――この秋より始動したProject「MIST GEARS」(「集英社×エイリム(『ブレイブ フロンティア』)×トライエース(『スターオーシャン』」で贈るゲーム・漫画・小説の一大プロジェクト」)ではゲームのシナリオを担当されていますが、どのような経緯で担当されることになったのでしょうか?
まず現担当の藤原さんが、エイリム代表取締役の高橋英士社長と深い繋がりがあったんです。藤原さんが以前に「ブレイブ フロンティア」のノベライズを担当していたということで。
不思議なことに藤原さん、高橋社長とかなり仲良しなんですね。高橋社長といえば、飛ぶ鳥を落とす勢いの超人気アプリゲーム開発会社のトップですよ。なのに藤原さんと来たら、そんな相手を「おうエイジ」などと呼び捨てにしてしまっているんです。僕はもうビックリでしたね。「年上のお偉いさんに向かって失礼過ぎない?」と。
むしろその藤原氏の無礼極まりないフランクな態度が、逆に高橋社長に気に入られたということなのでしょうか。世の中ってわからないものですよねー......。
ともあれ藤原氏と高橋社長の間にそんな繋がりがありましたもので、今回のプロジェクトのお話が僕にも回ってきたのです。
僕も僕で、三度の飯よりゲームが大好きな人間ですからね。「これはもうやるしかないな!」と即座に引き受けましたよ。ゲームに関わる仕事はいつかやってみたいと思っていましたので、非常にありがたいお話でした。
人の縁......もとい、藤原さんのコミュニケーションスキル(?)に感謝ですね。
――ゲームのシナリオをご担当されるのは初めてのことですが、企画参加段階からある程度ストーリーや設定は決まっていたのでしょうか? シナリオの作成をどの程度任されていたのでしょうか?
もともと、僕が参加する以前からエイリムさんとトライエースさんとの間ではある程度の打ち合わせは進んでおり、世界観の大枠は作られていたんですよね。
で、そこに僕(と藤原さん)が参加して、世界観の細部を決めていったという感じです。 登場キャラクターやストーリーについては、そのあとで僕側から案を出して、エイリムさん、トライエースさんとの打ち合わせでブラッシュアップをする......という形でやっております。(現在進行形で)。
シナリオの執筆自体はメインシナリオ、サブシナリオとも僕が行っておりますが、その内容はエイリムさん、トライエースさんの精査をしっかり受けております。普段の小説とは違って、ゲームのシナリオは「みんなで作っていく」感が強いですね。
大人数でテーブルを囲んで作品の方向性をあれこれ議論するのは、小説家の僕にとってはなかなか得難い経験です。こういうのも結構楽しいもんです。
――ゲームシナリオの執筆は小説の執筆とはどのような部分に違いがありますか?
一番大きな違いだと思ったことは、ゲームシナリオではいわゆる「地の文」にほとんど頼れないということです。
僕は情景描写や心情描写を地の文に頼る感じで小説を書くことが多いのですが、ゲームではそれをビジュアル的に表現することができてしまいますからね。地の文はあんまり要らないんです。
僕も結構ゲームをやってきている方だとは思うのですが、実際に書いてみて初めてその違いの大きさに気が付きました。カルチャーショック。
他にも、「一つのシナリオを長くし過ぎない」「プレイヤーを飽きさせないため、定期的にバトルを挟む」など、ゲームだからこその要求にも応えなければなければなりません。これがまたなかなか難しい。
憧れだったゲーム開発の、苦労の一端を知った感じです。ゲームのライターさんたちってこういうこと考えながら作ってるんだなあ、という。
いい経験をさせていただいております。
――10月29日にゲームの前日譚となる『MIST GEARS GHOST』が発売となりました。ノベライズ作品を数多く手がけられていますが、ご自身が考案したゲームシナリオを元にして小説を執筆するというのは、これまでとはどのような違いがありましたか?
一言で言えば、ノベライズとオリジナルの中間みたいな感覚、ということでしょうか。
前述の通り、世界観や設定などはエイリムさんトライエースさんとの打ち合わせで結構固まっていたので、それを前提にしたお話作りという形になりました。
ただ、キャラクターやストーリーは完全に新規でして、そこはオリジナル作品を作り上げていく空気に近かったと思います。
特に面白かったのは、双方向で同じ世界を補完し合えるというところです。ゲームの登場キャラクターを小説で登場させて、その過去や裏話を語ったり、逆に小説の登場キャラクターをゲームの方に絡ませてみたりといった手法で作劇ができました。そこは書いていてものすごく楽しかったところです。
もちろん、天野洋一先生がジャンプ+で連載中の漫画版『MIST GEARS BLAST』の方にも、小説版・ゲーム版の内容が深くシンクロしております。ぜひとも全部合わせて、お楽しみいただけると幸いです。
――小説版の見所を教えてください。
ご紹介の通り『MIST GEARS GHOST』は、ゲームの前日譚です。
ちょうど小説のクライマックス部分がゲームの冒頭とリンクするような構造になっておりまして、どちらも体験していただければより深い楽しみが得られるかもしれません。
「あ、ゲームのあのキャラ、この場面でこんなことしてたんだ!」......みたいなことがわかるので、結構面白いと思いますよ。
あと、小説を買うと、ゲームの中で使える小説版主人公の装備(ミストギア)が、もれなくダウンロードできちゃいます。なんと超激レアな☆5! 小説版主人公の特技を再現するような限定ミストコア(スキル)付きです。
その他もろもろゲーム序盤にお使いいただける便利アイテムがセットですし、すごくお得ですよ! これはもう買うしかない!
――今回のようなプロジェクトに参加することによって得られた経験や、ご自身の創作への刺激になったことがあれば教えてください。
普段関わらないような業種の方々と一緒に仕事を出来るのは面白いですね。
特に今回、漫画家の天野洋一先生とお知り合いになれたのは僕にとって大きな財産だと思っています。天野先生は今回、ゲームのキャラクターデザイナー兼、小説イラスト担当兼、漫画版執筆という超過密スケジュールで仕事をなさっているのですが、それだけの量をこなしているのに、それぞれのクオリティが本当にすごい。
しかもそれでいて、全体のゲーム製作に対しても意欲的にアイディアを出してくださるのだからもう脱帽です。たとえば今回のミストギア、「ゲーム内のイベントシーンで漫画的表現をする」という画期的な手法を盛りこんでいるのですが、これは天野先生の発案です。ベータ版のテストの際でも、この「漫画的イベント」は多くのユーザーに絶賛されたところでした。
基本的にヘタレな上にすぐ「めんどくさい」とか言っちゃう僕なのですが、一緒に仕事している相手がこれだけ一生懸命にやってくださるとなると、さすがにちょっとやそっとで音を上げるわけにはいかなくなります。
今なんとか踏ん張れているのは、天野先生のおかげです。いや結構マジで。
次回更新は11月27日予定!!
創作論や今後やりたいことをお聞きしました!
お楽しみに!!