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プロに聞く! ジャンプホラー小説大賞特別企画 ホラー作家になるためのQ&A

絶賛作品募集中の『ジャンプホラー小説大賞』。その記念企画として、ホラーを愛する作家の方々に、連続インタビューを行います。プロが語る、ホラーとの出会い、作品を書く上での秘訣やテクニック、心得など……受賞を目指す皆さん、ぜひ先生方の教えを、作品執筆の助けにしてください。

第4回 井上雅彦先生へのご質問です。
左)『深川霊感三人娘』(廣済堂出版)
右)『四角い魔術師』(出版芸術社)
1983年、「よけいなものが」で星新一ショートショート・コンテストで優秀作を受賞しデビュー。 以降、ホラー・幻想小説・ミステリ・時代伝奇など様々なジャンルで作品を発表。『異形博覧会』『四角い魔術師』『竹馬男の犯罪』ほか、著書多数。最新作は『深川霊感三人娘』。 企画・監修した書き下ろしホラーアンソロジー《異形コレクション》は、日本SF大賞特別賞を受賞し、現在、48冊を数える長期シリーズに。海外異色作家の傑作選シリーズ『予期せぬ結末』の企画・監修も行うなど、多方面で活躍している。

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Q1. ホラーにはまるきっかけになった体験や本、人生を変えた一冊などを教えてください。
Q1. ホラーにはまるきっかけになった体験や本、人生を変えた一冊などを教えてください。
A.

 僕の幼児期は、ちょうど、日本のサブカルチャーの黎明期と重なったのです。特にテレビ番組に現れる特撮映像の怪獣や妖怪(具体的には『ウルトラQ』や実写版『悪魔くん』など)、海外ドラマのスリラーや怪奇映画(『ヒッチコック劇場』『ミステリーゾーン』、英国のハマープロ作品など)、そして、SFアニメ作品などなど。
 様々なイメージの〔視たこともない映像〕がテレビから溢れ出した。テレビだけじゃなく、子供向きの少年雑誌なども、その特集をやってた時代です。つまり、大量の情報が異形のイメージをまとって、雪崩れ込んできた時代だったわけです。のちに出会うことになる海外の古典的な怪奇小説の傑作を怖ろしいイラストのグラビア・ページにして紹介した少年雑誌の記事もありました。そんな環境だったので、僕などは、ごくごく自然に〈異形な世界〉に魅入られていたわけです。
 昔はテレビや雑誌、今はネットの時代ですが、生まれてはじめて「異形の情報」と出会った時の驚きは、昔も今も、かわらないのかもしれませんね。
 当時は、怪物も幽霊の表現も、今と比べれば稚拙なもので、しかも、視ている小学生の僕らも、どういう仕掛けになっているのか、フィクションの舞台裏を雑誌などですでに知っていたりするわけです。それでも、視ている間、本当に怖かったのは、創り手に迫力があったからでしょう。
 しかも、夜になると怖くなる。ツクリモノ(フィクション)であることを知っている映像なのに、夜、蒲団の中で思い出すと怖くなる。そんなことを繰り返して、育ってきましたので、自然と闇と戯れるようになってきたのだと思います。

Q2. ホラーを書くうえで大事にしていることは何ですか?
A.

 特に重視しているのは、〈異化〉の感覚ということになるでしょうか。
 現実を〈異化〉すること。たとえば、ふだん日常で接しているもの、カジュアルで見慣れたもの、普通だったら怖くもグロテスクでもない、美しく、心やすらぐようなもののなかに〈怖さ〉を見つけ出す感覚も、そのひとつです。  その逆に、ふつうなら怖いもの、気味の悪いものを、ここちよいものとして描く、というのも〈異化〉の方法で、たとえば、きわめてわかりやすい例では、腐爛死体を、とびきり美味しそうに描いてみせるような方法論ですね。一般の感覚を持った読者に、その屍体の描写で、一瞬でも食欲を刺激されるように感じてもらえたとしたら、とても遣り甲斐があるというものです。
 「常識」や「固定観念」までも〈異化〉するということは、重要です。ラヴクラフトは、人類の出自という常識を〈異化〉して『宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)』という概念を打ち立てました。SF作家が「センス・オブ・ワンダー」と呼ぶ感覚に極めて近い、「センス・オブ・ホラー」だと思います。また、「固定観念」を〈異化〉するプロットは、「意外な結末」「予期せぬ結末」という〈どんでん返し〉も伴う場合が多く、これはどちらかというとミステリー読者に評価されることが多いのですが、ホラーの場合でも、僕はこうした方法も大事にしています。これは、自分がショートショートでデビューした作家だからかもしれませんが。
 〈異化〉の話が長くなりましたが、これらのほかに、僕がもうひとつ、大事にしていることがあります。
 それは、いわゆる五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)の表現です。HORRORの語源は「髪が逆立つ」というラテン語horrereに起因しているのですが、その意味どおりならば、ホラーとは肉体的な恐怖を重視する〈身体的な文芸ジャンル〉ともいえるわけです。もちろん、ホラーフィクションには心理的な恐怖もとても重要なのですが、あえて、〈肉体的〉な表現にこだわってみることも、臨場感をあげる重要なファクターだと思うのです。五感を通してこそ、六番目の感覚(霊感)の表現までも磨けるのではないか、と思っています。

Q3. 作品のアイデアはどのように作り出しているのですか?
Q3. 作品のアイデアはどのように作り出しているのですか?
A.

