――受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちを教えてください。
僕は介護の仕事をしているのですが、第一報があったのは夜勤の最中だったと思います。利用者さんのオムツ交換から帰ってくると、見知らぬ番号から留守電が入っていました。その番号を検索してみると、集英社の住所が表示されたんです。「オムツ交換からの集英社......ギャップがすごい!」などと思いながらリダイヤルをしてみると、現在の担当編集の渡辺さんが出てくれて、僕の応募作に銀賞を授与してくださるという旨を報告してくれました。「......僕なんかに銀賞? いや、というかそもそも、本当にこの人は集英社の人なのだろうか? いま流行りの集英社集英社詐欺(※流行っていません。集英社集英社詐欺という詐欺もありません)ではないのか?」などとテンパっているうちに電話が終わり、それからしばらくはボーっとしてしまいました。翌朝になってようやく実感が湧いてきて、「集英社集英社詐欺(※ありません)じゃないんだ!」と、足をガクガクさせながら明け方のオムツ交換をしたことを覚えています。
後に聞いた話ですが、僕の先輩作家である花井利徳先生も「最初はドッキリか詐欺かと思った」と仰っていました。意外と「作家あるある」なのでしょうか?
――初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか? ご自身の想像とは違ったりした部分などがあればお聞かせください。
編集部に入ったときも感動しましたが、初めて集英社のビルを目の前にした時の感動は今でも忘れられません。その日はデビュー作の授賞式のために集英社に行くことになっていたので、朝からガチガチに緊張していたのですが、その時ばかりは緊張が吹き飛びました。「子どものころから見ていたジャンプを作っているところだ!」と、内心で大いに興奮し、夢でも見ているような気分になったんです。
でもすぐに現実に引き戻されました。緊張しながら集英社に入っていくと、「あ、ここから先は関係者以外立ち入り禁止ですよ!」と、警備員さんに止められました。挙動不審過ぎて、不審者だと思われていたようです。また、手土産も忘れてしまったし、その後の授賞式や会食でも、社会常識やビジネスマナーの無さから空気を読まない発言を連発してしまい、その日の夜は相当落ち込みました。大人としてしっかりしなきゃダメだな、と......。 ......『編集部に足を踏み入れた時の気持ち』を聞かれているのに、『少年誌の編集部に、少年の心を持った中年が足を踏み入れて、凹んだ』という話になってしまいました。申し訳ありません。
――初めて担当編集者と話をしたときどんな印象を持ちましたか? 編集者から受賞作にどういった評価をもらったのかも聞かせてください。
先述のように、初対面の時はガチガチに緊張していてあまりよく覚えていないのですが、打ち合わせを重ねていくうちに、とても真摯で知識が豊富な人だということが分かりました。的外れな企画書を持ち込んでも、嫌な顔ひとつせずにそのひとつひとつを丁寧に手直ししてくれて、進むべき道を一緒に模索してくれます。とても頼りがいのある人です。
受賞作にはいろいろと評価をいただきましたが、中でも印象的だったのは、「もう少しヒロインのキャラを掘り下げたほうがいい」というもの(評価というよりアドバイス?)でした。最初はピンと来なかったのですが、直しているうちに意味が分かってきました。それまでヒロインにはどこか主体性が欠けており、「物語を動かすための舞台装置」といった感じがあったんです。モブキャラとしてなら良いかもしれませんが、ヒロインがそうだと感情移入しづらいと感じました。そういう部分を意識して直してみたところ、以前よりはるかに人間味が増し、行動原理なども分かりやすくなったんです。それで改めて「この人すごい!」と感じたのを覚えています。
――受賞作でのデビューとなりましたが、受賞からデビューまではどのぐらい時間がかかったのでしょうか?また、改稿はどの程度行ったのでしょうか?
