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レーベル創設から25周年を記念してJUMP j BOOKS小説賞出身の先生方へのインタビュー を掲載!!受賞当時の思い出や、あの名作がどのように生まれたのかなど、普段は聞くことのできない先生方の貴重なお話が満載ですよ♪

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ひなたしょう

著者略歴
ジャンプ小説新人賞’08 Spring小説テーマ部門で金賞受賞。『ヒキコモリパワード メタルジャック!』と『ラッコ11号 番貝編 闘え!平帆水産株式会社第一宣伝部部長』を二冊同時刊行してデビュー。他にも『ONE PIECE』、『NARUTO-ナルト-』、『斉木楠雄のΨ難』のノベライズなどを手がける。
第3回 12.18更新 誰かにとって初めての小説かもしれないという意識で挑む!

――ノベライズ作品を多数手がけられていますが、どんなところに注意して執筆にあたりますか?


 当たり前のことなのですが、その作品のファンに喜んでもらえるようにと常に考えて書いています。というか、私がファンです。好きじゃなきゃ引き受けません。ありったけの愛を込めます。
 ですが、いくら愛を込めるといっても、ただひたすらファンサービスだけをしていればいいのかというと、実はそうではありません。そういうことを過剰にやってしまうと、逆に原作っぽくなくなってしまうものなのです。
 原作のノベライズにするために、本当に愛を込めるべきところはどこか。
 意外に思われるかもしれませんが、それは誰もが気にも留めず、さらっと読み飛ばすようなところなのです。そういった細かいところほど丁寧にやらなければなりません。
 そうするとやがて、文字だけのはずなのに目の前に世界が広がるようになります。キャラクターたちの生き生きとした声が聞こえてくるようになります。ときにはその漫画の効果音すらも自然と見えてくるようになるはずです。
 小説なのに、確かにあの漫画だ、となるのです。
 原作を意識してひとつひとつ積み重ねた言葉の数々と、過剰ではない秘めた愛こそが、それを可能とするのです。

――Jブックスから刊行されているノベライズ作品は短編集であったり、コメディ寄りの路線が多いですが、基本一話完結のギャグ漫画である『斉木楠雄のΨ難』のノベライズではどのような工夫をされましたか?


 ノベライズというのは、一般的に原作漫画がアニメ化や映画化となったときに、いっしょに発表されたりするものです。が、『斉木』の場合は、少しばかり異例であったことにお気づきでしょうか? 『斉木』のノベライズは、アニメ化や実写映画化とは関係なく、その遥か前に発表されているのです。
 これはなぜか。当時の出版業界の裏で私がそうなるように暗躍(担当編集者にこの作品をぜひやりたいと申し出ること)していたからなのであります。
 この作品をもっと多くの人に好きになってもらいたい。盛り上げたい。アニメ化まで待てない。でもどうしても自分がやりたい。よし、書いてしまおう。うるせえ俺は書くぞ。このような流れで、異例とも言える早い段階でノベライズが発売されたのです。
 当時、『斉木』のコミックス一巻を読みながら私はこう考えていました。
 この作品は、いつか必ずアニメ化されるだろう。ともすれば実写映画化もされるかもしれない。監督は福田雄一、主演は山﨑賢人あたりになることだろう。そして同時期に、山﨑賢人は『ジョジョ』の実写映画でも主演を務めることになるだろう、と......。
 それまでの橋渡し、話題をつくり、作品を盛り上げ、ファンとともに愛を深め、応援し、未来へとつなぐこと。これこそが私の使命ではないか、と。
 しかし、いざ許可を戴いてはじめた執筆作業ですが、早々にある困難に直面します。それは、『斉木』が週刊連載中の一話完結のギャグ漫画であるという部分でした。
 どういうことかと申しますと、たとえば読者が「もうすぐクリスマスだなあ」と考えていたら、『斉木』でもクリスマスの話が描かれるというところです。そして、そのつぎの週では年越しやお正月の話が描かれたりするのです。
 このように、週刊連載で一話完結のギャグ漫画である『斉木』は、季節感やライブ感を大切にした読者に寄り添った作品なのです。
 そんななかで、私が小説内で季節ネタやイベントネタなどを盛りだくさんでバンバン書いてしまったらどうなるのか。週刊連載をしている原作者・麻生先生が、とてもやりづらくなってしまうのです。応援したくて書いているのに迷惑をかけるわけにはいきません。そう考えた私は、自主的に多くのネタを封印状態にして小説を書くことにしたのです。
 目指すべきは、原作にありそうだけどない話、原作であったとしても小説ならではの展開になる話です。もちろん、いくら多くのネタを封印したからといって、なんの季節感もなく、ずっと自宅と学校を往復するだけの話では、ただの私の学生時代になってしまいますので、そこはちゃんと小説ならではの展開や盛り上げを意識して書いています。
 小説には夏祭りの話も出てきますが、季節感のためだけではなく、あえてその舞台を選んでいます。なぜそうしたのか。それは読まねばわからない......!
 自主的にネタの多くを封印した者が辿り着いた果て。文字だけでギャグ漫画を書いたらどうなってしまうのか。その生き様、どうかともに見届けてやってください。

