――小説を初めて書いたのはいつごろですか? きっかけと内容を合わせてお聞かせください
初めての小説を書いたのはデビューする三年前のことです。
もともと映画が好きで、映画製作を志して映画のシナリオを書いて応募したことがありました。自主映画製作やドキュメンタリー映画製作に関わったりしたこともあります。あるきっかけで会社を辞めてやりたいことをやろうと考えた時、ドキュメンタリー映画の製作に突き進むか、小説家になるか二択で、後者を選びました。いやまあ、前者を選んだら確実に干からびてしまうなあと。
そのころ書いた小説の内容はもうあんまり覚えていないです。テロリズムに染まっていく男の話と、凶悪殺人犯が一般社会に戻ってきて社会に馴染もうとする話だったはずです。基本、暗い話が好きなのかもしれません。
――自身に影響を与えた作品のタイトルと、好きだった点をあわせてお聞かせください
影響を受けた作品はたくさんあってひとつひとつ挙げるのは大変なんですけど、一番大きな影響を受けたのは北杜夫の『どくとるマンボウ昆虫記』です。小学生の時、叔父が祖母の家に残していたのをたまたま見つけて手にして、そのまま自分の家に持ち帰って読みふけりました。
昆虫が大好きだったのでその本を手に取ったのですけど、何度も読んでいるとその文体やユーモアが愛おしくなって真似したいなと思うようになったんです。でも、その当時は小説を書こうとしたことはないですね。受賞作の『イモムシランデブー』で昆虫を題材にしたのは、北杜夫が好きだった原点に戻るという意味合いもありました。
――プロデビューを志したのはいつ頃からですか? 最初からプロ志向だったのか、何かのきっかけがあったのか教えてください
心の師匠と思っていた方が急逝されたのがきっかけです。その人の死をきっかけに「やりたいことやっておかないとヤバい」と焦りました。その時むくむくと湧いてきたのが、ドラマを描きたいという衝動でした。「わだばプロの小説家になる」と決めました。最初の小説を書いたのはそのあとです。
そう思ってから二年経ちました。そのころはまだ会社員でした。いつもの仕事で決済をもらうため、他部署の部長のところに書類を持っていきました。その時もらおうと思っていたハンコは、数ある承認印のうち最も重要度が低いものでした。本来ならさっさと終わるはずが、関係ないはずのことでネチネチとからまれ、自分の目がスーパーで売れ残っているサンマの目のようになるのを感じました。「ああ、ここにいたら時間を無駄にしてしまう」と気づき、会社を辞める決心がつきました。
周囲にその決意を打ち明けて会社を辞める準備を進めていた時に起きたのが、リーマンショックでした。正直、「やべぇな」と思いました。このタイミングで自分から会社を辞めて小説家になろうとする阿呆がどこにいるのかと。結局、そのまま突き進んでしまいました。
――受賞作や小説賞に応募する以前、周囲の方に小説を読んでもらうことなどはありましたか? あった場合は他人に読んでもらうことの影響を教えてください
受賞作、三人で作ったようなものなんですよ。妻と、友人と。応募のための企画をまず数行のアイデアとして見せて、意見をもらって直してプロットにして、そのプロットがいけるとなって小説を書き進めました。妻にはがっつり意見やアイデアをもらい、友人には『イモムシランデブー』というタイトルをつけてもらいました。二人は忌憚ない意見を述べてくれるので作品をいい方向に導いてくれましたし、二人がいなければ書き上げられませんでした。
『イモムシランデブー』で、いったん書き上げたあと後半の合宿シーンの直前にミツバチのエピソードを追加しましたが、これは「エピソードがぜんぜん足りないよ」という妻の意見に従いました。その結果、いいシーンが加わりました。
――デビューするまでJUMP j BOOKS以外の新人賞には投稿されていましたか? 投稿されていた場合はその経験から得られたことを教えてください
文芸賞の公募に二回出したことがありますが、そちらはいい結果が出ませんでした。得られたことは......あるのかな。そのときはまだ甘い気持ちで投稿していたので、落選しても「何が悪かったんだろう」と応募作を読み返すこともしませんでした。
将棋では、対局が終わった後に行う感想戦が上達のために重要です。自分の失敗を見つめ直し、次に活かすことができます。二回の公募ではそれをやらずじまいだったので、残念ながらその経験は後に活きることはなかったです。
――なぜジャンプ小説新人賞に応募しようと思ったのかを教えてください
そこにジャンプ小説新人賞があったから、としかいいようがないです。会社を辞めて小説家になるって周囲に宣言した時、また別の友人から「これからはラノベの時代でしょう」って言われたんですよ。その時、以前読んだ『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』のことを思い出して、「たしかにラノベ、ジュブナイル小説の世界なら、自分が映画製作を志して蓄積したことが生きるかも」と気づきました。文芸志向ではなく、エンタメ志向で行こうと方向性が決まり、読者層も決まって企画が絞りやすくなりました。
JUMP j BOOKSはラノベというよりもエンタメ小説のレーベルに近いと感じたのも大きかったです。小さい時に読んでいたマンガは『ドラえもん』と『じゃりン子チエ』だったので、ジャンプにどっぷり浸かっていたから投稿したというわけではないです。
――応募作はどれぐらいの期間をかけて書かれたのでしょうか? また、応募するとき自信や手ごたえはあったのでしょうか?
三人で作ったって言いましたけど、会社を辞めた翌日に第一回の打ち合わせをして、そのちょうど二ヶ月後に書きあがりました。アイデア出しからプロット完成までに一月、小説執筆に一月です。正直、しんどかったですけど、会社も辞めちゃったし頑張るしかないなと。
背水の陣で書くからには、自分のよく知っているものを題材にしようと思って昆虫を選びました。そこから生物部を巡る話にしようと決めるまでは一瞬でした。当初は映画『ピクニックatハンギングロック』のようなミステリー仕立てにしようと思ったんですが、キャラを作り込んでいったらまったく別のストーリーが生まれました。
書き終えた後、二か月で完成させたという満足感だけでなく、しっかりとした手応えがありました。この作品は人に読んでほしいと自然に思いました。
次回更新は10月16日予定!!
三人四脚で取り組んだ応募作の結果は?
お楽しみに!!