小川先生が明かす「創作の秘訣」と、「今後の作品構想」とは!?
――作品を書く上でどういったことに気を付けていますか? 自分のなかで大切にしていること、読者にどのような気持ちになってもらいたいと考えていますか?
気を付けるというよりは、そうでなければものが書けないという前提として、面白い文章を掘り出せているかということが大事になっています。面白い文章とは、書いて楽しい文章ではなく、読んで楽しい文章です。この二つは似ているようで違います。後から読み直して、誰が書いたか知らんがなかなか読ませるじゃないかと、するする目に入ってくるのがそれです。文章が楽しければ――素直さと意外性をあわせ持ち、漢字とひらがなと専門用語とギャグの配分が適切で、リズムが良くて頭の中で流れが再生できる文章が見つかっていれば――その話が無茶苦茶で無理やりでストーリーが意味不明で、悲劇なのか喜劇なのかわからなくても、読んだ人に、なんだこれはすげえな、と思わせることができます。これは小説の基本であり究極です。何よりも、今書いている/読ませているこの一文が、人の目から入って心をもぎ取っていくか? それを感じ取れなければなりません。
――作品を書く上で、資料はどのようにして集めていますか? また、集めた資料はどの程度作品に反映されるのでしょうか?
これについては前回もお話ししましたが、現代では資料は勝手に我々の周りを流星群みたいにブンブン流れていくので、どれを選び取って詳しいところを引きずり出していくかが難しいです。基本的には小説の核・骨格となる知識や認識は、書く前に出来上がっていなければならない――というよりもそれがなければ立ち上がらない――ので、事前に読み散らかしていくことが大事です。科学雑誌や通俗解説書をヒマなときにちょこちょこ読んでいると、しばらくたって自分の中の新しい骨になってくれます。この際、紙の本であることが大事です。知識は「その本が今ある場所」と強く結びついた形で記憶されますから。実際、本と本が並んでいたせいで出来た話もあります。
このネタからお話書いたろ、と骨ができてからは、どこからでも知識を持ってきて補強に使うわけですが、うわあこの米軍艦艇図全部ぶっこんだら迫力出るな! となどという誘惑はよく検討してみないといけません。誰もそんなもの全部読みゃしません。少しずつ飾りつけに使ったり、脇役の台詞にちょこっと混ぜたりすると話に立体感が出ます。
メモは大事です。思いついたことは食事中だろうが運転中だろうが、その場に立ち止まってメモします。メモの大きな問題として、書いたのに読み返さない、ということがあるので、全部まとめて一つのテキストファイルにでも入れといて、たまに通して読み返すといいです。十年前の思い付きが今の知識と結びついて、なんか新しい話ができるかもしれません。ほとんどは子供のころのおもちゃみたいなただの堆積になりますが、百のガラクタから三つか四つ動くものが見つかれば、元が取れてお釣りがくるというものです。
重要なこととして、自分なりのファイル管理を確立するといいです。小説のネタ帳、ただの雑学、うまい酒と料理のリスト、軍事と科学のフォルダなどをしっかり作り、どこに何があるかか把握し続けるのが大事です。私はすべてのファイルに六桁の年月日を割り振ってひたすら年代順に並べるのがいいことを発見しました。
――創作をしているなかで原稿に行き詰まることもあるかと思います。そんなときはどのように気分転換をしていますか?
