――デビュー作『ジハード』を執筆当時、理系の工学部に在籍されていた定金先生ですが、史実を基にした作品を作る素地などはどこにあったのでしょうか?
現実から遠い世界のことの方が、単純に好みなんです。が、遠すぎると、それはそれで感情移入しにくい、という好みも持っています。矛盾するようなのですが、そういう嗜好なので仕方がありません。なもので、両者の境界あたりとして、題材を歴史に求めたのは必然だった気がします。現実世界から近からず遠からず、といったあたり。ファンタジーなんだけど、いまの自分がいる世界とも陸続きだ、といったあたり。理系文系は、あまり関係がないかと思います。大学の4年間で学べることなんて、大した範囲ではないので。好みから入って、興味を広げていく、というのをずっと繰り返してきたような気がします。
――デビュー作である『ジハード』は史実とファンタジーが交じり合う独自の世界観を持っています。実在の人物だけではなく、騎士物語の登場人物や伝説的人物などを登場させる手法が特徴的ですが、こうしたバランス感覚はどのようにして身に着けたのでしょうか?
これはぼくの場合、もう「自分が読んで楽しいか」「自分が読んで違和感を持たないか」ばかりでやってきました。と言っても、自分が書いたものを客観的に分析するわけではありません。単純に、自分が楽しめるかどうか、なんです。ただ、このやり口は独り善がりに陥る危険が大きいので、他の方にはおすすめできません(笑)。このあたりはもう勘というか、個人個人の天性によるところが大きいのではないか、という気もしています。「普通にしゃべってるだけなのに、なんか感じのいい人」が現れるように。
――『ジハード』はジャンプノベルでの連載や書きおろしを経ながら12年に渡る長期シリーズとなりました。作品を書き始めた頃からこうした長期シリーズの構想だったのでしょうか? 作品を長く続けることができた秘訣も教えてください。
高校生の頃に趣味で書いていたデビュー作なので、当初から連載等を意識していたことなどはもちろんありません(笑)。いつもは着地点を考えておいてから物語をスタートさせるのですけど、このときばかりは着地点なしで開始することになってしまいました。たいへんでしたが、良い経験になったと思います。
作品を長く続けることができた秘訣に関しては......単純ですが、書かなかったらそこで止まり、書き続ければ続く、というだけのことだと思います。たぶん、途中で打ち切りになってたとしても、同じだったのではないかと。同人誌などで、最後まで書いていただろうと思っています。
書けなくなったら、そこで物語は終わる。
書けるなら、売れなくても続く。
売れなくて書けないなら、そこで終わる。
ごく単純に、そんなところなのではないかと。
――魅力的な登場人物が数多く登場する『ジハード』ですが、キャラクターを作るコツや、どういった点から登場人物を設計していくのか教えてください。狙い通りの活躍をさせられたキャラクターや、逆に動かすのに苦心したキャラクターを教えてください。
キャラクター要素を組み合わせて、工業的に設計するやり方もよく聞きますが、ぼくはそれはほぼやったことがないです。インダストリアルな手法でキャラを作って、そこから言動を導出する、という方向とは、矢印が逆のことが多いような。言動をたくさん思い浮かべて、それを積み重ねていって形を作り上げていくような感じ。形ができてくると、さらにそこからたくさんの言動が出てきて、それが正のフィードバックとともに循環していくような感じ。ちょっと感じは違いますが、美味しんぼの海原雄山が、言動の積み重ねを経て横暴な権力者から懐の深い人格者にキャラが変化していったような......うーん、ちょっと微妙に違いますかね。ただ、何にしろこのやり方は、キャラクターのブレにたくさん配慮しないといけないので、面倒ではあると思います。
言動の積み重ねで大事にしているのは、『微笑ましい感じ』です。といっても、ギャグや漫才的な掛け合い、というような笑いとはちょっと違った、『微笑ましい感じ』の笑い。人間が他の人と共感する時に間に介在するものって、笑いであることが多いと思うんです。だから、キャラクターに共感してもらうには、笑いというものが意外と大事になってくるのでは、と。その中でも、個人的に多用しているのが『微笑ましい感じ』になっています。
あと、動かすのに苦心することは、めったにありません。
ぼくの場合、(こういうことを言いそうだなー)というのを、そのまま言わせているだけです。もちろん、間引きや調整はしますが。
――『ジハード』では判型を改める際に、大きく加筆修正されている点がいくつかあります。たとえば、リチャード獅子心王陣営の女性参謀であるベレンガリアなどは、ノベルスには登場しない人物でした。
当初は雑誌連載の毎話80枚程度で、お話を一話完結させることが絶対条件になっていました。年に二冊、という形態の雑誌だったので、担当さんによる当然の判断だと思います。ただ、毎回一話80枚の中で、戦いが起こり、終わらせねばならない、というのはなかなかたいへんなものがありました。なので、物理的に入れられなかったキャラクターや物語がたくさんあったわけです。文庫化の時に、それらをようやく甦らせることができました。文庫版が、この物語の完全版だと言っていいと思います。また、文章の好みが変わったというのもあります。高校生の頃に書いた文章と、三十歳の頃に書いた文章では、質も技術もまったく違っておりまして。初期と後期で雰囲気や趣が大きく違うのはよろしくないので、文体やキャラクターの動き方なども統一することにしました。
――『ジハード』のイラストの思い出を聞かせてください。山根和俊先生、芝美奈子先生それぞれのお話を伺えればと思います。キャラクターにイラストがつくことで起こった変化などもお聞かせください。
山根さんのイラストを最初に見たときは、衝撃的でした。自分の作ったキャラクターに絵がつく、という事実自体が、ものすごく感慨深いことでもありましたし。それに何より、ノミで一刀彫りしたような力強い筆致のイラストが好みで、部屋にずっと飾っていた記憶があります。実際にお会いしたのは三度ぐらいしかありませんでしたが、もっと色々とお話をうかがいたかったと思っています。
芝さんについては、以前『ジハード』をアニメ化できないかと企画を出してくださっていたことがあったそうです。様々な事情があって企画自体は実現しなかったのですが、それがきっかけで、イラストを依頼をすることになったというところだったと思います。
次回更新は5月1日予定!!
感動の最終回が!?
お楽しみに!!