こんにちは、ミニキャッパー周平です。
本日は、私が選ぶ2018年カバーイラストがカッコいい本ベストテンの(暫定)1位作品をご紹介しようと思います。
ルーシャス・シェパード作/内田昌之訳『竜のグリオールに絵を描いた男』。竜をテーマにしたファンタジー連作なのですが、この竜がとにかくデカい。まずはこのカバーイラストをご覧ください
背中までの高さが750フィート(約230メートル)、尻尾の先から鼻面までの長さが6千フィート(約1.8キロメートル)。丘と見紛うほどの胴体の上に、村が作られ川さえ流れる巨大な竜、グリオール。グリオールは数千年前、魔法使いによって殺されかけたが、心臓を止められ動く能力を奪われてもなお精神活動をやめておらず、周辺一帯の人々の潜在意識に、暗い支配力を及ぼし続けている。
グリオールを本当に殺しきるための計画は、過去何百と立てられてきたが、そのすべては失敗に終わり、近隣の村は諦念に覆われていた。そんな折(1853年)、村を訪れた若者・メリックは、グリオールの巨大な体に「絵を描く」ことで殺すというプランを提示する。絵を描くという名目でグリオールを欺き、絵の具に含まれる毒素が竜の体に染み通っていくのを待つという、ともすれば数十年がかりとなる壮大で迂遠な計画だった。村人たちはメリックの提案を受け入れ、やがて竜の背に絵を描くための足場が建設されていく――
これが連作の第一話、「竜のグリオールに絵を描いた男」の導入。自身が立てた計画に翻弄され、怒涛の生涯を送ることになるメリックの運命と、グリオール殺害計画の成否から、目が離せない傑作短編です。異様な世界設定にリアリティを与える描写力(グリオールの周囲に息づく生態系・自然・生活描写の巧さ)からファンタジー読者のみならず日米のSF読者にも強い支持を受けており、SFの賞であるローカス賞を受賞したり、日本で編纂された『80年代SF傑作選』の上巻に収録されたりしています。
第二話「鱗狩人の美しき娘」は追手から逃げるためにグリオールの口から体内へ入り、そこで驚異の世界を見つけた女性の記録。グリオールの体内で暮らす人間たちの集落、(胴体が6つあったりする)奇妙な寄生生物、妖しく光るグリオールの血管などなど、驚異の光景の数々は、ピクサーでもジブリでもいいのでぜひ映像化して欲しいです。
第三話「始祖の石」は法廷ミステリ。一見したところ衝動的な殺人を犯したように見える男が「グリオールにやらされた」と主張したために、弁護士は事件の背後に竜の意思があることを法廷で証明しなければならなくなるが――二転三転しやがて明かされる真実に呆然とさせられます。
第四話「嘘つきの館」は殺人者の男と、グリオールの上を舞っていた小さな竜(女性の姿に変身することができる)の歪なロマンス。最後の一文があまりにも重い。第三話、第四話辺りになると、グリオールの意思から逃れられない人々の葛藤に焦点が強く当たり、神と人間との関係を描く小説という印象が増します。
ファンタジー読者にもSF読者にもお勧めのこのシリーズ、あと三作未訳作品が残っており、本書の売れ行き次第でそれらの刊行の可能性があるとのこと。私も続きが読みたいので、ぜひ皆さんもこの一冊を読んでみて下さい。