 追伸 そんな小説の一場面をイラストにして送ってくださった方がいました。
 その方はこれを読んでいないかもしれませんが、感謝の気持ちを込めてインタビューとは関係がありませんが、こうして後々まで残るかたちとしてどうしてもお礼を言いたかったのです。ありがとうございます。大切にしています。

画像注:『斉木楠雄のΨ難 EXTRA STORY OF PSYCHICS』

――『NARUTO-ナルト-』秘伝シリーズは、東山彰良先生など、多くの作家陣が執筆に参加した一大プロジェクトとなりましたが、『木ノ葉秘伝』を執筆された際は他の作家を意識したり、意図的に執筆で変えた部分などはありましたか?


 自分の率直な気持ちとしては、本当はすべての作家さんが書いた本が発売された後に、それらを一冊一冊丁寧に読み込んでいって、そののち原作漫画だけでなくアニメも映画も改めて最初からすべてを観直し、ついでにゲームでも遊んだりなんかして、それらを踏まえた上で、ようやく書きはじめることができたら一番良いのですが、そんなことをしていたら何年かかっても私の担当している本だけがまったく発売されないという事態になってしまいます。
 上のようなことが可能であれば、もちろん他の作家さんのことも意識して書くようになるのですが、現実的にそういうわけにもいかないので、意識したり意図的に変えたということは、まったくありませんでした。まずなによりも、意識するべきは原作ですので。
 原作に対する愛を持ち、全員がひとつのプロジェクトとして共通の目標に向かって進んでいたので、はじめてお会いする人だとしても自然と連携がとれるものなのです。初対面の音楽家たちが即興でセッションをしているような感覚の小説だと思ってください。
 ただ、私以外全員大御所みたいな状況だったので、内心は「嫌だなあ」とは思っていました。他の作家さんのことを嫌っているとかそういう意味ではないです。ただ、やっぱりどうしても緊張しますから。というか、もはや『私以外全員大御所』というこの言葉自体のパワーよ......。なんだこの声に出してみたときの威圧感は......。

――徹底的にその作品を研究し、世界に入り込むということが、ノベライズをするにあたり必要なことかと思いますが、そういった研究などからご自身の創作活動に影響があったりするのでしょうか?


 小説を書く際は、役者さんのように役づくりをしています。もちろん、ノベライズだけでなくオリジナルの作品でもやります。
 とくに大切なのは、その小説の語り手・視点となる人物の役づくりです。たいていは主人公が視点となる人物を兼ねている場合が多いのですが、そうでない場合もあります。
 どういう人物の目を通して語られているのか。誰を中心とした話なのか。それによって正義と悪がまるっきり入れ替わってしまうことさえあるのです。
 ノベライズの場合は、原作漫画でのそのキャラクターの言動を参考にして役づくりを進めていきます。たとえばそのキャラのイメージカラーと同じ色の服を着るようにします。そのキャラらしいアイテムなどがあればそれも身につけます。そのキャラが好きな食べ物や飲み物を口にするようにします。しゃべり方や考え方も真似するようにします。
 長年そうしたことを続けているうちに、もはやもとの自分がどんな人間だったのかわからなくなってしまいました。自分の創作活動に影響どころか人生に影響が出ています。しかし、これはむしろ成長であると私は考えています。いろいろな生き方や考え方と出会い、それらが混ざり合って今の自分ができているわけです。なので、もとの自分がわからなくなってしまったからといって、昔の自分の捜索活動をする必要などないのです。
 どうせ人間、根っこの部分はなにがあろうと変わりはしません。

――ノベライズに携わることでのやりがいはどんなところにありますか?


 ふだんは小説を読まないけれど、この漫画が好きだからノベライズを読んだ。
 今まで小説を読んだことがなかったけれど、このノベライズで初めて読めた。
 そういったことを言ってくれる人がいます。小中学生にとっては、私が書いた本が生まれて初めて読んだ小説になっているかもしれません。
 だからこそ、手は抜きません。子供騙しもしません。常に全力で、魂を込めてひと文字ひと文字書いています。
 私の名前は忘れられてしまうかもしれません。『あの漫画の小説』としてでしか覚えてもらえないかもしれません。それでも、大人になったときに本棚の奥に埋もれていた私の本をふと見つけて、「子供の頃初めて読んだ小説だ」と思ってもらえたとしたら、こんなにも嬉しいことはありません。このやりがいは、ノベライズならではだと思います。
 少しだけ欲を言わせてもらうと、子供の頃に読んだ小説を、大人になってからもう一度読み返してもらえたらさらに嬉しいですね。以前読んだときには気がつかなかったこと、大人になった目線で見ると少し印象が変わったりするところ、あるいは、私の本のあまりの文学性の高さに驚愕したりしなかったりすることなんかが、あるやもしれませんから。

次回更新は12月25日予定!!
創作の秘訣について語っていただきました!
お楽しみに!!

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