――作品を書く上でどういったことに気を付けていますか? 自分のなかで大切にしていること、読者にどのような気持ちになってもらいたいと考えていますか?
作品のログライン(軸、テーマ)をしっかり固めることを意識しています。
自分ひとりで執筆できるオリジナル小説ならともかく、ノベライズやゲーム制作など多人数が関わる作品の場合は、執筆時にこのログラインが共有できていないとかなり厄介な事態が起こってしまうのです。
たとえば、「悪いやつをやっつけて、その結果ヒロインと結ばれる」っていうプロットを作って、一緒にお仕事をするひとたちと共有したとします。このとき、僕の内心では「ヒロインと結ばれる」をテーマに据えていたとしても、一緒にお仕事をするひとたちの中には「ほほう、悪いやつをいかにやっつけるかに重きを置いた話なんだな」と思っちゃうひともいるわけです。それで僕が「バトル要素のあるラブコメ」を書いたりすると、その結果、「ラブコメ風味のバトルもの」を望んでいた方々は落胆することになってしまうので。「おいおい最初の話と違うじゃん!」って言われたりして。
まあ、実際何度かこういうことあって、その都度かなりの量の書き直しをしなければならなかったりしたんですけどね。苦い経験です。
なので、プロジェクトの最初期には、かならず作品の軸、ログラインをがっちり共有するところから始めます。「これは悪いやつをやっつける話なんですよ」とか、「ヒロインと結ばれる話なんですよ」とか。
作ってるみんなが同じ方向を向いてる作品じゃないと、作品に触れた方々が困惑しちゃいますからね。そうなると「面白い」「面白くない」の判断以前の問題です。 せめて最低限「この作品のテーマは〇〇なんだ」と一発でわかってもらえる作品を書きたいと思っています。
――作品を書く上で、資料はどのようにして集めていますか? また、集めた資料はどの程度作品に反映されるのでしょうか?
まずWikipediaを調べて、より細かいことが知りたくなったら関連書籍を買う......といった感じですね。
たとえば僕は『愛は歴史を救う』というタイムトラベルものを書いたのですが、主人公がいろんな時代に旅立つ都合上、歴史関係の様々な知識が必要になりました。
そこで様々な時代の文化や風俗をまとめた本だったり、偉人伝だったりはそれなりに読みましたね。ナポレオンの関連書籍だけで、分厚い偉人伝二冊、当時の武器や戦術について書かれた本二冊、子供向けの学習まんがを一冊。あとは池田理代子先生の『栄光のナポレオン』(『ベルサイユのばら』の続編です)を通読したりしました。
概算して、読んだ資料の十分の一ぐらいは執筆の役にたっているのではないかと思います。......意外と少ないですね。
というか『愛は歴史を救う』に関してはむしろ、これまでの人生で嗜んできたエロゲーだったり、エロマンガの描写の方が参考になっている気がします。基本的にエロスなシーンばっかりなので......。
田中の煩悩が100パーセント反映されていますよ。
――創作をしているなかで原稿に行き詰まることもあるかと思います。そんなときはどのように気分転換をしていますか?
