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NARUTO -ナルト- ナルト新伝

NARUTO -ナルト- ナルト新伝

原作:岸本斉史
著者:宮本深礼
大ヒットノベライズシリーズ「NARUTO秘伝」「NARUTO真伝」に続く、新たな伝説! ナルトたち親世代を描く「NARUTO新伝」シリーズとして『ナルト新伝』『サスケ新伝』『シカマル新伝』が3冊連続刊行! 第一弾は忍親子の短編集! イラストは岸本斉史先生描き下ろし!

「親子の日ぃ?」

 中途はんに開封された段ボール箱や巻物で雑然としたかげしつに、七代目火影、うずまきナルトの声がひびいた。

 読み上げた書類をばさりと机に置き、顔を上げる。こんわくの色濃いひとみを向けた先には、火影の相談役をつとめる男――シカマルの姿が。

「ああ。新しい休日に名前をつけろとさ。新市街の連中からの要望だ」

 シカマルの補足を聞いてもに落ちず、ナルトは問いをかさねた。

「休日に名前って……どういうことだってばよ?」

「さあな。祭りの呼び方みたいなもんだろ。そもそも、連中と俺たちとじゃ休日の意味合いが変わってくる」

「ふーん……」

 なまへんをし、ナルトは火影室の扉をながめた。

 その先にそびえる火影岩を、さらに向こうに広がる新市街を見つめるように。

 

 十数年前、第四次にんかいたいせんに先駆けて行われたペインの襲撃により、がくれの里は文字通りさらの荒野と化した。ひしゃげた家屋にえぐれた大地。里の基盤は根こそぎ吹き飛ばされたのだ。

 だが、ついえずに残ったものもある。火影岩だ。

 火影岩あるところに木ノ葉あり。自分たちを長年見守ってくれていた歴代の火影に背を向け、あらたな土地で木ノ葉をおこすなど、里の者たちには考えられなかった。

 必ずやこの地で再興するのだ!

 そのおもいは里の復興、そして、驚異的な発展へとつながっていく。

 里の創設時から営業を続けていた雑貨屋は二十四時間営業のよろず屋へと姿を変え、日が沈もうと暖簾のれんを下ろすことはない。

 里の内外には鋼鉄のレールが敷かれ、その上をらいしやと呼ばれる細長い鉄の箱が走りはじめた。往来に数日を要していた他里との交流も、これにより一段と楽になった。

 火影岩の後方には高いビルが建ち並び、その壁面にそなえられた巨大モニターからはの国のみならず、各国のニュースが流れている。『火影岩を見下ろす建物などごんどうだん』――ご意見番の老人たちはそう反対していたが、利便性は捨てがたく、だいに声も小さくなっていった。

 数百人の居住を可能とするマンションはさらなる移住者を里に呼び、今や里の人口はしのびよりもそうでない者のほうが多いとさえ言われている。ナルトが卒業した忍者学校アカデミーですら忍術科が定員割れを起こし、普通科の併設をなくされる時代だ。平和になったあかしといえばそれまでだが。

 もはや木ノ葉隠れの里は隠れることをやめ、火の国一の大都市となっていた。

 

 高層ビルがつらなる一画を、ナルトたちは新市街と呼んでいた。

 もちろん便べんぎじようそう呼んでいるだけで、木ノ葉に新だの旧だのといった格差はない。たとえ新市街で暮らす人々の多くが忍でなくとも、ナルトにとって里の者は皆ひとしく家族なのだ。

 もっとも、忍とそうでない者とでは、どうしても生活サイクルに違いが出る。

 そのひとつが休日だ。

 忍の世界は不安定であり、つ不条理。決められた勤務時間があるわけでもなく、特定の日に休むというのは難しい。それゆえ、忍にとっての休日とは『たまたま任務がない日』となる。いつ訪れるかわからない休日を特別視する忍は少なかった。

 しかし、そうでない者にとっての休日とは『定期的に訪れる骨休みの日』だ。彼らは週に一度の休日に加え、なんらかの記念日も休みにならないか要求していた。今回の案件も、それにかかわるものだ。

「まあ、カレンダーの日付を赤くするだけじゃさびしいしな」

 ナルトは火影のはんを手に取り、

「名前があってもいいんじゃねーか。反対する理由はねーってばよ」

 手もとの書類に、ポンッと印を押した。

「決まりだな」

 すぐさまシカマルの手によって、書類が『可決箱』へと放り込まれる。

 かくして、木ノ葉隠れの里に『親子の日』なる休日がもうけられた。

「……けどよ、親子の日って……具体的にどういう日なんだ?」

しんせいしよによると、親子のきずなを深める日だそうだ。大層なお題目だが、要は買い物やら旅行やらで親子そろってはしゃげってことだろ」

「親子の絆……か」

 ナルトの表情に影が落ちる。頭にあるのは子供ふたりのことだった。ボルトとヒマワリ。彼らと最後に親子の時間を過ごしたのは、いったいいつだったろうか。

「ま、オレたちも家族サービスといこうじゃねーの」

 それを察してか、シカマルの声はことさら明るいものへと変じていた。

「たまには家でゆっくりしろよ。どうせ帰っても寝てばっかで、ろくにガキどもと話せてねーんだろ? スケジュールにごうがつくよう、オレも手伝うからよ」

「シカマル……へへ、サンキュー」

 ほがらかにみをわすナルトとシカマルだが、ふたりの視線はじわじわとゆかに下がっていった。

そこには机からこぼれ落ち、床の模様かとまがうほど散らばった書類の山が。

「……都合、つくよな?」

 シカマルの声にむなしいものがじるが。

「ああ」

 ナルトの返事は力強かった。

「親子の日……いいじゃねえか。絶対に帰ってみせるってばよ!」

 

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