これはまず、執筆モードをどう確立するかという話になります。人によってやり方は違うと思いますが、私はノートPCをもってファミレスに行くことが明確なモード切替スイッチになるような習慣を作ってしまいました。寝不足で気乗りがしなくても、レストランにつくと書けたりします。代わりに自宅では全然書けなくなってしまいましたが。
ネットは遮断します。スマホは自宅に置いていきます。小説を書くのは、「この地球」ではない新しい世界を一個作ることです。そんなときにツイッターにギャイギャイ言われたら何もできません。離れましょう。
絶対書かなければならないのにどうしても文が出てこないときはあります。よく食べてしっかり寝なければ書けないのに、今日書けなかった焦りで眠れない、というときです。あきらめましょう。小説、特にしっかりしたフィクションは、脳が遊んでないと湧いてきません。バイクでロングツーリングして疲れ果てるという手はあります。全然関係ない運動をするのはよく効くようです。
――これがなくては仕事にならない! というものはありますか? 普段の執筆環境について教えてください。
煙草、再開しちゃったんですよね、私。やめてたんだけど。なくても書ける期間はあったので、必須ではないと思います。そのほかでは、もっとも重要な仕事以外のものを先に片づけるか、それが無理なら忘れ去ることです。私は今、忘れ去るわけにもいかないのでこのインタビューに答えていますが、これはそうしないと原稿が書けないからです。
適当なノートPC――今はVAIO Pro11を使ってます――と、電子辞書があるといいですね。ネットのないところで最低限の知識と日本語の書き方を調べられるので、電子辞書はいいです。
――小説を書く際に、小説を読むこと以外で役にたったことがあれば教えてください。
二つあります。ひとつは取材。私は宇宙作家クラブという団体に入ってロケットや加速器や船舶を見て回りました。そういう機会を探すといいです。団体の名があると公的機関に取材しやすいです。宇宙関係の著書を出せばうちのクラブ入れるので、希望する人は連絡してください。著書がなければまず一冊宇宙ものを書いてください。がんばれ。
もうひとつは友達です。口を動かしてしゃべると、ネットで議論するのとは違う脳の部分が動いて、話が転がります。小説関係のオフ会出ましょう。恋人を作るよりは簡単なはずです。がんばれ。
――今後どのような作品に挑戦したいか、また構想中の作品などあれば教えてください。
南極ものをずーっと書きたかったんですが、まだものになってませんね。笹本稜平さんの極点飛行だとか、池澤夏樹さんの氷山の南だとか、物体Xだとかラヴクラフトのアレとかいろいろありますし、また南極越冬記や南極料理人や、シャクルトンのエンデュアランス号漂流記などいろんなルポがあり、私もやりたいです。もたもたしているうちに、宇宙よりも遠い場所といういいアニメが出てしまいました。
いま、VRとAIがホットですね。これらは書きたいし、書きます。しかし基礎科学のからむSFや、遠い過去の影響が現代に現れる歴史ものも書きたいし、朝日新聞出版社の帆船ものの続きや宇宙探検ものも書きたいですね。平均寿命と不摂生から考えて、あと二十年ほど書けたらまあいいほうだと思うので、その間にやりたいことが多くて困ります。
――これからJUMPjBOOKSの小説賞に応募される方に応援メッセージをお願いします!
繰り返しますが、読んで面白い文章を書いてください。極めて難しい要求なのはわかってます。自分の体臭を自分でどう思うかというような問題です。骨身から出た文章であるほど、自分の一部なのであり、自分では鑑定しがたいということになるでしょう。それでもです。時間をおいて読み返すのはその一法です。他人に見てもらうのも方法ですが、これはこれで、心を強く持ちつつ謙虚に忠告を受け止めねばならず、バランスが至難です。
あえて言いますが、「なろう」に囚われないでください。投稿評価型の小説サイトは、一度面白いジャンルができると、同じジャンルに投稿することで注目されやすいというインセンティヴが強く働くため、得てして自分の書きたいものを忘れてそちらを書いてしまいがちです。あなたのパソコンに入っている、第二章で止まっているその書きかけの話は、本当にあなたが読みたい話ですか?
自分の書きたいもの、いえ、「自分の読みたいもの」を強く意識してください。それがないから、書くんです。そのほかどんな理由も二の次です。読みたい話がない人に面白い話は書けません。「この勇者がドブに飛びこんで助ければいいのに」「この少女はもう毎回キスすればいいだろ、あと舌入れろ」、書いてください。「触っただけで死人をよみがえらせる能力があったら面白いんじゃね?」、書いてください、地球の千億の死者がすべて蘇るまで、あるいはそれでも蘇らない死者が現れるまで。
面白い文章は、小説を書く人間を強く助けてくれます。目をちょっと上げて前の行を読めば、もう楽しめるんですから。一行一行が報酬です。まだ宇宙のどこかを漂っている未発見の素敵な文章を、グッと捕まえて私たちの前に連れてきてください。
小川先生ありがとうございました!!