ゲームが好きなのでゲームの世界に逃避することがよくあるのですが......経験上、過度な逃避行動を取ると、さらに原稿に向かう気がなくなっていくものです。
「このボス倒したら原稿やる」が「せっかくだから次のボスも」となり、「ここまで来たらいっそクリアして」だとか「その後のやりこみにも手を出して」となってしまうのです。その結果、執筆中なのにプレイ時間100時間越えなんてことも。
いやあ、人間の逃避エネルギーって恐ろしいですよね。
なので、恥ずかしい話なのですが、僕は毎日編集さんに電話をしてもらい、進捗報告をすることにしております。監視の目があれば、僕のような意思薄弱な人間でも逃避行動から戻ってこられますからね。
つくづく、藤原さんに感謝です。いつもいつもすみません。
――これがなくては仕事にならない! というものはありますか? 普段の執筆環境について教えてください
ナナ(ミックス犬 8歳)です。彼女は僕の膝の上を安住の地としていまして、僕が執筆を始めると「抱っこ、抱っこ」とせがんでくるのです。そして、ひとたび膝の上に載せると、長時間そこから動こうとしなくなってしまいます。
僕も僕で、そんな彼女をどかすのもなんだか可哀想なので、仕方なく仕事をするしかないというわけです。おいそれとゲームに逃避することすらできません。
要するにこのナナさん、藤原さん同様、僕の仕事を見守る第二のガーディアンなのですよ。
藤原さんとナナがいなければ、きっと僕の原稿は遅れに遅れてしまうのでしょうね......。つくづく他人頼みの執筆活動を送ってるなあ、僕って。
――小説を書く際に、小説を読むこと以外で役にたったことがあれば教えてください。
第一回のインタビューでも少しだけ触れましたが、僕にはかつて司法試験を志していた時代がありました。
司法試験には論文試験というものがあり、そこそこの量の文章を書かされるんですね。そしてこの論文試験、法律知識の有無や論理性はもちろん、文章としての「読みやすさ」も要求されるんです。
たとえば司法試験予備校なんかだと、「ひとつの文章の中で伝えるべき情報は、ひとつだけにとどめるべきである(一文一内容の原則)」なんて教えられているくらいですし。
結局僕は試験をドロップアウトしちゃいましたが、この論文試験での勉強は、小説を書く上でも役に立っていると思います。
「一文一内容の原則」なんて、特にそうですよ。小説作業中に自分で書いた原稿を読み直しているとき、「なんか文章わかりにくいなあ」と思うことが多々あるのですが、そんなときはたいてい、文章を途中で切って分割するとスムーズに読めるようになります。
たとえば、以下のような感じです。
「彼女がくれた赤々と熟したリンゴをひと囓りすると、口の中に得も言われぬ甘酸っぱさが広がった」
↓
「彼女がくれたリンゴは、赤々と熟していた。それをひと囓りすると、口の中に得も言われぬ甘酸っぱさが広がった」
......読みやすさが断然違いますよね。これも論文の勉強のおかげかもしれません。
人生、どんな経験も無駄にはならないものですね。
――今後どのような作品に挑戦したいか、また構想中の作品などあれば教えてください。
インタビュー第三回で取り上げていただいた「MIST GEARS」は、この先どんどん世界を広げていくことになると思います。ゲームに漫画、そして小説と、シナリオ担当としてガンガン執筆していく所存です。こちらはできるだけ長く続けたいと思っております。
個人的には、その他オリジナルにも何本か挑戦したいと思っています。
たとえば「かっこよさ」と「外連味」に全振りしたハードボイルドなスパイもの......とか。こちらはプロットを書いたりしています。
ちなみに先日うちの父(愛読書・大沢在昌『新宿鮫』シリーズ)にその話をしたところ、「お前にハードボイルドは絶対無理だ」と一蹴されました。ムカついたので、いつかは見返してやりたいと思います。
――これからJUMPjBOOKSの小説賞に応募される方に応援メッセージをお願いします!
楽しんでやりましょう。「こういうのが流行ってるから」とか「編集部はこういうのを求めるはずだ」とかあんまり小難しいことを考えず、自分の好きなものを思いっきりぶつけてみればいいんです。自分の好きなものを書いてるときが、一番ポテンシャルが発揮されて、結果的に面白いものを書けるはずですしね。
流行とか読者の好き嫌いを考えるのは、デビューしたあとでいいと思いますよ。そもそもそういうのは編集さんたちがドヤ顔で教えてくれます。「君はそういうの好きみたいだけど、それじゃ売れないよ?」みたいな感じで。「いかに売れるものを書くか」のやり方は、編集さんたちとケンカしながら覚えていけばいいんです。
とにかく、楽しむことが大事。非常に短気な上に怠け者の僕がデビュー後6年もこの仕事を続けていられるのは、楽しんでやれているからだと思っています。
レッツ・エンジョイ・ライティング!
田中先生、ありがとうございました!!