――受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちを教えてください。
最終候補まで残ったとき、なぜだか受賞する予感がありました。でも、受賞連絡のタイミングってわからないから不安になるじゃないですか。ホームページでの最終発表予定から逆算して「そろそろ来てもいいんじゃないの?」と密かに期待しつつそわそわ待ってました。
最初は編集部と連絡がすれ違って留守電を入れ合い、やっと連絡を取れたのは妻と家に一緒にいた時です。
「Jブックス編集部の〇〇です」という電話の声で血が沸騰しそうになりました。ほんとうに受賞したんだ! と。続いて「銀賞です」って聞いて、正直「金賞じゃなかったか、ちぇっ」と思いました。よっぽど自信あったんですね。その電話の最中、妻にはwebで受賞を知った友人から電話がかかってきて「やりましたね!」「いま編集部から電話かかってきてるところ!」と大興奮だったらしいです。
――初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか? ご自身の想像とは違ったりした部分などがあればお聞かせください。
ごちゃごちゃしてるなぁと。同時に、自分も整理整頓とは無縁なので、身近に感じました。一番驚いたのは、少年ジャンプ編集部と同じ部屋っていう点でした。編集部の部屋よりもそこにたどり着くまでの廊下が強烈でした。宣伝用の立体ポップがこれでもかというくらい並んでいて。
――初めて担当編集者と話をしたときどんな印象を持ちましたか? 編集者から受賞作にどういった評価をもらったのかも聞かせてください。
最初の電話で「ペンネームはなんと読むんですか?」と聞かれて慌てました。応募原稿には漢字でペンネームを書いておいたのですが読み方をきちっと決めていなかったので、「あー、どうしようかな......」とその場で待たせてしまいました。そこで「くまあたろう」と初めて決めて作家としてスタートを切りました。
担当編集さんには「とにかく面白かったです」「僕が受賞を推しました」と全肯定してもらったのが嬉しかったです。編集の人って一筋縄ではいかないという先入観があったので、拍子抜けしました。受賞者が集まった会食の場でもほめてくれて、むずかゆいくらいでした。とにかく作家の立場に立って肯定してくれる方なのでやりやすいです。
――受賞作でのデビューとなりましたが、受賞からデビューまではどのぐらい時間がかかったのでしょうか?また、改稿はどの程度行ったのでしょうか?
たしか11月に打ち合わせをしたのが最初で、当初は翌4月刊行予定だったんですが、結局は7月刊行まで延びました。
改稿という作業があることはわかっていましたが、予想を遥かに超えて長く、大変なものになりました。後年、担当編集さんから「15稿くらいまでいきましたよね」と言われましたが、そんなにやったっけな? というのが正直なところです。とにかくたくさん改稿を重ねました。
改稿の打ち合わせで「冒頭は変えたほうがいいですね」と指摘され、自分でも冒頭は弱点だと思ってたのですぐに差し替えました。改稿後のほうが明らかに良くなっています。
改稿の作業はとても勉強になりました。ただ、編集者は優れた意見を出してくれますが、常に正解をくれるわけではありません。小説の改稿に正解なんてないし。編集部側から「こうしたらどうか」と言われたけど、同意しなかったものもあります。
改稿作業は苦しいものでしたが、イラストを担当してくださった別天荒人先生から上がってきたカバーイラストの素晴らしさに救われました。自分の描いたキャラクターが一流の漫画家の手によって視覚化されたときはうれしくて不思議な気分でした。別天先生はキャラを把握するためにいろんな表情のカットを描いていて、プロの仕事とはこういうものなんだなと気が引き締まりました。
そうして出来上がった本に対して読者の方からお手紙をもらいました。その中で、「いままで読んだ本の中で一番面白かったです」と書いてくれた小学生の手紙にとても励まされました。まさか、デビュー作にそんな言葉をいただくなんて信じられなかったです。
――デビュー後、『暗殺教室 殺たん』シリーズでは小説を担当されましたが、JUMP j BOOKSでは珍しい横書きの小説となりました。縦書きのときとの違いや何か工夫などをされたのでしょうか。
実は、いつも第一稿を書くときは横書きです。なので書く分には違和感がなかったですが、読む側に立つと一つ問題がありました。一行の文字数が縦書きより少ないので、文章を簡潔にするように心がけました。長いと何行にもわたってしまって読みづらいですので。また、英語を文章中に入れる必要があったので、横書きになったのはありがたがったです。
『殺たん』シリーズの時は、松井先生とがっつり打ち合わせをしましたが、その打ち合わせ自体がとても刺激的でした。読み手の心理も洞察してアイデアを絞っていくやり方などは、すごいなと感じました。松井先生は二次利用作品への情熱の傾けかたも半端ではなく、『暗殺教室 殺たん センター試験から私大・国立まで! 問題集の時間(殺たんD)』では、この物語は正式に本編の続きと思ってくださいという宣言まで書き添えて下さっています。
次回更新は10月23日予定!!
新作『火ノ丸相撲』のノベライズ第3弾についてお聞きしました!
お楽しみに!!