――10月4日に新作『火ノ丸相撲 四十八手 参』が発売となりました。既刊3冊となり人気作となった本シリーズですが、どのようなところから企画がスタートしたのでしょうか?
連載スタート時から企画は始まりました。連載第一話を読んで、すぐに担当編集さんに電話して、「ノベライズやりたいです!」と直訴しました。
『火ノ丸相撲』の面白さがこの企画をスタートさせたわけです。連載が短期で終わったらどうしよう、なんてみじんも心配しませんでした。面白いから。
幼い時から相撲が好きでした。テレビで観るのも好きでしたし、学校で友達と相撲を取るのも好きでした。以前、両国に住んでいた時がありましたが相撲の聖地なので、コンビニで旭天鵬とすれ違うなんていうこともあり、相撲熱は余計に高まりました。
それだけ好きな題材だけにもし中途半端な描き方をされていたら反発していたでしょう。『火ノ丸相撲』第一話を読んだだけでそんな杞憂は消え失せました。
――小説版も大相撲編へと突入しましたが、本作の見所を教えてください。
小説版の第一作は火ノ丸が小学生横綱になったエピソードを中心に据え、第二作は火ノ丸の仲間である佑真やチヒロの過去を掘り下げたり、ライバルたちの日常に光を当てたりしました。
三作目になる本作は、火ノ丸という人間が大相撲の幕内の土俵で活躍するようになるまで、何を経験してきたかを小学生時代から追っていきます。『火ノ丸相撲』はスピード感あふれる展開のためゆったりとした日常のシーンが少なめなので、そこの部分を楽しんでもらえたらなと願っています。
また、火ノ丸にとって最大の壁、横綱刃皇のエピソードもありますのでご期待ください。担当編集の方が刃皇のことが好きすぎて、「刃皇だけで一冊行けますね!」と言っていたんですが、さすがにそれは難しいので一篇にしました。
――ノベライズ作品を多数手がけられていますが、どんなところに注意して執筆にあたりますか?
うーん、注意しているのはキャラや世界観を壊さないというごく当たり前のことくらいです。
ノベライズは原作者公認の二次創作なわけで、とても楽しく、かつやりがいのある仕事です。楽しみすぎて道を踏み外さないようにしよう、というのを気をつけているくらいですかね。公式ノベライズを読む読者にとっては、好きなキャラの歴史に新たなエピソードが刻まれるわけですから、やりがいがあるだけでなく責任重大です。
『ローゼンメイデン』のノベライズを二冊書きましたが、どちらもドールたちがジュンに出会う前の過去のストーリーです。真紅がかつてイギリスにいたことは漫画の中でほのめかされていますが、それを『ローゼンメイデン』に多大な影響を与えている『不思議の国のアリス』と直接結びつけたかったので、ノベライズでそれを実現させました。真紅と水銀燈を主人公にした『ローゼンメイデン ロートシュヴァルツ』では『不思議の国のアリス』の著者、ルイス・キャロルを登場させたり、ゴシック・ホラーの要素も混ぜたりとやりたい放題です。
原作のPEACH-PIT先生がよく許してくれたなと、いまでは冷や汗ものですけど。
――徹底的にその作品を研究し、世界に入り込むということが、ノベライズをするにあたり必要なことかと思いますが、そういった研究などからご自身の創作活動に影響があったりするのでしょうか?
ノベライズも含めて自分の創作活動ですから。影響あるかないかではなく、それが自分の創作活動です。世界観、キャラ、ストーリーを引き継いで漫画本編になってもおかしくないストーリーを新たに創造するわけですから、原作者と似たような作業をやることになるわけです。それって、すごく刺激的でしょ?
それに、自分が創造したのではない世界にどっぷり浸かることによって、いろんなジャンルに挑戦できますし、いろんな長所を吸収する必要にも迫られます。ノベライズを手がける度に、自分のスキルが一歩一歩進歩するのを感じます。
自分の著書には『キングダム』と『ローゼンメイデン』のノベライズが並んでいて、振れ幅が大きいみたいな言われ方をするときがありますが、自分では特にそうは思いません。映画の世界では一人の監督がいろんなジャンルの作品を撮るのが当たり前なので。
――アニメ、実写映画のノベライズも手がけられていますが、漫画ノベライズとの違いはどのようなところにありますか?
JUMP j BOOKSでは、アニメや実写の映像作品のノベライズはそのストーリーをそのままなぞり、漫画ノベライズはサイドストーリーを創作するという違いがあるので、その二つはほぼ別物です。もちろん例外もあり、『予告犯』では実写映画とテレビドラマの間をつなぐサイドストーリーを書きました。
映像作品のノベライズは、言葉にならない映像表現を文章で表現し直すのが一番難しいです。優れた映像作品ほどそういうシーンが多いです。その点、映画『バクマン。』のノベライズはかなり頭を悩ませました。映画では、亜城木夢叶と新妻エイジがジャンプ誌上で一位を目指してしのぎを削っているのを物理的にバトルをするという画期的な描き方をしていますが、そのまま文章にしても読者はポカーンとなってしまうので、違う描き方を選択しました。
また、進行次第では執筆当初はシナリオしか存在せず、一度書き上げた後に映像の完成形を確認してまた書き直すということもありました。『帝一の國』では当初シナリオのみしかなかったのでマンガから描写やシーンを足して補おうとしました。その後、映像を確認して、シナリオにはなかった映像表現を足したり、映像ではつながっていてもそのまま文章にしては伝わらないところを書き足したりしました。
――ノベライズに携わることでのやりがいはどんなところにありますか?
ノベライズは、映画の分野で言うと「リブート作品」を製作する作業に近いと思っています。最近、ハリウッドで優れたリブート作品が数多く生まれています。
例えばJ.J.エイブラムスが手掛けている『スター・トレック』シリーズ。あれはカークやスポックなどおなじみのキャラを登場させて、旧作と同じ世界観をベースにしつつ新たなストーリーを構築したものです。
二作目の『スター・トレック イントゥ・ダークネス』は特に素晴らしく、強敵キャラに過去の映画シリーズに登場したキャラを彷彿とさせる名前を持ってきて、「うお、あの強えやつがやってくるのか!」と名前だけで期待させてくれます。演じたベネディクト・カンバーバッチがその名を口にしたとき、映画館の客席で震えました。
しかもクライマックスでは過去の映画版の名シーンを巧妙に焼き直していて、ファンの心をわしづかみにします。そしてエンドクレジットの直前に、有名なテーマ曲を導くファンファーレが鳴り響き、涙腺崩壊して涙の海に溺れました。
とにかく、J.J.になりたいんです。J.J.みたいにファンの心をとらえて新たな喜びを生み出したいです。
次回更新は10月30日予定!!
創作の秘訣や今後の構想をお聞きしました!
お楽しみに!!