教えてもらったことを覚えています。タピオカを知らない若者でした。
――『まずは一報ポプラパレスより』大賞受賞から実際の出版まではどのぐらい時間がかかったのでしょうか?また、改稿はどの程度行ったのでしょうか?
やー、それはちょっと覚えていません。
――初めて担当編集者と話をしたときどんな印象を持ちましたか? 編集者から『リトルスター』『まずは一報ポプラパレスより』にどういった評価をもらったのかも聞かせてください。
剛腕でやり手のおじさんだ、と思いました。当時の編集長はオメガの時計をはめてパイプ煙草を吸う方で、うわーすげー都会の大人だーという感じでしたね。作品については、どう評価をしてもらったんでしたか......私、そういうのほとんど覚えてないんですよ。
初期の作品を並べてみると、「リトルスター」が宇宙船もの、「ポプラパレス」が異世界スチームパンク風スパイもの、ソノラマ「アース・ガード」が名古屋宇宙人戦争もの、「グレイ・チェンバー」が学園クラスメイトバトルもの、「アマリアロードストーリー」が異世界放浪ライフルもので、ぶっちゃけバラバラの無秩序です。こいつに何を書かせたらいいんだ? と編集者も困ったことだろうと思います。
次回更新は8月21日予定!!
どのようにして活躍の場を広げていったのか?
お楽しみに!!