――創作活動をしていく上でどういったことに気を付けていますか? 自分のなかで大切にしていること、小説であれば読者にどのような気持ちになってもらいたいと考えていますか?
読みにくい、話が頭に入ってきにくい、という状況は極力避けたいと思っています。シンプルでわかりやすいストーリーというのが理想です。難解で咀嚼力のいる作品は僕には書けませんし、そういうのは他の方に任せて、自分は単純に面白い娯楽を提供できたらいいなと思っています。そのためにはプロットも大事ですが、文章もかなり大事だと思っています。好きな作品の質問のところでも答えましたけど、清水義範先生の文章は理想ですね。難しい言葉も使わないから明快で、状況がパッと曇りなく理解できる。僕はまだまだその域ではありませんが。
――創作活動をしていく上で、資料はどのようにして集めていますか? また、集めた資料はどの程度作品に反映されるのでしょうか?
調べものは、ネットと書籍でほぼ事足ります。誰かに話を聞かなきゃいけないとなれば、そうしますけど、今のところはないので。
資料は、読んでもほとんど使わないことが多いです。一度、『GANTZ:G』という作品のシナリオをやったとき、登場人物に地下アイドルの子がいたので、関連書籍を読みましたけど、使ったのはその本の中の一行くらいです。匂いづけ程度ですね。でも、その匂いがあるかどうかが重要なので、どんなことでも、泥縄ですが一応は調べるようにしています。
――執筆作業をしているなかで原稿に行き詰まることもあるかと思います。そんなときはどのように気分転換をしていますか?
気分転換は散歩です。プロットを考えるのも、歩きながら考えてますね。散歩しながらアイデアを練るのって、僕の場合ですが、コツがあって、音楽を聴いたりもせず、ただ歩く。それで、最初の二十分くらいは下世話なこととか、ムカつく奴のこととか、雑念が浮かんできて、アイデアに集中できないんですけど、そこを我慢して歩き続ける。すると、だんだん雑念も消えて頭がクリアになっていくので、そうなってからいよいよアイデアを練るわけです。だから、一時間二時間、ぶっ通しで歩いてることもありますね。ダイエットにもいいです。お金もかからないし。
でも、いよいよ何も浮かばなくてニッチもサッチもいかなくなったら、さっさと寝ます。だらだらやっても効率が悪いので。
――これがなくては仕事にならない!というものはありますか? 普段の執筆環境について教えてください
ノベライズを書く時は、コミックスを読みながらメモをとるんですが、その際にレポート用紙を使います。小さいメモ用紙や大学ノート、ルーズリーフじゃダメで、レポート用紙が一番使いやすいです。そのキャラクターの設定やら周辺情報をレポート用紙に走り書きで抜き出していくんですね。別に抜き書きしなくても、そういう情報はキャラクターブックにきちんとまとめられているんですが、やっぱり自分の手で書く、自分で情報を取捨選択するっていう過程が大事だと思っています。
あと必要な物は、執筆時におでこに貼る冷却シートです。これは絶対不可欠です。ないとソワソワしますし、そうならないように買い置きを冷蔵庫で冷やしています。常温じゃなく、冷蔵庫で冷やしたやつじゃないと嫌なんです。
――小説を書く際に、小説を読むこと以外で役にたったことがあれば教えてください
「プロの小説を書き写す」というのをやったことがあるんですけど、なかなかいい勉強になりました。長編だと大変ですから、六十枚くらいの短篇でやったんですけどね。ややこしい状況を説明するときに、プロはこういう書き方をするんだ、とか、意外と漢字使ってないな、そのほうが読みやすいんだな、とか、そういうことが学べました。あと、やっていると写経みたいで落ち着きます(笑)ただ、そればかりしてると自分の原稿を書く時間がなくなりますから、一日十分だけやるとか、時間を決めてやるといいと思います。
あと、僕に関して言うと、新喜劇の現場で、フリとオチを学べたことは大きかったです。お笑いって、やっぱりフリとオチの集合体ですし、つまるところそれは物語すべてに言えることですよね。このフリがあるから、このオチで笑える、あるいは泣ける、みたいな。
舞台の場合、本番が終わるとすぐにダメ出し(反省会みたいなもの)があるんです。あそこがウケなかったのは、フリが弱かったからだ、あるいはフリとオチが離れすぎてたからだ、じゃあ途中でもう一度フリを入れようか、みたいな打ち合わせですね。
お客さんが笑うか笑わないか、お笑いの現場って結果がすぐにわかります。そういう世界で、フリとオチを集中的に学べたことは非常に大きな財産になっています。
――作家になって良かったことや大変だったことがあれば教えてください
休日だと混む場所に、平日の空いているときに行けるのは、自由業の特権ですよね。映画にしても、公園にしても。満員電車なんかも基本的には無縁ですし。
大変なのは、この先注文が来なくなるんじゃないかという不安に時々襲われることですね。これも自由業の宿命だと思いますけど。
――今後どのような作品に挑戦したいか、また、小説以外でもこんなことをやってみたいというものがあれば教えてください
ここ十年ほど、ノベライズの仕事が中心でした。今後はそれらを継続しつつ、自分のオリジナル作品も出していきたいと思っています。小説が売れないと言われているなかで、実績のない、僕のような書き手がオリジナルの小説を書いても苦戦するでしょうし、それ以前にまず本として出してもらえるかどうかもわかりません。でも、作家専業でやっている以上、自分だけの物語というものは書きたいと思っています。
小説以外だと、舞台関係で一つ野望がありまして......。 新喜劇の若手の子が単独ライブをする時なんかにコントの台本を提供しているんですが、これからは書くだけじゃなく、ちょっとだけ自分も出演しようかな、などと企んでいます。遅咲きの舞台デビューですね(笑)
――これからJUMPjBOOKSの小説賞に投稿される方に応援メッセージをお願いします!
さっきも言いましたが、僕も今、ノベライズだけじゃなく、自分の物語を書こうとしています。そういう点では、これから応募作を書こうとしている皆さんと同じ立場です。いえ、業界擦れしていないぶん、皆さんのほうが新鮮でクリアな感覚をお持ちかもしれません。
僕が書こうと、皆さんが書こうと、誰が書こうと、この世界に面白い物語が供給されるのは、とてもいいことだと思っています。一緒にがんばりましょう。最後の最後まで、気を抜かずに、いいものを仕上げましょう。
大崎先生、ありがとうございました!!