――作品を書く上でどういったことに気を付けていますか? 自分のなかで大切にしていること、読者にどのような気持ちになってもらいたいと考えていますか?
自分の読みたいものを書く、ということでしょうかね。世の中には時代の雰囲気、流れをうまくとらえて多くの人の心に響くものを作る人がいます。中田ヤスタカさんがインタビューで「作詞においては自分がない、時代をすくいとって書いているだけ」と語っていました。自分はおそらくそういうタイプではないです。
自分の読みたいものを読みたい人が世の中にはきっといるはず、と信じて書いています。それが的外れになってしまったら廃業するしかありません。
読者にこういう気持ちになってほしいというのはありません。優れた作品ほど多様な反応をもらうでしょうし、むしろ自分が想像しない反応を読者がするところを見てみたいです。
気をつけている点というのはあんまりないですが、なにか手の込んだ犯罪の手口を描く時は、少し嘘を混ぜるようにしています。万が一、自分が描いた手口を真似て実行した人がいたとしても遂行できないようにしたいという思いからです。
――作品を書く上で、資料はどのようにして集めていますか? また、集めた資料はどの程度作品に反映されるのでしょうか?
本が主です。ネットで下調べして、良さそうな本を購入するというパターンが多いですね。ノベライズでもオリジナルでも同じで、『火ノ丸相撲』でも何冊か読みました。本編にはない江戸時代の相撲について描きたかったので、そこは想像ではなく資料に基づいたものにしたかったからです。調べると、江戸時代の相撲と今の相撲では様々な違いがあることがわかりました。例えば、江戸時代の相撲の立合いでは手をつきません。お互いに声をかけ合ってタイミングを合わせます。それを相撲のシーンに使うだけでなく、ストーリーを動かすきっかけとして利用しました。
『ローゼンメイデン』では色々な事を調べる必要がありましたので、資料の冊数も増えました。『ローゼンメイデン ロートシュヴァルツ』ではルイス・キャロルの生涯をひもといた伝記本に、ヴィクトリア朝時代の風俗を紹介した本、『ローゼンメイデン ツヴィリンゲ』ではルドルフ2世を中心とした華やかで魔術的な文化を解説した本、それにヨーロッパの服飾の歴史を記した図説などです。
もちろん、足を使って調べる場合もあります。『ローゼンメイデン』のノベライズでは、大きな洋館を訪れたりガラス工房をのぞいたりもしました。
稀に、他の小説を参考にする場合もあります。『殺たん』シリーズを書くとき、あるシーンを描写するのにぜひ読まなければと思い立って読んだものがあります。ドストエフスキーです。どのシーンかは内緒です。
――創作をしているなかで原稿に行き詰まることもあるかと思います。そんなときはどのように気分転換をしていますか?
自分の場合、行き詰まった時にうんうんと力ずくでひねり出そうとしてもダメなんです。そういうときはシャワーを浴びている最中やコンビニに歩いていく途中にふとアイデアが降ってきます。文字通り、上からストンと降ってきます。これが降ってこなくなったらと想像すると、恐怖ですね。
あとは映画を観る場合もあります。映画を観ることで直接的に小説の問題点を解消してくれる場合は少ないのですが、まったく別の角度の視点を提示してくれる場合があって、助けられたことが何度かあります。
――これがなくては仕事にならない! というものはありますか? 普段の執筆環境について教えてください
執筆環境はいろいろで、家で書くときもあればカフェで書くときもあり、電車でつり革につかまりながらという時もあります。周囲の雑音はあんまり気にならないですね。
というわけでパソコンかスマホがあればいつでもどこでも書けます。前はポケットザウルスも使っていました。
他に必要なものをあえて挙げるなら、息抜きに使っている将棋アプリですね。執筆に詰まるとオンラインで対戦将棋を指します。通算成績をちょっと見てみたところ、3858勝3723敗......。7000回以上行き詰ったことになりますね。
――小説を書く際に、小説を読むこと以外で役にたったことがあれば教えてください。
たいていのことは役に立ちます。いままで見聞きしたこと、巻き込まれたこと、自分から進んで飛び込んだこと、なんでも。サラリーマン時代の経験もすごく役に立ちました。自分の場合、あの経験がなければ他者への視点をはっきりと確立できなくて、創作活動に邁進することは無理だったと思います。会社時代のことは遠回りに見えるけれど、必要な道のりだったと結果的には思います。
あと、映画をたくさん観てきたことは、エンタメ小説を書くのに直接役立っています。『キングダム』の原先生や『ゴールデンカムイ』の野田先生も映画鑑賞を創作に活かしている旨の発言をされていますが、その気持ちはよくわかります。
――今後どのような作品に挑戦したいか、また構想中の作品などあれば教えてください。
いま、小説と漫画、同時に発表する企画が進行中です。今年中に正式に企画を通したいところです。
他に歴史小説の構想がいくつかあります。それに、まだ構想すらできていませんが飛鳥、奈良時代の歴史小説はいつか書いてみたいですね。
『日出処の天子』が大好きで、いつかあんなに自由な発想の歴史小説を書いてみたいです。それより、どなたかあの漫画を実写映画化しませんか? いま映画化すればヒットすること間違いなしですよ。その映画の脚本は任せてください!
余談ですが、作家としての大きな目標で「自分の小説が香港で映画化されること、できたらジョニー・トー監督かハーマン・ヤウ監督で」というのがあります。香港で映画化された作品は意外にいろいろあって、小説では『墨攻』、マンガでは『頭文字D』などがあります。
――これからJUMPjBOOKSの小説賞に応募される方に応援メッセージをお願いします!
自分は仕事を辞めてから賞に挑戦しましたが、このやり方ははっきり言って無謀です。オススメしません。生活がとても苦しくなります! 仕事を持っている方は、仕事と応募を両立させることをまず探りましょう。仕事を辞めてから賞に挑戦するのは最後の手段にしておいたほうがいいです。
JUMPjBOOKSはノベライズ本を多く世に出している特異なレーベルですので、応募しようか迷われている方も多いと思います。ですが、編集部はノベライズだけでなくオリジナル小説をヒットさせたくてしょうがない人たちが揃ってます。迷わず応募しましょう。そしてノベライズにも興味がある方は、一緒にJ.J.になりましょう!
久麻先生ありがとうございました!!