こんにちは、ミニキャッパー周平です。ブログ「ミニキャッパー周平の百物語」ではホラー小説を紹介してきた私ですが、こちらの編集部ブログでは、特にジャンルの拘りなく、読んだ本の中から気まぐれに風まかせに作品を紹介していくことになりました。
本日は「季節もの」な小説を。土用の丑の日が迫ってきていますが、最近ではうなぎの個体数が激減していることが報じられていて、気にせずパクパク食べていたら遠からず絶滅するのではないかという話も出ています。そんなわけで、今回は「うなぎが絶滅した後の世界」を描く未来ファンタジー短編集、倉田タカシ『うなぎばか』。
二〇××年、ニホンウナギは「野生絶滅」が認定され、他種のうなぎも世界的に禁漁になった。うなぎに関わっていた人たち、うなぎ好きだった人たちの運命は、絶滅によって大きく変わっている。
◆廃業したうなぎ屋の親父は、代々受け継がれてきたうなぎの「タレ」を手放そうとするが、うなぎカーに乗った＜うなぎ文化保存会＞の人々がそれを阻止しようとする。
◆うなぎ型の巨大ロボットは、水産資源調査と保護のために海を泳ぎまわり、食い詰めた漁師たちの放ったカニ型密漁ロボットと対決する。
◆水産加工会社に勤める女性たちは、南米のジャングルに生息する、うなぎ以上に脂の乗った肉を持つ獣"山うなぎ"を求めて旅立つが、その意外な正体に驚愕する。
◆未来人のタイムマシンを手に入れた男たちは、江戸時代へタイムトラベルし、平賀源内に「土用の丑の日」のうなぎ宣伝をやめさせることで歴史を変えようとする。
◆うっかり手が滑ってうなぎを絶滅させてしまった神様は、絶滅をなかったことにしようと、恋愛成就の夢を願う少年の脳内に、強引にうなぎのイメージを送り込む。
――うなぎがいなくなった後の世界を舞台に描かれるこれら五つの物語は、いずれもキャラのやりとりがユーモラスで読みやすく、特に最終話「神様がくれたうなぎ」は、初々しい少年少女のデート風景に脈絡なくうなぎが割り込んで来るシーン、うなぎへの食欲に憑かれた亡者たちから逃れた島で地球最後のうなぎと会話するシーンなど、笑いをこらえられません。しかし、この本全体として、うなぎが「既に絶滅してしまった」世界の喪失感が静かに漂っていて、うなぎが「今にも絶滅しそう」な現代の読者にとっては、不思議な悲しみをたたえた作品集になっています。うなぎを食べることのできない辛さと、うなぎを滅ぼしてしまった罪悪感、その両方を負った登場人物たちのやるせない気持ちは想像するだに重く、この物語に描かれた未来が現実のものにならないように願いたいものです。
という訳で、今年の土用の丑の日、私はうなぎの代わりにサンマのかば焼きを食べようかなと思っています。うなぎとはぜんぜん別の食感ですが、あれはあれで美味しい。