 いつも普通にやっていることは、メモを持ち歩くこと。今、スマホでEvernote(エバーノート)などを使っている同業者も多いですが、僕の場合は、情報カード(コクヨ シカー30)というアナログなやつです。まあ、どっちでもいいんですが、気になったこと、思いついたことをメモする、というのは基本の習慣ですね。
 (Q2)で答えたようなことを、いろいろ妄想して、カードに書いていくということも、よくやります。
 僕の場合、明け方に、濃い夢を視ます。「覚醒夢」というやつで、自分が夢を視ていることを意識しているのに奇怪な映像がリアルに出てくるという夢で、一種の睡眠障害という説もありますが、そんなものでも面白いイメージなら、すぐにメモをとる。
 ある程度集まって、それをパラパラやってると突然、とんでもないアイディアが閃くこともある。
 アイディアといっても、設定のアイディア、キャラのアイディア、プロットのアイディア、イメージのアイディア、描き方のアイディアと何種類もあって、それぞれに最も効果的な活かし方というものがあり、枚数によっても使い方が変わります。ただ、ある程度、貯まらないと、わからない。
 こつこつ貯めることです。

Q4.
Q4. デビューを目指す新人へメッセージ・アドバイスをお願いします。
A.

 言葉のセンスを磨くことですね。これは、「ホラー作家」だけには限りませんが、特に想像力の世界で勝負する「ホラー作家」には望まれることなのです。
 そのためには様々な方法があり、ここで、そのすべてを紹介しつくせませんが、ひとつ挙げるなら――自分の「辞書」を作ってしまう、というのも有効なテです。
 それも自分だけの「類語辞典」を作ることです。たとえば、恐怖の描写ひとつとっても、さまざまな語彙や表現がありますね。これらを蒐集し、分類してみるのです。
 他にも、登場人物の動作や感情、ボディ・ランゲージ、あるいは、(Q2)で挙げた「肉体」的な五感の表現なども、意識的に蒐集してみるとよいでしょう。
 先達の作例から抜き出して文例集を作ってみるのも、なかなかに愉しいものです。それを意識して、古典からモダンホラーまで古今東西の作品に接すれば、読み方まで変わるかも知れません。といっても、それを作ることが目的になってしまっては、ただの趣味になってしまうわけですが、基礎的な脚力を鍛える具体的な一案として挙げておきます。
 基礎的な力と言えば、これは、本当に基本的なことなのですが。
 デビューして、プロとして作品を書いていく人は、「作家の身体づくり」をしていくことが大切ではないかと思います。
 これは、毎日、同じ執筆時間を持ったり、あるいは、同じ量(原稿枚数)以上の成果物を創りだしていくといった習慣を、自分の身体に覚え込ませるということ。
 と同時に――これは、これまで回答してきたこととも関係があるのですが――恐怖や闇や言葉や物語に関する感性を「身体で感じとる能力を磨く」という意味でもあります。
 余談ですが、僕はいつのころからか、徹夜仕事の後などに、 『人間とは、現実の底で解き放たれることをひたすら待っている物語の息吹を、余すところなく感じとるためだけに、生身の身体を授かり、この世で活かされている存在なのではないか……。人間とは物語を創る臓器なのではないか……』  などという考えが、頭をよぎるようになりました。
 もちろん、本気にされても困ってしまうようなヴィジョンではありますが、「人間とは」というところを「作家とは」と書き換えていただければ、それほど突飛な考えでもないわけで、とりわけ、「ホラー」という感性で勝負する作家には、感覚機能の鍛錬、身体づくりが重要ではないかと思うわけなのです。
 などなど、いろいろと申し上げましたが、とりあえずは、自分の感性や身体感覚を信じて、自分の「好きなもの」「怖いもの」「美しいと思うもの」などを自己確認して明確にしておくことも、感性を磨く第一歩だと思います。

井上雅彦先生ありがとうございました!

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ミニキャッパー周平の百物語
ミニキャッパー周平(インタビュー)ジャンプホラー小説大賞宣伝担当。ホラー小説への愛から『ミニキャッパー周平の百物語』をブログ上で連載し、おすすめ作品を不定期で紹介している。感想を含めたレビューが作品制作の助けになることを切に願っている。

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