5か月くらいかかったと思います。2015年の5月ごろに授賞式があって、10月に刊行されたと思うので。 改稿はかなりしたと思います。当時の編集長の浅田さんは「序盤のサバイバルのくだり、キャラ同士の会話が少なすぎる。もっと会話を増やしたほうがいい」というご意見で、当時の副編集長の島田さんは「あの誰とも話していないときの孤独なサバイバルの感じが面白い」というご意見でした。つまり「序盤の孤独なサバイバル感はなくさず、でもそのあたりでキャラ同士の会話は入れる」という方向で直しを進めることになりました。そこで、後半に出てくるキャラを序盤に登場させるという展開を思いつき、それに伴って要所要所を改稿して......といった感じで進めていきました。作家になってから初めての改稿作業だったので、「すごい! 小説家になったみたい!」と、わけの分からないことを思いながらも、終始楽しくやらせてもらったのを覚えています。また、ひとりで書いているころと違い、たくさんの人にいろいろな意見を聞きながらできたので、とても頼もしかったです。
――デビュー後は『ブラッククローバー』のノベライズも2作品執筆されました。どのような経緯でノベライズを担当することになったのでしょうか?
『ブラッククローバー』のノベライズ化が決まって、誰に担当させるかという話になったとき、担当編集の方が僕を候補者の一人として推薦してくださったんだそうです。『ブラッククローバー』は当時から大好きな漫画だったので、ものすごく嬉しかったんですが、「僕なんかで本当にいいのだろうか?」という不安もありました。ですが企画書の提出期限が一週間くらいしかなかったので、とにかく書くしかなかったんです。その後、なんとか企画が通って、『ブラッククローバー』の著者である田畠先生にご挨拶に行かせてもらい、本格的に担当させてもらうことになりました。
全体的に忙しいスケジュールとなってしまいましたが、今思えばそれが良かったのだと思います。変に時間があったら、ウダウダと悩んでしまっていたでしょうから。今でも「僕なんかでいいのだろうか」と思うことだらけですが、「任せてもらったからには限界を超えよう!」という気持ちに切り替えるようにしています。
――ノベライズ作品を手がけるにあたり、どんなところに注意して執筆にあたりますか?
当たり前のことかもしれませんが、原作の世界観を崩さないように、そしてキャラの行動原理は大切にすることを心がけています。行動原理がそのキャラの魅力に直接つながっていることが多いので、そこをブレさせないことはデビュー前から意識しているつもりです。
あと『ブラッククローバー』では魔法バトルが大きな魅力のひとつなので、ひとりひとりが使える魔法を一覧表にまとめて、それとにらめっこをしながら、「この場面ではこの魔法を使いそうだな」などとぶつぶつ言いながらバトルシーンを書いていきました。ですが唯一の例外があって、ノベライズ二巻の四章で、『ブラッククローバー』の当時の担当の方が「このシーンで使うシャーロットたちの魔法、ジョニーさんが考えていいですよ」と言ってくださったことがあったんです。この頃はまだ団長たちの魔法が詳しく明かされていないころで、そのシーンに見合うような魔法が既刊本の中にはなかったんです。だからひとつやふたつくらいなら作ってもいいよ、というご判断だったのですが、だいぶ震えました。オリジナルキャラにオリジナルの武器を使わせるのならまだしも、既存のキャラの武器を増やすって、ルール違反のような気がしたんです。ですが原作者サイドの方がそう言ってくださるのなら、と、恐れ多くも魔法を考えさせてもらうことにしました。大変貴重な体験でした。
――ノベライズに携わった経験から得られたものはありますか? やってよかったなと思える部分はどんなところにありましたか?
キャラの動かし方やストーリーの盛り上げ方、キャラ同士の掛け合いを活き活きとさせる書き方などを学べたり、魔法を用いたバトルシーンを経験することができたり......と、やってよかったことしかないですが、やはり「大ヒット作品にかかわることができた」という経験そのものが一番大きな収穫です。数少ない僕の自慢となりました。
やってよかったと思えた点は、原作者の田畠先生に「小説良かったですよ。キャラが良く動いてました」と褒めていただけたことです。大好きな作品に自分の価値観を持ち込むのって、本当にものすごく怖いことで、「世界観や雰囲気を壊したらどうしよう」とか「ファンの人はどう思うだろう」とか、常に不安に思いながらやっているんです。ですので、原作者の方にそう言っていただけたことで、多少なりとも自分の持っているものを肯定してもらえたような気がして、本当に嬉しかったです。田畠先生、そして、僕の拙いノベライズを受け入れて下さった『ブラッククローバー』ファンの皆様、本当にありがとうございます。
次回更新は9月18日予定!!
新作について語っていただきました!
お楽しみに!!