――作家になってよかったことや作家を続けることで得たもの、印象に残っている読者からの感想などのエピソードを聞かせてください。
作家生活で良かったことを挙げるのは、なかなか難しいですね。いまでは作家も編集者も皆、「新人賞をとっても仕事は辞めない方がいい」と口を揃えて言います。確かにその通りだと思います。会社に行きながらの方が、「小説を書くことが趣味で楽しみ」で居続けられますし。「小説を書くことが仕事」になると、つらい一面も出てくるかもしれません。
作家を続ける上で得たものは、空想する能力は奪われない、という強い気持ちだと思います。どれだけ活躍しようと、得たものを理不尽に奪われてしまうみたいなことは、必ずあるわけです。どんな人生であれ、あれこれ奪われてしまうのは日常茶飯事なわけですけど、ぼくの場合、空想する能力だけがいつも必ず手もとに残っていました。逆に、これだけを大事にしていれば、ほかはどうなろうとなんとかなる、という楽観も持てるようになりました。そうした変な楽観が、ひとつのことを長く続ける秘訣になっているのかもしれません。
読者からの感想はいつもとても嬉しいものです。一度、単行本の全ページにキスマークがつけられている、という、ちょっと怖い謎のファンレターが届いたことがあったのですが、それでも嬉しいほどです。
キスマークをパラパラ漫画でめくると唇の動きが、「助けて」とかになってるんじゃないか、とびびったりもしましたが(笑)。
――作品を書く上でどういったことに気を付けていますか? スケジュール管理のコツや質の高い作品を書き続ける秘訣、執筆を続ける上でご自身の支えとしていること、原稿に行き詰ったときの気分転換の方法を教えてください。
書く上で大事なことは、ただただ書きあげることだけだと思います。コツとか秘訣のような『近道』は、かえってマイナスになるかもしれません。ドラクエで、いきなりレベル99スタートで楽しめるだろうか、という感じかも。何時間もかけてちょっとずつレベル上げしてたからこその楽しみがあるかと思います。スライムを倒し続けてレベル上げしているような感覚で、毎日ちょっとずつでも書き続けるのが良いのではないかと。原稿に行き詰まることは、あまりないです。散歩や寝転び湯をしてぼんやりずっと考えていれば、何かしら出てくるものです。そのうち出てくるだろう、ぐらいの楽観は、大事なんじゃないかとも思います。
――作品を書く上で、資料はどのようにして集めていますか? また、集めた資料はどの程度作品に反映されるのでしょうか?
学生の頃は、大学の図書館を利用していました。いまは購入することが多いですね。府立図書館などだと通うのにも時間がかかりますし、必要な資料はなるべく手もとにあってほしいですし。
物語を考える時には、集めた資料に関する知識はいったん脳から出してしまうようにしています。キャラクターの動きの幅が狭くなりがちなので。もちろん、史実から空想が広がることも多いのですけど、時と場合による感じでしょうか。
――普段の執筆環境について教えてください。これがなくては仕事にならない!というものはありますか?
以前は、親指シフトのキーボードでなければ、というこだわりがありました。指がしゃべる感覚で、書いていてとても心地よかったんです。が、近年は、ポメラやAndroidタブレットにキーボードを繋げて執筆することが多いので、入力環境にこだわりを持たなくなりました。長いことこの仕事をやってきて、今では縦書きでも横書きでも、ほぼ同じ感覚で文章を書けるようになってきた気がします。ただ、推敲の時だけは、なるべく出版時に近いフォントや組版を使うようにしています。見た目で、かなり印象が違ってきますので。
――作品を書く上で部分的に手書きを導入しているとお聞きしているのですが、執筆のどの工程でそれを行っているのか、またその効果を教えてください。
プロットのちょっと先、ぐらいのあたりまで手書きにしています。ただ、世間一般でプロットと呼ばれているものとは、かなり違っていると思います。ちょっと表現が難しいのですけど、マインドマップみたいな感じで、思いついた要素や構造や文章の断片を、とにかく思いついたままどんどん書き込んでいくやり方をしています。良い効果があるのかどうかは、わかりません。ただ、思いついたものを次々そのまま手を動かして書き込んでいく、というのは、スマホでメモをするよりも脳が働く感覚がします。
――乙一先生、松原真琴先生らJUMP j BOOKSの作家陣との交流で知られている定金先生ですが、こうした横のつながりから刺激をうけたことなどを教えてください。
やはり同業者の知り合いがいると、どこか安心を得られるという部分はあると思います。ただ、知り合いになってしまうと、その人の作品を純粋に読者として楽しみづらくなる、という欠点もあります。ぼくの場合、特にその傾向が強いです。テキストから、その作者さんの顔を連想してしまうんですね。無意識に分析してしまっているというか。なもので、できるだけ知り合いを増やさないようにしたい、といった思いもあったりします。特に、好きな作品の作者さんには。
――今後どのような作品に挑戦したいか、また構想中の作品などあれば教えてください。
現実世界から逃れたいタイプの人間なので、やはりファンタジーを書き続けていくことになると思います。流行り廃りは、あまり気にしないようにしています。かえって、古くなるので。いまは、王女さんが80日間で世界一周する話を作っているところです。ぼくは、「頭のおかしい王女さんと、それに振り回される青年」のお話ばかり作っているスペシャリストなので(笑)、たのしみにしていただければと思います。
――最後に、これからJUMPjBOOKSの新人賞に投稿される方に応援メッセージをお願いします!
JUMP j BOOKS新人賞は、世間で言うところの『生き残り率』がえらく高い小説賞だと思っています。ぼくのような人間でさえも、いまだに作家として生き残っているわけですから。この先も長く物語を作り続けたいのなら、こんなに良い場はないのではないかと思います。少なくとも、どうすれば作品が世に受けいれられるかをずっと考え続けてきた編集さんの、力強いサポートは得られるはずです。最強の漫画雑誌を知っている編集さんの力は、そうそう借りられるものではありません。
ぜひ、新人賞を通じて、ジャンプという場を経験しに来てください!
定金先生、ありがとうございました!